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映画貧乏日記

映画貧乏からの脱出は可能なのだろうか。おそらく無理であろう。ならばその日々を日記として綴るのみである。

「角川映画祭」その1~「人間の証明」

角川映画祭」その1~「人間の証明
2016年8月3日(水)角川シネマ新宿にて。午前11時より鑑賞。

1970年代半ばから80年代にかけて、日本映画界において大ブームを巻き起こした角川映画。当時の角川書店、ないしはそのボスだった角川春樹率いる角川春樹事務所によって製作された個性的な映画の数々だ。市川崑深作欣二、大林信彦、澤井信一郎相米慎二崔洋一……など登場した監督の名を挙げればきりがないし、松田優作薬師丸ひろ子原田知世高倉健草刈正雄など俳優の名前もきりがない。若い人にはわからんだろうが、オッサン、オバサンにとっては垂涎ものの世界なのだ。

というわけで、初デジタル化作品も含めた角川映画を一挙に上映するという企画「角川映画祭」が、角川シネマ新宿にて開催中だ。まあ全部とは言わないが、ほとんどの映画を観てみたい気はするのだが、そこは貧乏な映画鑑賞人ゆえ、ほんの一部しか鑑賞する金銭的余裕はない。

というわけで、最初に観たのは「人間の証明」である。

東京の高級ホテルのエレベーターで黒人男性が“ストーハ”という謎の言葉と、西条八十の詩集を残して殺される。捜査線上にファッションデザイナー八杉恭子(岡田茉莉子)とその息子(岩城滉一)が浮上する中、棟居刑事(松田優作)は被害者の黒人男性の過去を追って渡米する。やがて八杉と黒人男性の意外な関係が明らかになり……。

公開当時、被害者役を演じたジョー山中の歌う主題歌と、「母さん、僕のあの帽子どうしたでしょうね?」という西条八十の詩の一節が話題になった1977年の作品だ。オレははたして劇場で観たのか?(当時はまだお子ちゃまだったはずだが)それとものちにテレビででも観たのか?今となっては判然としないが、以前にも観ているのは確かである。

その時には何も考えていなかったらしく、「何だかスゲェー映画だなぁ」と圧倒されてしまったのだが、今観るとツッコミどころ満載である。捜査の展開や登場人物の言動、そしてクライマックスで棟居刑事が取ったあの行動(ネタバレになるから言わないけど)。「んなこたないだろう!」と言いたくなるところがたくさんある。

しかし、それを忘れさせるようなスケール感と、徹底して観客を楽しませようとするサービス精神には恐れ入る。前者でいえば、何といっても日本だけでなくニューヨークを舞台に、カーチェイスやガンアクションまで繰り広げるゴージャスさ。後者でいえば、一見本筋とは無関係なファッションショーのシーンを延々と見せるところなど。それだけ豊富に予算があったのだろうが、とにかくスゲェーのひと言である。

端役まで有名俳優を使うあたりも(ワンシーンだけの大滝秀治とか)、「ゼニ持ってますぜ」感が漂いまくっているではないか。ただし、その役者たちのほとんどが鬼籍に入っているところに、歳月の流れを感じさせたりもするわけだ。松田優作ハナ肇鶴田浩二三船敏郎などなど。

ラストの無理やりな感動のさせ方も、いかにもこの映画らしい。ケレンたっぷりの盛り上がりから、刑事の哀愁漂う後日談で締めくくる。

そしてもう一つ印象に残ったのが、戦争の影の濃さである。考えてみれば、この物語の舞台となった時代はようやく戦後を脱したあたり。それゆえ犯人も、刑事も戦争に翻弄された過去を持つ。このあたりのドラマは、やはり原作の森村誠一らしさといえるかもしれない。

まあ、何にしても角川映画を代表する一作なのは間違いない。久々に高沢順子(若いヤツは知らんだろうなぁ~)をこの目で拝み、若き日の竹下景子まで目撃できたのだから、文句は言いますまい。