映画貧乏日記

映画貧乏からの脱出は可能なのだろうか。おそらく無理であろう。ならばその日々を日記として綴るのみである。

「マイケル・ムーアの世界侵略のススメ」

マイケル・ムーアの世界侵略のススメ」
@角川シネマ新宿にて。6月3日(金)午後12時50分より鑑賞。

「出る杭は打たれる」。余計なことを言うと、ぶっ叩かれてしまうってことですな。特にSNSの発達した今は、油断するとすぐに炎上して、ボコボコにされてしまうわけだ。なので小心者のオレは、けっこう発言に慎重になっていたりするのである。お~、コワ。

一方、自分の意見をハッキリ述べることがよしとされるアメリカでも、ズケズケとものを言うのには、それなりの勇気がいるのではないだろうか。あれだけいろんな人がいるわけだし。

そんなアメリカで、映画の中でズケズケとものを言ってきたのが、ご存知マイケル・ムーア監督だ。アメリカの銃社会を批判した『ボウリング・フォー・コロンバイン』(2002年)、ブッシュ大統領対テロ戦争の真実に迫った『華氏911』(2004年)、アメリカの医療保険問題に切り込んだ『シッコ』(2007年)など、どれも強烈なメッセージ性を持ったドキュメンタリー映画を撮ってきた。しかも、自らが突撃取材を敢行するのが彼の特徴だ。

そんな手法に対して批判も多い。「自分の主張を押し付けるのはダメ」「面白おかしく描きすぎている」などなど。要するに、ああいうのはドキュメンタリー映画ではないというのだ。しかし、それってどうなのよ? ドキュメンタリーってなんなんだ? 現実に起きていることを撮影して、それを編集したものなら、やり方はいろいろあっていいんじゃね?というのがオレの考え。自分の主張を明確にしてくれたほうが、それに対してこっちもものが言いやすいわけだし。よってマイケル・ムーアの映画は好きだし、最近の作品はほとんど観ている。

そして、また新たな作品が公開になった。『マイケル・ムーアの世界侵略のススメ』だ。む? 世界侵略? 度重なる侵略戦争が良い結果にならなかったアメリカ国防総省に代わって、「侵略者」となってヨーロッパ各国へ出かける? なんじゃ、そりゃ? まさかマイケル・ムーアも体制支持に鞍替えしたのか?

と思ったら、そうではなかった。侵略とはいうものの、アホなアメリカ政府に代わって、監督自身がヨーロッパに行って、その優れたところをアメリカに分捕ってこよう(=学ぼう)ってことらしい。反権力的姿勢は健在だ。

そして、その内容がすごい。イタリアは年間8週間も有給休暇がある。フランスは小学校の給食がフルコース。フィンランドの学校は学力トップなのに宿題ナシ。スロベニアは大学の学費が無料(外国人も)。「ホントかよ~」と驚く内容の連続である。

今回も、それらをユーモアたっぷりに突撃取材するマイケル・ムーア。ついつい笑いながら、「なるほどなぁ~」と感心させられてしまう。相変わらず巧みな語り口である。

しかも、各国の優れた点を賛美するだけではなく、それらの多くが労働組合や市民などの闘いから生まれたものであることを示している。ドイツではナチスの歴史をしっかりと教えて、二度とそういうことを繰り返さない努力をしていることも描く。

終盤近くで登場するのは女性の圧倒的なパワーだ。チュニジアでは女性たちの権利獲得運動、アイスランドでは女性大統領の誕生や企業トップの活躍などが描かれる。そして、それらの国では人々が「私たち(他人や社会)」のことを考えているのに対して、アメリカでは「私」のことしか考えないという問題点を鋭く指摘する。

さらに、驚くのは、ヨーロッパ各国の先進的な取り組みの中には、ルーツがアメリカにあるものが多いことだ。つまり、アメリカだって元々は今みたいな国じゃなかったわけだ。いったい、どこで間違えてしまったのか。そういうマイケル・ムーアの嘆きが伝わってくる。

最後に描かれるのはベルリンの壁崩壊のエピソード。これをあえて入れたのは、「アメリカの変革も決して不可能ではない」というメッセージなんだと思う。マイケル・ムーアはアメリカに絶望しつつも、まだまだ可能性を信じているのだろう。

さてさて、翻って日本を考えると、ここに出てくる多くのことは日本にも当てはまる。けっして他人事の話ではない。教育の機会均等、女性の社会進出、労働環境の改善などなど、日本もアメリカに負けず劣らず不十分。てか、どんどんヒドクなってるよね。

そんな中、日本にもマイケル・ムーアみたいな人が出てきて、腐りきった世の中にガツーンと一発ぶちかましてくれないかしら。てなことを考えてしまったのだ。まあ、森達也みたいなのもいいんだけどさ。それだけじゃね。

今日の教訓。フランスの給食は美味そうだった。オレの日ごろの食事よりよっぽど良いのだ。

●今日の映画代1000円(意外に知られていないが、角川シネマはなぜかテアトルメンバーズカードが使える。テアトル系じゃないのに。よって火曜は会員サービスデーだったのだ)