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映画貧乏日記

映画貧乏からの脱出は可能なのだろうか。おそらく無理であろう。ならばその日々を日記として綴るのみである。

「裸足の季節」

裸足の季節
シネスイッチ銀座にて。6月14日(火)午後7時より鑑賞。

ここだけの話だが、実は子供の頃のオレはかなりモテたらしい。近所が女の子ばっかりだったこともあって、彼女たちといつも一緒に遊び、その中でまるで王子様のような扱いを受けていたそうだ。人づてに聞いた話ではあるが、そんな記憶の断片が頭の隅に残っていたりもする。

しかし、オレのモテ期はそれで終わった。極めつけは高校時代だ。男子校で女っ気ナシ。学校外でも女子と触れ合う機会は皆無だった。何しろ、隣の女子高と鶴ヶ城でお茶会みたいなことをしたら、翌日教師から呼び出しを食って叱責されたのだ。江戸時代かッ!!

大学に行ってもなぜかオレの周りは男ばかりだ。社会人になっても、入社した会社は最初こそ女子社員がいたものの、数年したら男ばっかりになった。オレが何をしたというのだ。完全に不幸な星のもとに生まれているではないか。

そんなわけで、女子の会話というものにはほとんど縁のないまま今日に至ったオレだが、最近、実に魅力的なガールズトークを聞いてしまった。『裸足の季節』という映画の中で。

トルコの小さな村。10年前に事故で両親を亡くし、祖母の家で叔父たちと暮らす5人姉妹。ある日、学校帰りに男子生徒と海で遊んだことが祖母に知られ、ふしだらだと激しく叱責される。それをきっかけに、彼女たちは学校にも通わせてもらえなくなり、半ば軟禁状態に置かれる。そして、花嫁教育をされて、一人ずつ見知らぬ男のもとに嫁がされていく。そんな姉たちの姿を見た13歳の末っ子、ラーレ(ギュネシ・シェンソイ)はある計画を思いつくのだが……。

この映画には、いくつもの魅力がある。まずはガールズムービーとしての魅力だ。5人姉妹が男子生徒と海で楽しく遊ぶ冒頭近くのシーンをはじめ、キラキラした青春全開のシーンがテンコ盛り。5人姉妹がガールズトークを繰り広げたり無邪気に戯れるシーン、内緒で観戦に出かけたサッカー試合のシーンなど、彼女たちの輝きが瑞々しい映像とともに描かれる。特に光の使い方が効果的だ。同じガールズムービーであるソフィア・コッポラ監督の『ヴァージン・スーサイズ』あたりと共通する雰囲気も感じてしまった。

二つ目の魅力は、社会派映画としての魅力だ。古い因習や価値観に苦しめられながらも、そこから自由になろうとする姉妹の姿を描いて、世界中の人々に問題提起している。ただし、それを前面に押し出すのではなく、あくまでも思春期の少女たちの青春ドラマの中で描いているのが特徴。また、彼女たちを追い詰める祖母や叔父についても、古い慣習や価値観の犠牲者としての側面を示す。それによって、監督の思いがごく自然に胸に届く。女性の解放はもちろんだが、それを超えた普遍的なテーマ性が伝わる。

脚本と演出で目立つのは、場面ごとのメリハリだ。最初のころの躍動感あふれる少女たちの日常、自由を奪われ次々に結婚させられる沈鬱な展開、さらにその後に起きる衝撃的な事件、末っ子ラーレによるある計画。それぞれの展開がそれにふさわしいタッチで描かれ、同時にラーレの表情の変化がキッチリ捉えられている。

最後に用意されているのは脱出劇という魅力だ。ラーレが車の運転を習うなど準備を進め、そしてついに……というあたりは緊迫感満点。監督はトルコ出身の女性監督デニズ・ガムゼ・エルギュヴェン。これが長編デビュー作だそうだが、この人、ハリウッドのサスペンスなんかも、ちゃ~んと撮れるんじゃないかしら。そのぐらい巧みな演出である。

ラストの舞台となるのはイスタンブール。バスが街に入った時の映像が、これまた素晴らしい。姉妹の住む村とは空気感が全然違う。そんな中で、それまでの緊迫感が少しずつやわらいでいく。

ラストに待ち受けているのはすがすがしい開放感だ。そこでは、教師の転任を描いた冒頭の伏線がキッチリ回収されて、明日への希望が灯される。うーむ、素晴らしい!!

素晴らしいといえば、5人姉妹のキャストも素晴らしい。オーディションやスカウトで監督が見つけた新人で、ほとんどが演技初体験だそうだが、その初々しさがこの映画をさらに魅力的にしている。特に末っ子ラーレ役のギュネシ・シェンソイがキュート!! 

声高な主張を展開しがちなテーマを、こういう瑞々しい青春ドラマ&脱出劇として描くアイデアユニーク。美しい映像も見事だ。あちこちの映画祭で評判になり、第88回アカデミー賞外国語映画賞にもノミネートされたというのも納得。女性だけでなく、男性にもぜひ観てもらいたい必見の一作である。

今日の教訓 闘う女はたくましく美しい。

●今日の映画代1500円(前売り券購入。ただし、珍しく数人連れだって映画館に行ったので、帰りに沖縄料理の店で散財してしまった……。あー、バカバカ!)