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映画貧乏日記

映画貧乏からの脱出は可能なのだろうか。おそらく無理であろう。ならばその日々を日記として綴るのみである。

「葛城事件」

「葛城事件」
シネマ・ロサにて。6月19日(日)午後1時20分より鑑賞。

山口百恵に特に思い入れはない。思い入れはないが曲はよく知っている。『ひと夏の経験』『横須賀ストーリー』『イミテイション・ゴールド』『秋桜』『プレイバックPart2』『いい日旅立ち』などなど。時代を彩った歌姫であり、けっこう近い世代だっりするから当然だろう。

ただし、何度も言うように思い入れはない。なので、彼女が三浦友和と結婚した時も特別な感情はなかった。「あら、引退しちゃうの。もったいないわねぇ~」てなぐらいである。しかし、その時に気になったことがある。「友和ってちゃんと役者で食っていけるのか?」。当時は甘いマスクで青春映画を中心に活躍してはいたが、やがて年を取ってどんな役者になるのか、オレにはまったく想像がつかなかったのだ。(まあ、人のことを心配するより、自分のことを心配しろって話ですがネ。)

しかし、その心配が杞憂に終わったのは皆さんご承知の通り。年齢を経ても、というか経るうちに、三浦友和にはいぶし銀の存在感が加わり、日本映画界の中で確固たる地位を築くに至っている。最近でも『64 ロクヨン』の主人公の元上司の刑事役で、出番は少ないながらも実に味のある演技を見せていた。

そんな三浦友和主演の映画が『葛城事件』である。家族をめぐるドラマ。親から引き継いだ金物屋を営む葛城清(三浦友和)。妻・伸子(南果歩)と長男・保(新井浩文)、次男・稔(若葉竜也)と郊外の一軒家で暮らしていた。だが、理想の家族に執着する清が家族を抑圧的に支配するようになる。やがて保は会社からリストラされたことを誰にも言い出せず、稔はバイトも長続きせず“一発逆転”を夢みるようになる。そして、稔は無差別殺傷事件を起こしてしまう……。

この映画の脚本と監督を担当した赤堀雅秋は、劇作家で演出家(ついでに役者もやるらしい)。自作の舞台を映画化した前作『その夜の侍』で鮮烈な映画デビューを飾った。最愛の妻をひき逃げした犯人への復讐に燃える男と、反省ゼロの犯人を緊張感たっぷりに描いた映画だ。特に舞台劇の映画化なのに、映画的なツボをしっかり押さえているのに感心させられた。本作も同様に舞台劇の映画化。会話中心のドラマなので多少芝居っぽいところはあるものの、基本的にはきちんとした映画作品になっている。

冒頭は、主人公の葛城清が自宅の壁に書かれた落書きを消しているシーン。そう、彼の次男の稔は無差別殺傷事件を起こし、死刑判決を受けたのだ。続いて、彼と獄中結婚した死刑廃止論者の女・星野(田中麗奈)が登場し、清と会話を交わす。そんな現在進行形のドラマと並行して、稔が事件を起こすまでの過去が描かれる。

金物屋を継いだ清は、かなりアクの強い人物だ。家族を強圧的に支配していく。自分の思い通りにならないことは認めず、どんどん家族を追い込んでいく。演じる三浦友和の崩れっぷりもハンパない。というわけで、彼が家庭崩壊の元凶であることは明らかだが、実はその背景には理想の家族を求める強い思いがある。それゆえ、単純に悪人と捉えることはできない。

そして、他の家族も欠陥を抱えている。妻の伸子は清に言われるまま耐え忍ぶだけ。従順に育ってきた長男・保は会社からリストラされたことを妻にも言い出せない。デキの悪い次男・稔はバイトも長続きせずに周囲に不満を募らせる。おまけに稔と獄中結婚した星野も、かなりアブない雰囲気の女だ。

では、彼らは特殊な人間なのか? けっしてそうではないだろう。程度の違いはあれ、彼らのような人物はどこにでもいそうだ。映画の中盤で、夫に耐えかねた伸子はついに稔を連れて家出する。2人が暮らすアパートを保が訪れたシーンでは、実になごやかな家族のだんらんが繰り広げられる。しかし、そこに清が登場することで、一挙に修羅場が訪れる。崩壊家族とそうでない家族との差は、紙一重なのかもしれない。

さらに後半で描かれるのは、保も稔も幼かったころの幸せな家族だ。念願のマイホームを手に入れ、希望にあふれている。葛城家にも、そういう時代があったわけだ。いったいその輝きを消したものは、何だったのか。その幸せの絶頂期に、記念に植えたミカンの木がラストで重要な役目を果たす。そして何とも重苦しく、やりきれないエンディングへ。

映画にカタルシスや楽しさを求める観客は、絶対に観ないほうが良い映画である。人間の弱さや心の闇などのイヤな側面が、グイグイと突き付けられる。清の言動もひどければ、死刑囚になった稔の言葉に至っては虫酸が走るほどの気持ちの悪さだ。

しかし、それでも目が離せないのは、彼らのそういう部分が普通の人間の中にも内在しているからだろう。ほんのちょっと歯車が狂えば、自分たちも葛城家のようになってしまう怖さがある。前作に引き続き赤堀雅秋の映画には凄味がある。そういう点で、観る価値は十分にあると思う。

今日の教訓 こういう映画を観ると、妻子なんていなくてよかったわぁ~と思ってしまうのだ。

●今日の映画代1400円(前売り券にて鑑賞。相変わらず池袋のシネマ・ロサは古いが味のある映画館だ。シネコンではこうはいかない。何とか頑張ってほしいものである。)