映画貧乏日記

映画貧乏からの脱出は可能なのだろうか。おそらく無理であろう。ならばその日々を日記として綴るのみである。

「日本で一番悪い奴ら」

「日本で一番悪い奴ら」
池袋シネマサンシャインにて。6月27日(月)午後1時より鑑賞。

故・若松孝二監督は、おまわりが大嫌いだったらしい。オレは若松監督のように、おまわりが嫌いなわけではないが、街中で警察官を見るとつい緊張してしまうのはなぜか。別に悪いことなどしていないのに、である。

そういえば数年前に近くの映画館に行こうとしたら、二人組の警察官に職質されてカバンの中を見せろと言われたことがある。モメて上映開始に間に合わなくなるのも嫌なので、おとなしくしていたが、今考えればずいぶんと失礼な奴らだ。だって、職質のあと奴らのうちの一人が、もう一人の警察官に向かって「職質とはこうやるものだ」的な講釈を述べていやがったのだ。後輩の指導の実験台にすんじゃねえよ!!

ちなみに、若松孝二が日活ロマンポルノの監督になったのは、「裸さえ出せばおまわりをやっつけようが何しようが好きにしていい」と言われたからだという。本当にそれを実行してしまうのだから、よっぽど警察が嫌いだったのだろう。あんたはエライ!!

そんな若松孝二のもとでも修業したらしい白石和彌監督の新作が公開になった。『日本で一番悪い奴ら』である。

柔道の実力を買われて北海道警察に入った諸星要一(綾野剛)。まもなく刑事となり、機動捜査隊に配属される。マジメすぎる諸星刑事だったが、先輩刑事の村井(ピエール瀧)は「刑事は点数を稼がなきゃダメだ」と言い放つ。村井はヤクザともズブズブの関係で、スパイを使って成績を上げている。諸星もそれを見習って行動するようになり、裏社会に飛び込んで協力者となるスパイをつくり、暴力団幹部の黒岩(中村獅童)とも兄弟分になる。覚醒剤や拳銃の摘発を重ね、着実に実績を残していく諸星だったが……。

白石監督の前作『凶悪』は、死刑囚の告発をもとに、殺人事件を起こしたワルたちをリアルに描いていった映画。今回もワルを描くと聞いて、そのイメージで観たら今回は全然違っていた。悪徳警官というワルを描いてはいるが、これは完全にコメディー映画だ。主人公の諸星の暴走を、面白おかしくテンポよく描く。

漫画みたいな大げさな表現がテンコ盛りだ。諸星がマル暴に異動になった時なんて、服装からしぐさまでヤクザそっくりに変身。それも、昔のヤクザ映画に出てきそうなデフォルメされたヤクザだ。クラブで豪遊して、そこのホステスと懇ろになるあたりも、完全に昔のヤクザ映画。それを演じる矢吹春奈も、昔の東映映画とかに出てきそうだ。それ以外にもアホなシーンが満載。犯人に仕立てた男と諸星が警察署の前で記念写真を撮るなんて、ハジケ過ぎて笑うしかないではないか。

その後、新設の銃器対策課に異動になった諸星は、ますますワルぶりに磨きをかける。違法捜査のオンパレード。しかも、組織がそれを後押しする。成績を上げるために、わざと銃を密輸させて摘発するヤラセ捜査を公認。それに乗った諸星は課のエースになる。そのエースに署のカワイ子ちゃんが接近するなんて典型的なパターンもある。はては、資金稼ぎのために自ら覚醒剤を売りさばく諸星。

この映画には青春映画的な要素もある。仲間とともに悪事に精を出し成り上がっていく諸星と協力者たち。そこには、ハリウッドのギャングの成り上がり青春映画のような雰囲気が漂う。一説では白石監督は『グッドフェローズ』の線を狙ったらしい。ヤツらったら、やってることはワルだけど一生懸命だものねぇ。

しかし、後半は笑っていられなくなる。税関も巻き込んだ大ヤラセ作戦が失敗に終わり、危ない目にあう諸星。そこからが転落の始まり、どんどん転げ落ちて、ついに……。

勧善懲悪の映画ではないが、ラストは哀れさが漂う。アホでワルな諸星だが、とにかくまっすぐに生きて組織を信じているものだから、なおさらだ。ハジケた演技に加え、陰影のある表情で諸星を演じた綾野剛の演技も見事である。

この映画は実話を基にしたフィクション。諸星のモデルになった北海道警察の元警部の告白本が原作だ。けっして社会派の映画ではないが、冒頭で実話ベースのドラマであることが告げられ、ラストで事件の顛末を知らせられただけで、何ともやるせない気持ちにさせられる。そのあたりに、警察嫌いの若松孝二のDNAを感じ取ってしまうのは、オレの勘繰りすぎだろうか。

今日の教訓 警察官を見たら悪い人だと思え!?

●今日の映画代1400円(久々の池袋シネマサンシャイン。最近のシネコンのような快適さはないが、いい味を出しています。)