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映画貧乏日記

映画貧乏からの脱出は可能なのだろうか。おそらく無理であろう。ならばその日々を日記として綴るのみである。

「ひそひそ星」

「ひそひそ星」
@シネマカリテにて。5月18日(水)午後12時より鑑賞。

新宿武蔵野館が秋まで休館中だ。なんでも耐震補強・改装工事による休館だそうだ。こういう場合、額面通りに受け取れないことも多く、休館がいつの間にか閉館になっていたりするケースもあるわけだが、武蔵野館に限ってそれはないだろう。なにせ平日でも、けっこうな人で賑わっていたのだから。

オレが初めて武蔵野館に行った頃は、たしか現在の3階の3スクリーンの他に、上の階にデカいスクリーンがあって、そこでロードショー公開のメジャーな映画を上映していたと記憶している。やがてそのスクリーンは消滅して、完全なミニシアターに変貌したのだが、それ以降は快進撃と言ったら言い過ぎだろうか。さっきも言ったが、土日はもちろん平日の昼間もかなりの観客が来る。シネコン全盛、ミニシアター受難の時代における勝ち組になった感がある。

そこで調子に乗った武蔵野館は、系列の映画館として新宿駅にほど近いNOWAビルの地下にもう1館のミニシアターをオープンした。2スクリーンを持つシネマカリテだ。はたして、その成否はどうだったのか? 調子に乗って商売の手を広げたら、たちまち痛いしっぺ返しを食う……というのはよくある話だが、シネマカリテの場合そうはならなかった。こちらも平日の昼間からけっこうな賑わいなのである。

ただし、その歩みは順調だったわけではない。少なくともオレが見たところでは。ちょっと前には、20世紀フォックス傘下の「FOXサーチライト・ピクチャーズ」と協力して「同映画の常設館になる!」と大々的に打ち上げたものの、その後あっさりと終焉を迎えてしまった。「あ、これでついに武蔵野館グループもヤバイのか?」(別に喜んだわけじゃありませんヨ)と思ったものの、今も何事もなかったかのように盛況が続いている。

いったい何が成功の要因なのか。一度、経営陣に取材して本でも書きたいものだが、そんなツテは一切ないのでどうにもならない。どっかの編集者が興味を持ってくれないものですかね。ギャラは安くてもいいですよ、ダンナ。「勝ち組ミニシアターの秘密」とかいう本。ソコソコ売れそうな気がするのだが。

さて、そのシネマカリテを久々に訪れた。観た映画は、園子温監督のSFドラマ『ひそひそ星』だ。冒頭は一昔前の家庭の台所風。そこで1人の女性がお湯を沸かし、お茶を入れている。これのどこがSFやねん! 昭和のホームドラマか!! と思ったら、部屋の一角にはコックピットのようなものが。そうである。これは昭和レトロな宇宙船なのである。

舞台は未来社会だ。人類は大災害と失敗を繰り返して、絶滅種に認定されている。宇宙は機械に支配され、人工知能を持つロボットが8割を占めるのに対し、人間は2割。そんな中、昭和レトロな宇宙船に乗るアンドロイドの鈴木洋子が、星々を巡って人間に荷物を届ける宅配便の仕事をしている。

園監督の映画といえば、『愛のむきだし』『冷たい熱帯魚』など活劇や激しいバイオレンスがつきもの。底知れぬエネルギーに満ちた作品が多い。しかし、この映画はまったく異質。静かすぎる作品だ。

会話はほんのわずか。宇宙船内で繰り広げられる鈴木洋子とコンピューターとの会話、鈴木洋子が自分の日常をオープンリールのテープに録音する声、そして彼女が配達のために降り立った星で住人と交わす会話。それらがなぜかすべて、ひそひそ声なのだ。

この映画の特徴は他にもある。東日本大震災被災地を人類が移住した星に見立てて、ロケを敢行しているのである。いやぁ~、これには驚いたぜ。いかにも世界の終末のような寂寥感や無常観、そして詩情がスクリーンに漂うのだ。それを観ているうちにオレは今は亡きアンドレイ・タルコフスキーの映画を思い出してしまった。

タルコフスキーといえば、核戦争を描いた『サクリファイス』という作品がある。この映画のロケ地である福島県の富岡町、南相馬浪江町とくれば当然ながら原発事故の影響が顕著。これは偶然とは思えない。園監督は原発事故を踏まえて、文明の行き詰まりというか、そういうものに対する危機感や警告を描きたかったのではないだろうか。

映画の最後に鈴木洋子が訪れるのは、大きな音をたてると人間が死ぬ可能性のある星。そこで彼女が歩く道の両側は障子のようになっていて、影絵のように人々の日常が映し出される。それは連綿と続いてきた市井の人々の営みであり、それこそが大切だという園監督のメッセージかもしれない。勝手な読みですが。

鈴木洋子を演じるのは、おなじみ園監督の奥さんの神楽坂恵。昔はグラビアアイドルだったって知ってた? 相変わらず妙な色気があるなぁ。

ちなみに、この映画は園監督が、自ら設立したプロダクションで製作したインディーズ映画で、今後は漫画や小説の原作ものはやらずに、自分のつくりたい作品をつくるらしい。本作はかなり個性的な映画だし、過去の園作品とは異質なのでネット上の観客の採点はそんなに高くないようだが、園監督のターニングポイントになる作品としても観る価値は十分にあると思う。

今日の教訓。一人の監督の作品を追っかけていくと、その変化がわかって面白いのだ。

●今日の映画代1,000円(シネマカリテは水曜はサービスデーで男女ともこの料金。ありがたや、ありがたや)