映画貧乏日記

映画貧乏からの脱出は可能なのだろうか。おそらく無理であろう。ならばその日々を日記として綴るのみである。

「シング・ストリート 未来へのうた」

「シング・ストリート 未来へのうた」
ヒューマントラストシネマ有楽町にて。2016年7月21日(木)午後6時50分より鑑賞。

音楽映画はたくさんあるが、気に入った映画がそうあるわけではない。特に嫌なのが、音楽を単なるネタにしているだけの映画だ。そういう映画の多くは一見もっともらしく描かれていても、実は音楽に関するシーンがいい加減だったりする。それでは困るのだ。

ロックを扱った映画となるとなおさらだ。ロックはハートだ! 魂だ! 反逆だ!(あくまでも個人の感想です)。そのハートや魂や反逆の意志が、きちんとスクリーンに刻まれていなければ、ロック映画と呼ぶわけにはいかない。素人は騙せても、バンドをやっていた(といっても売れないバンドでしたが……)オレを騙せはしないぜッ!

てな硬派なことを言いつつも、内心では女の子にモテたいからバンドを始めただけだったりもするのだが、それもまたロックの真実。うむ。とにかく、音楽(ロック)映画というからには、そういうリアルなバンドマンの姿をキッチリと描き出してほしいわけですヨ。

そして久方ぶりに、そういう映画に出会ってしまったのだ。『シング・ストリート 未来へのうた』(2015年 アイルランド・イギリス・アメリカ)。ジョン・カーニー監督は、『はじまりのうた』『ONCE ダブリンの街角で』などの音楽映画でおなじみ。それだけに期待は高かったが、その期待をはるかに上回る映画だった。

舞台は大不況にあえぐ1985年のアイルランドの首都ダブリン。父親の失業で優秀な私立校から荒れた公立校への転校を余儀なくされた14歳の少年コナー(フェルディア・ウォルシュ=ピーロ)。だが、そこは掃きだめのような場所で、コナーはイジメの標的になる。一方、家庭では両親が不和で離婚間近。コナーの唯一の楽しみは、音楽マニアの兄ブレンダンと一緒にミュージックビデオを観ることだった。そんなある日、街で見かけた少女ラフィーナ(ルーシー・ボーイントン)に心を奪われたコナーは、自分のバンドのビデオに出演しないかと誘ってしまう。慌ててメンバーを集めて、即席のバンドを結成。音楽マニアの兄のアドバイスを受けながら猛練習を開始するコナーだったが……。

ストーリー自体はありがちなものかもしれない。だが、これがキラキラと輝く見事な青春映画に仕上がっているのだ。何しろ躍動感がハンパではない。超ユニークなメンバーを集めて、最初はぎこちないながら、次第に上達していくバンド。当時の流行も取り入れつつ、やがてオリジナリティーを獲得していく。その練習風景やビデオの撮影風景(いかにも80年代風ビデオに苦笑!)など、すべてに嘘がないし、常にワクワク感が漂う。さすがに音楽映画を作らせたら天下一品のカーニー監督だ。かつて自分がバンドをやっていた時代をついつい思い出したオレは、甘酸っぱい思いにとらわれてしまったのである。

劇中に登場する音楽は、デュラン・デュランザ・ジャムザ・キュアーをはじめとする当時のヒット曲。この使い方が見事だ。そして、それ以上に素晴らしいのが劇中でコナーたちが結成した「シングストリート」というバンドのオリジナル曲。その一曲一曲がドラマの内容とシンクロして心にしみてくる。これは絶対にサントラ盤が買い!(て、すでに購入しちゃいましたヨ)

コナーがバンドを始める目的が、単に女の子にモテたいからだというのもウレシイではないか。最初はみんなそうなのよ。そこからやがて、本物のハートや魂を獲得していくんだよなぁ~。

てことで、バンド活動と並行して描かれるコナーの初恋物語ラフィーナに対するコナーの初々しくて切ない思いが、クッキリとスクリーンに刻み付けられている。実は、ラフィーナには年上の彼氏がいて、それがコナーとの関係にも影を落とし、このロマンスをますます切なくさせてくれるのだ。一方、学校でもコナーの前には、イジメっ子や強圧的な校長などが立ちはだかる。それを乗り越えていくところも青春映画らしい展開だ。

映像も素晴らしく、印象的なシーンが数限りなくある。例えば、ビデオ撮影で会場に来ないラフィーナを思いながらコナーが歌うシーン。コナーの目の前には空想の世界が広がる。ビデオ撮影でラフィーナが海に飛び込んでしまうシーンも鮮烈。これが青春だ!(昔のドラマではありません)

極め付きはクライマックスの学校でのライブシーン。ここに至って、コナーは校長への反逆を試みる。ほら、ほら、ほら、ロックは反逆でしょう? みんなそうやって成長していくのですよ。そして予定調和的とはいえ感動的な展開へ。

コナーたちの旅立ちを描くラストも素晴らしい。それは彼らの成長を物語ると同時に、閉塞感に包まれた当時のアイルランドの人々の思いを代弁したものだろう。そこで兄のブレンダンが見せるガッツポーズがすべてを象徴している。「どんなひどい状況にあっても、そこに必ず喜びがある」という監督たちのメッセージがオレにはしっかりと伝わってきた。旅立つコナーは、まさに熱いハートと魂を持ったロッカーだ。彼とラフィーナのその後が気になって仕方がない。

断言しよう。青春映画の必須要件であるキラキラさと切なさ、そして甘酸っぱさを余すところなく描き、素晴らしい楽曲も詰め込んだ本作は、音楽青春映画の傑作だ!

今日の教訓 やっぱりバンドはいいよなぁ~。

●今日の映画代1300円(映画仲間とともに鑑賞。帰りに有楽町の中華屋で紹興酒を痛飲。4000円も使ったけどまあいいか。)