映画貧乏日記

映画貧乏からの脱出は可能なのだろうか。おそらく無理であろう。ならばその日々を日記として綴るのみである。

「ヤング・アダルト・ニューヨーク」

「ヤング・アダルト・ニューヨーク」
TOHOシネマズみゆき座にて。2016年7月28日(木)12時35分より鑑賞。

子供の頃は、こんな年になる自分を想像もできなかった。まあ、死ななけりゃ当然こういう年にもなるわけだが、それにしたって何なんだ?今の自分は。全然大人になっていないではないか。もちろん肉体的には大人だが、中身はずーっとガキのまんまなのだ。まったく困ったものである。

そういう「大人になれない大人」が世界中にたくさんいるのだろう。『イカとクジラ』(2005年)、『フランシス・ハ』(2012年)(←これは必見!)など、インディーズ系を中心に秀作を送り出しているノア・バームバック監督の『ヤング・アダルト・ニューヨーク』(2014年 アメリカ)の主人公も、ニューヨークの大人になれない大人である。

8年間も新作が完成していないドキュメンタリー映画監督のジョシュ(ベン・スティラー)と、プロデュ―サーで妻のコーネリア(ナオミ・ワッツ)。子供のいない2人は40代になっても若いつもりでいたが、何となく自分たちに欠落したものがあると感じるようになる。そんなある日、ジョシュは講師をしているアートスクールで、20代の聴講生カップルから声をかけられる。監督志望のジェイミー(アダム・ドライバー)と妻のダービー(アマンダ・サイフリッド)。自由でクリエイティブに生きる2人に刺激を受けたジョシュとコーネリアは、再び活力を取り戻していくのだが……。

前半から中盤にかけて描かれるのは、40代カップルのジョシュ&コーネリアと20代カップルのジェイミー&ダービーの交流。それがバームバック監督らしいシニカルなユーモアとともに描かれる。

二組のカップルの対比が面白い。中年のジュショ&コーネリアは、時代に乗り遅れたくないとSNSを使いまくっている。それに対してクリエイティブに生きる若いジェイミー&ダービーは、LPやVHSテープといった古いものを愛している。この逆転現象ともいえる設定がユニークではないか。

ジェイミー&ダービーと触れ合ううちに、ジョシュ&コーネリアは少しずつ人生に活気を取り戻して、積極的に外に出歩くようになる。中年の2人は、いわば大人になり切れないモラトリアム世代。それに対して、若い2人は自由でポジティブで野心丸出しで生きる世代。まったく性質の異なる世代による化学変化ともいえる展開だ。

ところが、中盤から終盤にかけて事態は一変する。ジェイミーはドキュメンタリー映画の製作に乗り出そうとして、ジョシュに協力を求める。しかし、そのウラには実はある嘘が隠されている。それを知ったジョシュは思い切った行動に出る。

コーネリアの父親である有名映画監督も絡んだ波乱のクライマックス。そこで単純な勧善懲悪劇のような方向に走らないのが、いかにもバービック監督らしいところ。

そんなあれこれを通して、ジョシュはようやく自分を自覚して、新たな一歩を踏み出す。その成長のドラマと同時に、世代間ギャップを全編で大きく取り上げているのがこの映画の特徴。ラストでスマホを巧みに操る幼児に唖然とするジョシュが映るが、これもまた世代間ギャップを浮き彫りにした描写に思える。ああいう子が成長したら、どんな大人になるんでしょう。楽しみなような、恐ろしいような……。

中年カップルを演じたベン・スティラーナオミ・ワッツ、若いカップルを演じたアダム・ドライバー&アマンダ・サイフリッドが、いずれも適役だ。それもこの映画の見どころ。

主人公の中年カップルに年齢が近い観客にとっては、ちょっとイタいドラマかもしれない(誰しもああいうところはあるからね)。それでも人生のおかしさや哀愁が漂ってくるのは間違いない。個人的には、何となくウディ・アレン監督の作品に似た空気を感じたのだが、どうだろう。バームバック監督の今後の作品からも目が離せない。

今日の教訓 ジョシュはちょっと大人になった感じだけど、オレは相変わらずガキのまんまだぜぃっ!

●今日の映画代1400円(公開後なのにまだムビチケ売っていた。)