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映画貧乏日記

映画貧乏からの脱出は可能なのだろうか。おそらく無理であろう。ならばその日々を日記として綴るのみである。

「二重生活」

「二重生活」
新宿ピカデリーにて。6月26日(日)午後2時5分より鑑賞。

「あなたの裏の顔を見てみたい」てなことを言われても、それは不可能だ。何しろオレには裏の顔がない。仕事があれば仕事をして、仕事がなければ映画館に行って、その合間にいつ日の目を見るかわからない脚本を書く毎日だ。That’s All.それがすべて。ほかに隠すことなど何もない。

しかし、世の中には裏の顔を持つ人がけっこういたりするわけだ。不倫とかをしちゃう既婚者も、そこそこいたりするらしい。ちなみに、オレは不倫などしない。だって、奥さんがいないから不倫とかにならないわけですヨ。アハハハハ……。

などと自嘲している場合ではない。まあ、オレに妻がいて不倫する機会があったとしても、絶対にそんなことはしないだろう。別に倫理観が高いわけではなく、そんな金があれば映画につぎ込むからだ。ビバ! 映画。映画館で死にたいぜ!!

そんなことはともかく、裏の顔を持つヤツの人生を覗き見するのは、けっこう楽しいのかもしれない。だって、テレビのワイドショーなんて、それと似たようなもんでしょ?

小池真理子の小説の映画化『二重生活』は、他人の私生活を覗き見る映画だ。大学院で哲学を学ぶ白石珠(門脇麦)は、修士論文を書くにあたって、担当教授の篠原(リリー・フランキー)から、ひとりの対象を追いかけて生活や行動を記録する「哲学的尾行」を実践するように勧められる。戸惑いつつも、たまたま見かけた隣人の石坂(長谷川博己)を尾行するようになる珠。立派な一軒家に妻子と暮らし、理想的な家庭人に見えた石坂だったが、次第に秘密の顔が明らかになる。珠はどんどん尾行にのめり込み、同棲中の恋人・卓也(菅田将暉)との関係にも変化が訪れる……。

映画は誰かの人生を覗き見るようなものだが、この映画は映画の中でも他人の人生を覗くという二重構造だ。それをドキュメンタリータッチのリアルな映像で描くものだから、面白くないはずがない。監督の岸善幸は、芸術祭大賞を取った『ラジオ』というNHKドラマで知られるが、もともとはドキュメンタリー畑の人。こういう映画は大得意なのだろう。

まあ、はっきり言って石坂のやっていることは、ありがちな下世話すぎる行動である。豪華な一軒家に妻子とともに暮らしながら別の女と……て、ただの火遊びじゃん! にもかかわらず、珠の目線で石坂の姿を臨場感たっぷりに見せていくので、つい引き込まれてしまう。

それと同時に珠の微妙な心情の揺れ動きも描かれる。劇中で珠自身が吐露する場面があるのだが、彼女の過去には色々あって「自分が空っぽ」だと感じている。その空疎さが恋人との関係にも影を落としている。そんな彼女の空虚な部分が、尾行によって埋められていくという皮肉な現実。そして、珠は自分の内面と向き合うことになる。表情のアップを中心に、珠の心理の変化を繊細に描く映像が出色だ。

後半は珠の尾行がバレて大変なことになる。ヒリヒリするような対決シーンを経て、珠は篠原も尾行する。実は彼にも大きな秘密がある(個人的には、篠原を対象にしたこの尾行は、もう少し早く始めてもよかった気がする。映画の冒頭とラスト近くの衝撃的な出来事を考えれば、なおさらそうすべきではなかったか。原作モノということもあり、そのへんも含めて全体的にやや構成がこなれていない感じもした)。

ともあれ、尾行という行為を通じて珠は成長する。人間だれしもマイナスの心や、裏の顔を抱えていることを理解する珠。それによってようやく自分を肯定した彼女の、ラストの表情が実に良い。このドラマの背景には、「なぜ人は生きるのか」という哲学的テーマがあるが、それを大上段に構えるのではなく、尾行という危険な行為を通して描いたところが秀逸だ。

主人公の繊細な心理変化を演じ分けた門脇麦の演技も印象的だ。この子、以前から注目していたが、今後もますます楽しみである(別に濡れ場があるからホメてるわけじゃねえぞ。スポーツ新聞やオヤジ週刊誌じゃねえんだから!)。

おっと、つい興奮してしまいましたが、篠原を演じたリリー・フランキーの存在感も相変わらず素晴らしい。一風変わった映画だが見応えは十分。一見の価値アリだと思いますヨ。

今日の教訓 たまに尾行したくなるヘンな人がいるけど、やめときましょう。バレたらヤバイので。

●今日の映画代1400円(事前にムビチケ購入しときました。抜かりはありません。貧乏なので。)