読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

映画貧乏日記

映画貧乏からの脱出は可能なのだろうか。おそらく無理であろう。ならばその日々を日記として綴るのみである。

「トランボ ハリウッドに最も嫌われた男」

「トランボ ハリウッドに最も嫌われた男」
TOHOシネマズシャンテにて。2016年7月31日(日)午後1時35分より鑑賞。

日本に言論・思想の自由はあるのか?別に政府批判をしても、すぐに警察が飛んでくるとかいうことはないから、そういう意味では自由はあるのかもしれない。しかし、たとえば周囲と異なる意見を吐露したことによって、ご近所だの会社だので白眼視され、冷たい仕打ちを受けるなどということはよくあることだ。

オレにしたってフリーランスでいるからまだいいものの、もしも会社員で社内でちょっとした拍子に安倍政権の批判をしたり、「原発廃止!」などと言ってしまったのが、安倍熱烈信者の社長に聞かれてアラアラアラ……などという悲惨な末路だって、ありえないわけではないだろう。

なにせ戦争中の日本は、実際にそういう恐ろしい社会だったわけだ。「戦争反対!」などと叫ぼうものなら、密告されて憲兵に連行されて、とんでもない目に遭っていたのだ。弾圧されて死んだ人だってたくさんいるのだ。これからだって、そうならない保証はないはずだ。

あのアメリカだって然りだ。第二次世界大戦中、米ソは協調関係にあったため、アメリカでも共産主義に対して寛容な雰囲気があった。しかし、第二次世界大戦が終結し、米ソ冷戦体制が始まるとともに、アメリカでは共産主義的思想は徹底的に排除されるようになる。いわゆる「赤狩り」だ。その糾弾の矛先はハリウッドにも向けられた。

というわけで、そこで標的になった「ハリウッド・テン」と呼ばれる人々のうちの一人、脚本家のダルトン・トランボの伝記映画が『トランボ ハリウッドに最も嫌われた男』(2015年 アメリカ)だ。監督は『ミート・ザ・ペアレント』のジェイ・ローチ(って、ちょっと意外な感じですが)。

第二次世界大戦が終結し、米ソ冷戦体制が始まると、アメリカでは赤狩りが猛威をふるうようになる。そんな中、ハリウッドの売れっ子脚本家トランボ(ブライアン・クランストン)は下院非米活動委員会への協力を拒んだために、議会侮辱罪で投獄されてしまう。1年後に釈放された後も、ハリウッドのブラックリストに載った彼に仕事の依頼が来ることはなかった。トランボは家族を養っていくためにB級映画専門の製作会社から格安の仕事を請け負い、偽名で脚本を書きまくるのだが……。

トランボは、初めは売れっ子脚本家でお金持ち。にもかかわらず共産主義思想に共鳴するというギャップが面白い。それが赤狩りに巻き込まれ、ついに刑務所に入れられてしまう。

しかし、ここからが彼の真骨頂。すでにあの名作『ローマの休日』を別の脚本家の名前を使って書いていたトランボは、家族を養うために偽名を使ってB級映画の脚本を大量に書きまくる。おまけに、同じく職をなくしていた脚本家仲間にも仕事を斡旋。それは単に金を稼ぐだけでなく、彼なりの権力との戦いだったのだ。権力とまともに戦っても勝てないとふんだ彼は、したたかな戦略で連中の弾圧を無力化しようとしたわけである。

もちろん、その陰には様々な苦労があった。仲間との意見の食い違いや悲しい別れ、裏切り者の存在、そしていつまでも彼を狙い続ける敵の人々。それでも不屈の闘志で、彼は前に進んでいく。

いわば権力の弾圧と闘った男の偉人伝ではあるものの、そういう側面を強調しすぎずに、様々なエピソードをつないで「人間トランボ」を描き出しているのがこの映画の特徴。

家族のドラマも大きなポイントだ。常に妻や子供のことを大事にするトランボだが、自身の過酷な運命が家族にも影響を及ぼす。偽名で遮二無二脚本を書くようになってからは、ますます家族を巻き込んで犠牲にしてしまう。そんな家族愛と確執のドラマが描かれる。

ドラマの背景には、権力による思想弾圧という社会的テーマがあるわけだが、何かを声高に訴えるようなことはない。ヘレン・ミレン演じるコラムニストを憎き敵役にして、観客の怒りをかき立てたり、最後にカタルシスを体験させるなど、エンターティメントとしての魅力もタップリの映画だ。ユーモアもところどころに織り込んで(ジョン・グッドマン演じるB級映画会社の経営者の言動などは爆笑モノ)、テンポよく描く。

映画界の話だけに、名作映画なども効果的に使われる。ジョン・ウェインカーク・ダグラスをはじめとする俳優や映画監督も実名で登場。そういう様々な側面のおかげで、最初から最後まで楽しく見られる。

トランボを演じたブライアン・クランストンは、テレビシリーズ「ブレイキング・バッド」で知られるそうだが、これが絶品の演技。実に魅力的なトランボ像を生み出している。彼の妻役のダイアン・レイン、娘役のエル・ファニング、そして先ほども挙げたコラムニストを演じるヘレン・ミレンなどのアンサンブルも見逃せない。

信念を曲げずに、したたかに敵と対峙したトランボ。この映画も社会的テーマを前面に出さず、したたかに観客に向き合っている感じがする。こういうしたたかさこそ、ヒタヒタと権力者の魔の手がしのびよる今の時代には大事かもしれない。そういう意味でも観る価値十分の映画だと思う。

今日の教訓 ものすごい勢いで脚本を書くトランボ。オレにもあのぐらいの能力があったら、今頃もっと売れてたろうなぁ。

●今日の映画代0円(TOHOシネマズのポイントが6ポイント貯まったので、無料で鑑賞できたのだ。それだけたくさん映画を観た証拠だが、それでも得した気分。)