読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

映画貧乏日記

映画貧乏からの脱出は可能なのだろうか。おそらく無理であろう。ならばその日々を日記として綴るのみである。

「ベストセラー 編集者パーキンズに捧ぐ」

「ベストセラー 編集者パーキンズに捧ぐ」
TOHOシネマズ シャンテにて。2016年10月14日(金)午後1時50分より鑑賞。

一応、脚本家兼放送作家兼ライターなどと名乗っているオレなので、本当なら編集者にたくさん知り合いがいて、その中には凄腕の編集者がいてもおかしくないはずなのだが、残念ながらそういう人物とは接点がない。いったい、凄腕の編集者とはどういうものなのか。一度でいいから会ってみたいものである。

などと思っていたら、凄腕編集者の映画に出会ってしまった。「ベストセラー 編集者パーキンズに捧ぐ」(2015年 イギリス・アメリカ)。1920年代のアメリカで、アーネスト・ヘミングウェイやスコット・F・フィッツジェラルドを発掘した伝説の名編集者マックス・パーキンズと、彼に見出された天才作家トマス・ウルフ。2人の絆と葛藤を描いた実話をもとにしたドラマである。

舞台は1929年のニューヨーク。名編集者マックス・パーキンズ(コリン・ファース)のもとに、他の出版社では相手にされなかった無名の作家トマス・ウルフ(ジュード・ロウ)が書いた原稿が持ち込まれる。それを読んだパーキンズはウルフの才能に惚れ込み出版を約束する。とはいえ、それはかなりの長さで出版するには、相当に削除しなければいけない。ウルフと激論を重ねながら編集作業を進めるパーキンズ。やがて完成した処女作『天使よ故郷を見よ』はベストセラーになる。続いて2人は2作目に取り組むのだが……。

というわけで、この映画、編集者と作家のやり取りが中心に描かれる。編集作業というと地味な印象があるが、この映画に関してはなかなかの面白さだ。なぜなら2人のキャラの違いが際立っているから。

コリン・ファース演じる編集者パーキンズは、まさに編集の職人だ。簡単なことでは妥協せずに、自分の仕事を全うしようとする。ふるまいも大人のふるまいで、若いウルフに対して父親のように余裕をもって接する。それに対してジュード・ロウ演じるウルフは、天才を絵に描いたような若者(ちなみにこの映画の原題はGENIUS=天才)。すごい才能の持ち主なのだが、性格は天衣無縫で自由気まま。ある意味、子供のまま大人になったような人物だ。年齢も、キャリアも、立場も、性格も違うこの2人がぶつかり合うことで、見応えあるドラマが生まれている。パーキンズは売れる本を作ろうとする。ウルフもそれは認めつつ、できるだけ自分の世界を守ろうとする。

やがて2人の共同作業によって出版されたウルフの処女作『天使よ故郷を見よ』はベストセラーになる。だが、それに続く2作目の編集作業も前作以上の大変さだった。何しろ最初は5000ページもあったのだ!!! その原稿が次々にパーキンズのところに持ち込まれる様子は、まるでコメディ。まあ、ウルフはそのぐらい天才だということですね。

そういう厳しい編集作業を通じて、2人は絆を強めていく。その一方で、ウルフとパトロン兼愛人のアリーン(ニコール・キッドマンがいい味出してます)は、パーキンズの出現によって関係が悪化していく。また、パーキンズは仕事に没頭するあまりに、家庭をおろそかにし、妻(ローラ・リニー)とギクシャクするようになる。そのあたりのあれこれも、ドラマに厚みを与えている。

この映画には、パーキンズが発掘したヘミングウェイフィッツジェラルドも登場する。特にガイ・ピアース演じるフィッツジェラルドの落ちぶれ方に哀愁が漂う。さすがガイ・ピアースである。

実話をもとにしているということで、仰々しい出来事などは起きない。終盤近くに2人が離れていくところも、決定的なケンカ別れというよりは、いろいろな要素が積み重なった結果として描かれる。そうなると、ついド派手な演出で盛り上げたくなるものだが、マイケル・グランデージ監督(監督デビュー作だけれど、演劇界では有名な人らしい)はひたすら抑制的に、ていねいに描いている。その抑えたタッチが、この映画にはピッタリだ。また、ニューヨークの古い街並みなども映像的に見事に再現されている。

ラストは病に倒れたウルフからの手紙がパーキンズに届くシーン。ここも抑制的ではありながら、センスに富んだシーンだ。ポイントは手紙を読むパーキンズについに帽子を脱がせるところ。だって、それまでのパーキンズときたら、仕事中も、食事中も、常に帽子をかぶっていたのだから。この心憎い演出で、観客の心に深い余韻を残してドラマは終焉を迎える。

いうまでもないが、2人の主演俳優の演技が素晴らしい。ジュード・ロウのいかにも天才作家らしい破天荒な演技、そしてコリン・ファースの深みのある演技がどちらも観応え十分だ。特に冒頭近くで原稿を読みながらウルフの才能に気づくあたりの、コリン・ファースの微妙な表情の変化などはさすがの演技である。地味だけれど、編集者と作家の生きざまが表現された見応えある映画だと思う。

オレもパーキンズのような編集者に出会ったら、ベストセラーが書けるだろうか。いや、その前に独力で良い作品を書けよ!という話ではあるのだが。

●今日の映画代1100円(毎月14日はTOHOシネマズのサービスデー)