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映画貧乏日記

映画貧乏からの脱出は可能なのだろうか。おそらく無理であろう。ならばその日々を日記として綴るのみである。

「リトル・ボーイ 小さなボクと戦争」

「リトル・ボーイ 小さなボクと戦争」
ヒューマントラストシネマ有楽町にて。2016年9月1日(木)午後1時25分より鑑賞。

「子供と動物には勝てない」。映画やドラマの世界でよく言われる言葉だ。かわいらしい子供や動物を登場させれば、それだけで観客の心をわしづかみ。どんな名優でも勝ち目はないってことだろう。ただし、一歩間違えばあざとさと隣り合わせなのも確か。そして何よりも、子供にしろ動物にしろ、それなりの演技力がなければお話にならないのである。

今回取り上げる『リトル・ボーイ 小さなボクと戦争』(2014年 アメリカ)で主役の8歳の少年を演じるジェイコブ・サルヴァーティは、演技は未経験だそうだが、これがなかなかの存在感と演技力の持ち主。おかげでこの映画、心にしみる作品に仕上がっている。

彼が演じるのは、第二次世界大戦中のカリフォルニア州の小さな漁村に住むペッパー。背が低く、周囲から「リトル・ボーイ」とからかわれている。そんな彼にとって、優しい父が唯一の「相棒」。だが、徴兵検査で引っかかった兄の代わりに、父は戦場に駆り出されて、まもなく日本軍の捕虜になってしまう。自分に不思議な力があると信じたペッパーは、父を呼び戻すために戦場に念を送るようになる。

そんなある日、ペッパーの目の前に収容所から釈放された日系人ハシモトが現れる。他の人々と同様にハシモトに敵意を剥き出しにするペッパーだが、教会の司祭に諭されて、すべてを達成できたら願いが叶うというリストを渡される……。

戦争、人種差別、信仰などかなり重たいテーマを持った映画だ。それでも、子供目線で生き生きと物語を紡いでいくので、楽しく観ることができる。

面白いのは、ペッパーが大好きな奇術師のベン・イーグルのショーでアシスタントを務め、ビンを動かすことに成功したことから、「自分には不思議な力がある」と信じて、戦場に向かって念を送り始めること。そんな設定もあって、ファンタジー調の映像があちこちに出てくる。ユーモアもあるし、ノスタルジックで温かな雰囲気の映画だ。

映画の中盤、ペッパーは教会の司祭からリストを渡され、それを達成すれば願いがかなうといわれる。そこには「飢えた人に食べ物を」「家なき人に屋根を」「病人を見舞え」などという項目とともに、人々から敵視されていた日系人のハシモトに親切にすることも挙げられていた。そこでペッパーは嫌々ながら彼に接近する。

大人たちに影響されてハシモトを憎んでいたペッパーが、彼と交流するうちに少しずつ変化していくのがミソだ。年齢の離れた2人のほのぼのとした友情を通して、憎しみ合うことのむなしさを訴える。同時に、一人の少年の成長も実感させる。

後半、たまたま念を送っていた最中に地震が起きて、ますます自分の力に自信を持ったペッパーは、父がいるはずの日本に向かってさらに強く念を送る。それがなんと原爆とリンクする(「リトル・ボーイ」は原爆の愛称でもある)。

ここは描き方によっては日本人の反発を買いそうな展開だが、そんなに嫌な感じはしない。ぺッパーの目を通して原爆の悲惨さも描いているからだ。ペッパーの夢(あるいは空想)の世界で、原爆の落ちた広島の惨状を見せる。それは多くのアメリカ人の喜びとは裏腹の恐ろしい世界(黒い画面の中の真っ赤な原爆が印象的)。敵味方を超えて戦争の悲惨さが伝わってくる。

いったん悲しい結末かと思わせて、ラストにはどんでん返しが用意されている。都合よすぎなのは確かだが、映画全体がファンタジー調で、しかも「奇跡」がポイントになっているので、こういう結末もありだと思う。何よりも、ホッコリとさせてくれるあと味の良いラストである。

モンテヴェルデ監督はメキシコ出身で、まだ40歳前の若い監督だが、なかなか才能がある。ジェイコブ・サルヴァーティに加え、母役のエミリー・ワトソン、ハシモト役のケイリー=ヒロユキ・タガワなど、俳優たちもいい味を出している。

あくまでも少年の日常を生き生きと描きながら、それを通して戦争について考えさせられる佳作である。説教臭さがない分、よけいに心にジンワリとしみてくる。

●今日の映画代1100円(毎月1日の映画サービスデーです。)