映画貧乏日記

映画貧乏からの脱出は可能なのだろうか。おそらく無理であろう。ならばその日々を日記として綴るのみである。

「ブレードランナー 2049」

ブレードランナー 2049」
ユナイテッド・シネマとしまえんにて。2017年11月4日(土)午前11時35分より鑑賞(スクリーン5/G-13)。

SF映画の金字塔といわれる「ブレードランナー」。だが、1982年の公開時の興行成績は散々だったらしい。それでも、その独特の世界観などでじわじわと評価を高め、カルト的な人気を獲得するに至った。

実のところ、オレもこの映画を劇場では観たことがない。テレビ放映で目にしたのみなのだが、それでも鮮烈な印象が今も頭に焼きついている。

そんな「ブレードランナー」に35年ぶりの続編「ブレードランナー 2049」(BLADE RUNNER 2049)(2017年 アメリカ)が登場した。前作のリドリー・スコット監督は、今回は製作総指揮に回り、「ボーダーライン」「メッセージ」のドゥニ・ヴィルヌーヴが監督を務めている。

前作の舞台は2019年だったが、今回は2049年が舞台だ。前作は、「明るい未来」というありがちな構図をひっくり返し、荒廃した退廃的な未来を描き出していたが、今回はそれがますますエスカレートしている。生態系は壊れ、植物は育たず、食糧が足りないため、人々はプロテインを食べて生きている。そんな中、貴重な労働力としてレプリカント(人造人間)が活躍している。

ただし、そのレプリカントは人類に従順な最新型のネクサス9だ。前作で反乱を起こすなどした旧型のネクサス8は、欠陥品として捜査官のブレードランナーによって取り締まられていた。

LA市警のブレードランナー・K(ライアン・ゴズリング)もレプリカントの取り締まりにあたっている。彼自身もレプリカントである。そんなある日、Kは農民となっていたネクサス8を処分する。ところが、その現場で思わぬものを発見する。それは帝王切開によって出産したレプリカントの骨だった。

レプリカントに繁殖能力はないというのが常識だ。もしも、それがひっくり返れば大変なことになる。Kの上司は真相を突き止め、すべてを消し去ることを命令する。

前作と本作の最大の共通点は圧倒的な映像美にある。前作ではスコット監督が、荒廃した未来世界を圧倒的な映像美で描いていたが、今回のヴィルヌーヴ監督も負けてはいない。前作にもあったまるで新宿歌舞伎町のような猥雑で退廃した街の姿(そのせいか日本語もチラチラと登場する)をはじめ、こだわり抜いた映像が次々に飛び出す。

もちろん未来社会が舞台だけに、テクノロジーを駆使したアイテムもたくさん登場する。その最たるものは、Kと一緒に暮らすバーチャル映像の女性ジョイ(アナ・デ・アルマス)だろう。自由自在に衣装や髪型を変え、スイッチをオフにすれば一瞬で姿を消す彼女だが、Kと心を通わせる。だが、それでも肉体を持たない彼女とKの関係には虚無感が漂う。

そうなのだ。この虚無感もまた前作と今作に共通する特徴なのだ。虚無感に覆われた世界の中で捜査を続けるKの姿には、フィルムノワール的な暗さと重さ、危うさが終始つきまとっている。そして、ヴィルヌーヴ監督の前作「メッセージ」とも共通する音楽、というかまるでうめき声のような音が、ますますノワール的なタッチを増幅しているのである。

Kは捜査を続けるうちに、前作で優秀なブレードランナーとして活躍し、レイチェルという女性レプリカントと共に姿を消したデッカードハリソン・フォード)の存在にたどり着く。その過程では、K自身が自分の誕生の経緯に対して大きな疑念を抱くようになる。

そして、ついにディックの登場だ。彼とKが遭遇するのは荒廃したラスベガス。その映像も筆舌に尽くしがたい美しさと異様な迫力に満ちている。そこに残るかつての豪華ホテルでバトルを展開する2人。その背景には、エルヴィス・プレスリーのステージのバーチャル映像が映る。何という妖しさだろうか。

終盤は、レプリカントたちの反乱組織やレプリカントを製造する天才ウォレス(ジャレッド・レト)が絡んで、Kとディックを危機にさらす。あわやの水中での戦いを経て、ラストは2人の対照的な運命を映し出す。切なさと温かさの入り混じったエンディングである。

それにしてもハリソン・フォード、御年75歳にしてこの力強い演技。終盤では水中でのアクションまで披露している。

本作は前作の良さをそのまま受け継ぎ、前作の様々な謎に答えを出している。ただし、すべてが明快に結論づけられているわけではない。観客の想像力を喚起させる余白の部分もしっかりと残している。その上で、新たな要素を加えて輝きを増した本作。2時間43分がまったく長く感じられなかった。これなら、続編を作った意義も十分にあるのではないだろうか。前作のファンはもちろん、そうでない人にとっても一見の価値があるSF大作だと思う。

●今日の映画代、1400円。事前にムビチケ購入済み。

f:id:cinemaking:20171106205501j:plain

 

◆「ブレードランナー 2049」(BLADE RUNNER 2049)
(2017年 アメリカ)(上映時間2時間43分)
監督:ドゥニ・ヴィルヌーヴ
出演:ライアン・ゴズリングハリソン・フォード、アナ・デ・アルマス、マッケンジー・デイヴィス、シルヴィア・フークスレニー・ジェームズカルラ・ユーリロビン・ライトショーン・ヤングデイヴ・バウティスタジャレッド・レトー、ウッド・ハリス、デヴィッド・ダストマルチャン、ヒアム・アッバスエドワード・ジェームズ・オルモスバーカッド・アブディ
丸の内ピカデリーほかにて全国公開中
ホームページ http://www.bladerunner2049.jp/

 

「彼女がその名を知らない鳥たち」

彼女がその名を知らない鳥たち
新宿バルト9にて。2017年11月3日(金・祝)午後2時20分より鑑賞(シアター2/D-8)。

たいていのドラマには、誰かしら共感できる人物が登場する。それが観客の感情移入を促し、感動やカタルシスにつながる。だが、沼田まほかるの小説を映画化した「彼女がその名を知らない鳥たち」には、共感できる人物がまったく登場しない。こうした作品は極めて珍しい。

主人公は十和子(蒼井優)という女。彼女は下品で貧相な15歳上の男・陣治(阿部サダヲ)と暮らしている。自ら仕事をすることもなく、彼の稼ぎのみで生活している。それでいて、陣治に激しい嫌悪感を抱き、何かと悪態をついている。

そんな十和子は、8年前に別れた黒崎(竹野内豊)のことが忘れられずにいる。ある日、十和子は妻子ある水島(松坂桃李)と出会う。そして、黒崎の面影を重ねるように彼との情事に溺れる……。

本作の主要な登場人物は、みんな嫌なヤツである。十和子は映画の冒頭で、百貨店に対して電話でクレームをつけている。大阪弁の独特の言い回しもあって、その口調が実に憎たらしい。このシーンだけで十和子が、絶対に関わりたくないような嫌な女であることが一目瞭然なのである。

その十和子に徹底的に尽くす陣治も、お世辞にも共感できる人物とは言い難い。何よりもその下品さが際立っている。食事の最中に靴下を脱ぎ、足の指をいじる。十和子が「あんたみたいな不潔な男にそんな触られ方をしたら、虫酸が走る!」と罵倒するのも、思わず納得してしまうのだ(まあ、そこまで言わんでも……という気はするが)。

そして何よりも、彼の十和子に対する接し方は尋常ではない。劇中で、十和子が黒崎を思い出して身悶えする場面がある。陣治は自らの手を使って十和子に快感を与える。しかし、自ら快感を得ようとはしない。もはやストーカーという言葉さえも陳腐に聞こえてしまうほど、病的な執着ぶり、献身ぶりなのである。

8年前に十和子と別れた黒崎も嫌なヤツだ。甘い言葉で十和子を誘い込み、利用するだけ利用する。自分の利益のために、別の男に抱かせさえする。その挙句に、十和子に重傷を負わせてポイと捨てる。まさにサイテー野郎なのだ。

その黒崎の面影を重ねて十和子が深みにはまる水島も、例外ではない。妻子がありながら、巧みに十和子をその気にさせ、どんどん虜にする。女を手玉に取るロクデナシである。

この映画の監督は「凶悪」「日本で一番悪い奴ら」の白石和彌。さすがにロクデナシを描かせたらピカイチだ。その破格の嫌さのせいで、観客は誰にも感情移入などできないのである。

だが、それで終わらないのがこの映画の面白いところだ。最初はただの嫌な女だった十和子だが、次第にその心の隙間が見えてくる。それは、どうしようもない目に遭わされても、裏切られても、まだどこかで黒崎に惹かれてしまう悲しい性である。水島との関係についても、すでに彼の行動や発言に破綻を感じ取っているにもかかわらず、それでも会いたいと押し掛ける。

そんな十和子の心理を、イメージショットなども使いながら表現していく白石監督。水島と過ごすラブホテルの天井から大量の砂が降り注ぐシーン、アパートの部屋のベッドから黒崎が佇むリゾート地の海岸へと突然転移するシーンなど、どれも鮮烈なショットである。

ドラマの転機は、突然の刑事の来訪によって訪れる。刑事は十和子に、黒崎が行方不明であることを告げる。十和子は、黒崎の失踪の背景を探るうちに、彼女の日常を監視していた陣治に対して疑念を抱くようになる。

陣治の告白によって事件は終わりを迎えるかと思いきや、その後には意外な展開が待っている。水島に対する暴力が、黒崎のそれと重ね合わされ、すべての真相が明らかにされるのだ。

最後に取った陣治の驚愕の行動。そして、その前後に映し出される彼と十和子との出会いから今日まで。はたして、陣治の行動を純愛と呼べるのか。あるいはゆがんだ愛なのか。いずれにしても、究極の愛の形には違いない。ロクデナシどものドラマが、最後には愛のドラマへと見事に転化したのである。

沼田まほかるは、「イヤミス」の代表的な作家といわれる。イヤミスとは、読んで嫌になる後味の悪いミステリーのことだ。沼田作品では、最近では「ユリゴコロ」が映画化されたが、あれも後味の悪い映画だった。しかし、今回はそれほど後味は悪くない。むしろ究極の愛の形に、心を揺さぶられる観客も多いのではないか。

俳優陣もいずれもなかなかの演技。特に蒼井優といえば、かつては“癒し系”の代表選手だったが、今では完全に脱皮して幅広い役がこなせるようになった。本作は、その中でも新たな側面を開いた作品といえるかもしれない。

●今日の映画代、1400円。だいぶ前にムビチケ購入済み。

◆「彼女がその名を知らない鳥たち
(2017年 日本)(上映時間2時間3分)
監督:白石和彌
出演:蒼井優阿部サダヲ松坂桃李村川絵梨赤堀雅秋、赤澤ムック、中嶋しゅう竹野内豊
新宿バルト9ほかにて全国公開中
ホームページ http://kanotori.com/

「バリー・シール/アメリカをはめた男」

バリー・シール/アメリカをはめた男
TOHOシネマズ日本橋にて。2017年10月25日(水)午後7時20分より鑑賞。(スクリーン8/F-15)

東京国際映画祭の会期中は、朝から会場の六本木ヒルズに足を運び、2~5本の映画を鑑賞し、その間に仕事もこなすというハードスケジュール。おかけで睡眠不足だったり食事もままならないといった日々が続いていた。

そんな中で、映画祭が始まる前に観た映画のことをすっかり忘れていた。「バリー・シール/アメリカをはめた男」(AMERICAN MADE)(2017年 アメリカ)である。

忘れていたといってもつまらなかったわけではない。なにせ「ボーン・アイデンティティー」のダグ・リーマン監督が、「オール・ユー・ニード・イズ・キル」に続いてトム・クルーズとタッグを組んだ作品だ。面白くないはずがないのである。

冒頭は1970年代後半の時代状況が提示される。そして登場する主人公のバリー・シール(トム・クルーズ)。彼は大手民間航空会社TWAのパイロットだ。操縦の腕は超一級で、フライト途中で必要もないのに自動操縦から手動に切り替えてスリルを楽しむ、なんて場面まである。

そんな彼の操縦技術に目を付けたのがCIAのエージェント。バリーは彼に勧誘されて、極秘作戦に参加することになる。それはゲリラたちの姿を航空写真で撮影するというもの。それだけなら、よくあるCIAもののドラマの展開。だが、問題はその先だ。

CIAの依頼をこなす過程で、バリーは巨大麻薬組織“メデジン・カルテル”の伝説の麻薬王パブロ・エスコバルらに目をつけられ、麻薬の運び屋として活動することになるのである。

バリーがCIAの仕事と麻薬の運び屋を両立させ、まるでビジネスマンのように業務を拡張していくところは実に痛快だ。人を雇い、大金を稼ぎ、地元の名士にまで成り上がる。妻子もノリノリで一緒に成り上がる。その一方で、CIAと麻薬組織が入り乱れて、あわやの場面に遭遇することも何度かある。

そんなバリーの活躍ぶりを、ダグ・リーマン監督はスリリングかつテンポよく描き出す。CIAや麻薬組織などというとシリアスに流れがちだが、それと正反対のユーモラスなタッチにしたのが大正解。80年代の世相も織り込みつつ、当時の音楽もタップリ流す。わざと粗っぽくした映像を使うあたりも、独特の味わいを生み出している。

とはいえ、話の展開はあり得ないことの連続。とてもリアルには思えない。しかし、このドラマは何と実話をもとにしたもの。そのことが冒頭で告げられるから、観客にとって多少のウソ臭さは気にならないはずだ。もちろん創作した部分やデフォルメした部分もあるだろうが、それにしても実話の威力は大きい。まさに「事実は小説より奇なり」を地でいく映画なのである。

こうして変わったビジネスで大成功するバリーだが、観客は同時に彼の末路に不安を持つだろう。なぜなら映画のかなり早い段階から、彼がビデオに向かって告白をする映像が何度か挿入される。どう考えても、のちの彼が危うい立場にいることが想像できる。いったい何があったのか。そこに至るまでの経緯が後半に描かれる。

あまりにも手広くビジネスを展開した結果、バリーはDEA、ATF、FBIなどの捜査当局から目をつけられる。彼らが一斉にバリーを捕まえに来て、手柄争いをするシーンが面白い。

しかし、それでもバリーは生き残る。なんと今度はホワイトハウス絡みの仕事を任されるのだ。だが、それがやがてとんでもない事態を招く。

正直なところ、結末はかなり悲惨ではあるのだが、そこもけっしてウェットには描かない。あくまでもユーモラスに、軽妙洒脱に見せている。この徹底ぶりが心地よい。

それにしても、当時のCIAやホワイトハウスのメチャクチャさときたら、あきれるばかりだ。思い付きや見当違いの見方で、どんどん暴走していくのだから。もしかして今もそうなのか? などと思わせられてしまったのである。

破天荒すぎる1人の男の人生を、ユーモアを込めてテンポよく描いた作品。エンターティメントとしてよくできた映画だと思う。

●今日の映画代、1400円。事前にムビチケ購入済み。

◆「バリー・シール/アメリカをはめた男」(AMERICAN MADE)
(2017年 アメリカ)(上映時間1時間55分)
監督:ダグ・リーマン
出演:トム・クルーズ、ドーナル・グリーソン、サラ・ライトオルセンジェシー・プレモンス、ケイレブ・ランドリー・ジョーンズ、アレハンドロ・エッダ、マウリシオ・メヒア、E・ロジャー・ミッチェル、ローラ・カーク、ベニート・マルティネス、ジェイマ・メイズ
*TOHOシネマズスカラ座ほかにて全国公開中
ホームページ http://barry-seal.jp/

 

「第30回東京国際映画祭」~その8

「第30回東京国際映画祭」~その8

第30回東京国際映画祭は本日まで。ただし、オレの出動は昨日まで。最終日の今日はプレス&関係者向け上映がないので。

昨日、11月2日の最終日は、ついに1日5作品鑑賞という暴挙を敢行。と言っても、以前も何度かやってはいるので、それほどのことでもないか。ダメな映画なら1本観ただけでも疲れるが、世界から集めた良作揃いなのでまったく問題ないのである。

鑑賞したのは以下の作品。

「スパーリング・パートナー」コンペティション部門)
~フランス映画。45歳の二流ボクサーが欧州チャンピオンのスパーリング相手に立候補し、家族のために奮闘する。敗者の美学に貫かれた作品。負け組の生き様を温かく見守っている。チャンピオンとの友情なども織り込みつつ、クライマックスの引退試合に向けて盛り上げる。ラストは素直に心が温まる。何よりもマチュー・カソヴィッツの本気のボクサー姿が魅力的。正攻法のドラマで誰でも楽しめそう。

「詩人の恋」(ワールド・フォーカス部門)
~韓国・済州島に住む詩人の男。妻は子供を望むが気が乗らない。それでも妻の希望で人工授精に踏み切る。そんなある日、彼はドーナツ店のアルバイトの青年に魅了される……。詩が効果的に使われた抑制的で穏やかなタッチの作品。ユーモアもあちこちにある。青年に対する同情と愛情の狭間で苦悩する主人公の思いが描かれる。ままならぬ人生と恋の切なさが漂う。何よりも「息ができない」の監督・脚本で日本でも評価を高めた主演のヤン・イクチュンの演技が絶品。妻役のチョン・ヘジンの演技も素晴らしい。

「アケラット-ロヒンギャの祈り」コンペティション部門)
~マレーシアで金に困ったヒロインが紹介された仕事は人身売買だった……。タイトルにあるように、前半はミャンマーから来たロヒンギャ難民の問題を背景にした社会派サスペンスの様相。だが、後半はタッチが変わり、ヒロインと彼女を支える病院勤務の青年との逃走の旅と心の通い合いを描く。アート的で詩情にあふれた映像が魅力的な作品。セリフは少なく映像の力で引っ張っていく。ヒロイン役のダフネ・ローも存在感がある。

「リーナ・ラブ」(ユース部門)
~ドイツ映画。孤独な少女リーナは、不気味な絵を描く男の子と知り合い好きになる。だが、彼を友達に取られたと思い意地悪をする。それが相手からの恐ろしい反撃を招く……。思春期の少女の心の闇を鮮烈な映像で描いた作品。特に後半のホラー的なタッチにゾクゾクさせられる。SNS、なりすまし、偽アカウントなどの若者たちを取り巻く状況も、巧みに取り入れられている。終盤での二転三転する展開も目が離せない。怖いエンターティメント映画としてよくできている。

「超級大国民[デジタル・リマスター版]」(ワールド・フォーカス部門)。
~1950年代の戒厳令下の台湾。政治活動や言論の自由は厳しく制限され、「白色テロ」と呼ばれる市民の逮捕・投獄が横行していた。そんな中、思想犯として投獄された男が、銃殺された仲間の墓を30年後に探す……。1995年の映画だがまったく色あせていない。日本統治下の台湾や、1995年前後の台湾の状況なども盛り込みつつ、権力による弾圧の恐ろしさと、それに翻弄される人々の悲しみを伝えている。

というわけで、結局のところ、期間中に鑑賞した映画は合計30本。特にコンペティション部門の15作品を完全制覇したのは今年が初めてだった。本日、その中から各賞が発表されるわけだが、自分なりの予想をして発表を待とうと思う。

それにしても、連日の六本木通い。その間に仕事もあったので、睡眠不足に加え食事時間を確保できない日も多く、またまた痩せてしまったのだが、それでもこんなにたくさんの素晴らしい映画に出会えて幸せな日々だった。関係者の皆さまに感謝するのみである。

明日から映画祭ロスになりそう……。

f:id:cinemaking:20171103102624j:plain

「第30回東京国際映画祭」~その7

「第30回東京国際映画祭」~その7

映画祭の最中は時間がないので、まともな食事がなかなか摂れない。ふだんから大したものは食べていないのだが、それがますますひどくなる。ついに今日はまったく時間がなくて昼食を抜いてしまった。しかし、あまり空腹を感じないから不思議なものだ。映画というごちそうをたくさん食べているからだろうか。な~んてことはないか。

昨日の11月1日は4作品を鑑賞。

「泉の少女ナーメ」コンペティション部門)
ジョージアの山岳地帯の村。不思議な力があるといわれる泉を代々守る家系。だが兄たちが家を出たために、ナーメという少女が父から後継者を託されるが……。何よりも目につくのが荘厳で神秘的な映像美。その中で、伝統と旧習からの自立の狭間で揺れ動く少女ナーメを抑制的に描く。恋を知り、普通の人生に憧れ始めた彼女はどんな選択をするのか。魚を象徴的に使ったラストが印象深い。

「サッドヒルを掘り返せ」(ワールド・フォーカス部門)
マカロニウエスタンの傑作「続・夕陽のガンマン」が撮影されたスペインのサッドヒルに当時映画用に作られた墓地を復活させるファンたちの活動を軸に、製作時のエピソード(橋の爆破に失敗した話や、軍隊をスタッフに雇った話など)を関係者が語るドキュメンタリー。主演のクリント・イーストウッドや音楽のエンニオ・モリコーネも登場。損得など考えずに、夢に向かって突き進むファンたちの映画愛が心にしみる。

「迫り来る嵐」コンペティション部門)
~1990年代の中国。工場の警備員の男が刑事になる夢を抱き、連続女性殺人事件の捜査に首を突っ込むが……。犯罪捜査という魔物に取りつかれ愛する人まで失う男の悲劇を、ダークで重たい世界観で描いたフィルムノワール。雨の中の追走劇や主人公の暴走など、緊迫感あふれるシーンの連続。異様な迫力で最後まで目が離せない。そして終盤に明かされるあまりにも切ない事件の真相。主演のドアン・イーホンとヒロイン役のジャン・イーイェンの演技も光る。

「ハウス・オブ・トゥモロー」(ユース部門)鑑賞。ある思想家を信奉する祖母のもとで、純粋培養のように育てられた少年セバスチャン。ある日、パンクロック好きの少年ジャレッドと知り合いバンドを組むことになるが、彼は心臓移植を受けていた……。友情、音楽、自立を生き生きと描いた王道の青春映画。乗りの良いパンクロックも満載。名女優エレン・バースティン演じるセバスチャンの祖母や、ジャレッドの父、姉など周辺の人々も良い味を出している。楽しく笑って最後は心が温まる作品。

さぁ、いよいよ本日はプレス&関係者向け上映の最終日。気合を入れて行くぜ!!

 

「第30回東京国際映画祭」~その6

「第30回東京国際映画祭」~その6

ついに6日連続で六本木へ。朝から晩まで映画を観ているので、さすがに睡眠不足気味。そんな生活もあと2日(会期はもう1日あるのだが最終日はプレス&関係者向け上映がないので)。さあ、ラストスパートだ!

昨日10月31日は3作品を鑑賞。

「グッドランド」コンペティション部門)鑑賞。
ルクセンブルクの小さな村に流れてきたドイツ人の男。彼には犯罪に絡んだある秘密があった。そして村にも大きな秘密が。やがてそれが明らかになって……。閉鎖的な村を背景に描くエロスの香り漂うサスペンス。得体の知れない不気味さはホラー的でもある。移民問題を意識したような展開も。主演のフレデリック・ラウの存在感も光る。ルクセンブルクで盛んだというブラスバンドの演奏も効果的に使用されている。

「最低。」コンペティション部門)
~AV女優・紗倉まなの小説の映画化。AV女優やその家族を描く。瀬々敬久監督らしい手持ちカメラの映像などで、苦悩する女性たちの心理をリアルに切り取っている。ネタがネタだけにエロいシーンも多いが、それにとらわれずに先入観を捨てて観るとなかなかの人間ドラマだと思う。特に女性は共感するかも。中心的な3人の女性を演じる森口彩乃佐々木心音山田愛奈の熱演も見もの。それにしても、もしもこの作品がグランプリとったりしたら、とんでもないことになるな。R15だし。

「Have a Nice Day」(ワールド・フォーカス部門)
~中国のアニメ。整形に失敗した恋人を助けようと社長の金を盗んだ運転手。それがきっかけで、ヤクザのボス、その手下、運転手の友人カップル、起業を目指す男など様々な人物が波乱に巻き込まれる。運命を変えようとして運命に翻弄されるという皮肉を、ユーモアを込めて描いている。拝金主義などへの皮肉も感じられる。自由かつ大胆なタッチで、タランティーノ的な雰囲気もあるユニークな作品。

というわけで、映画バカ、今日もまた六本木に行ってくるぜ!

f:id:cinemaking:20171101082935j:plain

 

「第30回東京国際映画祭」~その5

「第30回東京国際映画祭」~その5

昨日、10月30日は、雨もあがって気持ちの良い快晴・・・と思ったら、何だ、この凄まじい風は? 六本木ヒルズは完全な暴風。何度も歩いていて吹き飛ばれそうになり、通行規制までされる始末。

そんな中で、4作品を鑑賞。

「グレイン」コンペティション部門)
~ベルリン映画祭グランプリ受賞歴のあるトルコのセミフ・カプランオール監督の作品。ただし、英語劇。主演は「グラン・ブルー」のジャン=マルク・バール。温暖化などで荒廃し食糧不足になった世界を舞台にした近未来SF。種子遺伝学者であるエロールは、移民の侵入を防ぐ磁気壁が囲む都市に暮らしている。その都市の農地が原因不明の遺伝子不全に見舞われ、エロールは問題解決のカギを握る研究者アクマンを探す旅に出る。モノクロの静謐で壮大な映像が印象的。タルコフスキーキューブリックの映画を思い起こさせる。哲学的だったり観念的なところもあるが、地球の現状に対する問題意識は明確。

「さようなら、ニック」コンペティション部門)
~ドイツ映画だが、ニューヨークを舞台にした英語劇(一部ドイツ語)。モデルからデザイナーに転身中の女性ジェイド。夫ニックが姿を消して離婚を申し出た直後に、前妻マリアが現れて奇妙な同居生活が始まる。華やかなファッション界や超高級マンションを背景に、2人の女性の反目ぶりを中心に描くユーモアたっぷりの軽妙なコメディだが、それぞれの人物の心の葛藤や変化をキッチリとらえているのは、さすがに「ハンナ・アーレント」のベテラン女性監督マルガレーテ・フォン・トロッタだけある。

勝手にふるえてろコンペティション部門)
~昔の同級生に「脳内片思い」を10年間続けるOLのヨシカ。そんな中、会社の同僚からリアルに告白されたことから波乱が巻き起こる。絶滅危惧動物を愛し、屈折したイケてない日々を送る主人公のキャラを生かして、全編笑いが巻き起こる。コメディとしてのはじけ方がハンドでなく、ミュージカルまで飛び出す楽しさ。同時に、後半の主人公の混乱ぶりなどを中心に、青春や恋愛の本質も見えてくる。ロマンスとしての着地点も心地よく、主人公の成長も見える。大九明子監督の脚本・演出、主演の松岡茉優の演技、どちらも素晴らしい。文句なしに面白い!!

回転木馬は止まらない」(CROSSCUT ASIA部門)
インドネシア映画。ドライブするミュージシャンの3人の娘、亡妻が忘れられない男の異様な行動、強制移転に反対の活動をする男たちの悲惨な運命、エンストした車で幽霊のような男と遭遇する女性など、様々な人物を長回しで描いた群像劇。各エピソードは何を意味するのか? きっと監督たちにとっては深い意味があるのだろうが、正直オレにはさっぱりわからなかった。もしかしたら、人生や社会問題などについての深い考察が背景にあるのかもしれないが。それでもなんだか不思議な世界で、つい最後まで観てしまったのだった。

というわけで、コンペ作品の3本はどれも良かったのだが、「勝手にふるえてろ」はそれほど期待していなかっただけに、良い意味で裏切られた。松岡茉優の演技をまともに見るのは初めてだが、素晴らしすぎる演技だった。こんなに面白い映画を観たのは久々かもしれない。青春コメディとして絶対に観て損はない。12月23日より一般公開らしいのでぜひ。

ちなみに、上映後には大九明子監督、松岡茉優渡辺大知、石橋杏奈北村匠海による記者会見も拝見。

そして今日もオレは六本木へゴー!