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映画貧乏日記

映画貧乏からの脱出は可能なのだろうか。おそらく無理であろう。ならばその日々を日記として綴るのみである。

「狂い咲きサンダーロード」

狂い咲きサンダーロード」(オリジナルネガ・リマスター版)
シネマート新宿にて。2016年12月22日(木)午後7時10分より鑑賞

今でこそ年間150本近い映画を観ているオレだが、実は10~20代はほとんど映画を観ていなかった。まあ金がなかったり(それは今も同じだが)、いろいろと忙しかったのが理由ではあるが、それにしてももったいないことをしたと思う。なので、当時観たかった話題作をけっこう見逃していたりするわけだ。

そんな一作が「狂い咲きサンダーロード」だ。石井聰亙(現在は石井岳龍)監督が、1980年に日本大学藝術学部映画学科の卒業制作として22歳で発表した映画。東映セントラルフィルムの配給で劇場公開もされて、カルト的な人気を博した伝説の作品だ。当時、オレの耳にも評判は届いていたが、劇場に足を運ぶことはなかった。それが、2016年にクラウドファンディングにより、オリジナル16ミリネガフィルムからのリマスター&ブルーレイ化が実現。シネマート新宿ほかで限定公開されるというので、さっそく観に行ってきた。

暴走族「魔墓呂死」の特攻隊長・仁(山田辰夫)は、「市民に愛される暴走族」を目指すリーダーに反発し、実力行使で敵対勢力への反抗を試みる。さらに、自分たちを取り込もうとする政治結社に反抗を試みた末、抗争の中で右腕と右足を切断されてしまう。それでもなお抗うことをあきらめず、バトルスーツに身を包んで最後の決戦に挑む仁だったが……。

架空の都市「サンダーロード」を舞台にしたバイオレンス・フクション映画だ。冒頭はSFチックな火山のシーン。何が始まるのかと思ったら、直後から暴走族の連中の怒鳴り合いや抗争が描かれる。「何じゃ、こりゃ」と初めのうちは苦笑していたのだが、次第に引き込まれてしまった。

それは映像の力によるものだ。石井監督は「シャニダールの花」「蜜のあわれ」などの最近の作品でも半端でない映像へのこだわりを見せているが、この映画の映像も出色だ。バイクの走行シーン、バイオレンスシーンなど鮮烈な映像の連続で、有無を言わさず観客をスクリーンに引きずり込む。

そして圧倒的な熱気と疾走感がスクリーンを覆う。この映画では全編に泉谷しげる、PANTA&HAL、THE MODSのロック音楽が流れている。それもまた映画全体の疾走感を加速させている。

主人公の仁は、市民に愛される暴走族や国を守る政治結社(右翼ね)に参加することを拒否し、あらゆるものに刃向かっていく。それはトンガっているなどという次元ではなく、ひたすら暴走し続けるブレーキのない車みたいなものだ。無軌道もここに極まれり。

その背景にあるものは何なのか。「大人になることを拒否する若者」という普遍的な青春の叫びなのか。あるいは1970年前後の学生運動はもはや跡形もなく、何事にも無関心な当時の「しらけ世代」に向けた石井監督の鉄槌なのか。そのあたりはよくわからんのだが、とにかく壮絶な暴走である。何しろ仁は右手と右足を失っても、ひたすら前に突き進んでいくのだから。

それ以外にもユニークなところがたくさんある映画だ。例えば、舞台となる「サンダーロード」という街は、どこなく世紀末の荒廃した街を想起させる。終盤、最後の闘いに備えて武器を調達する仁が向かった場所や出会う人々は、特にそうした感じを抱かせる。これは日本版「マッドマックス」なのか?

けっして完成度が高いわけではなく、正直どうでもいいようなシーンもある。例えば、暴走族のリーダーと彼女とのシーンなどは、なぜ挿入されているのかわからなかったりもする。それでも2人にセリフを語らせるのではなく、それをテロップで出す面白い仕掛けもある。仁が病院を出るシーンの背後では、アングラ演劇が展開されたりもする。いろんな意味でぶっ飛んだ映画です。ホントに。

主役の仁を演じた山田辰夫は、その後、名バイプレーヤーに成長し、「おくりびと」など数々の映画ドラマで渋い演技を見せていたが、2009年に47歳で亡くなってしまった。また、政治結社のリーダーを演じた小林稔侍は、テレビドラマの「税務調査官·窓際太郎の事件簿」でおなじみ。数々の映画やドラマに出演するベテラン俳優だ。そういう人たちの若々しい演技も見どころのひとつだ。

ちなみに伝説の作品というだけに、オレが観た日にもけっこうな数の観客が入っていた。そういう人を引き付ける魅力を持った映画です。限定公開なので劇場で観るのは厳しいかもしれないけど、興味のある方はDVDででもどうぞ。

●今日の映画代、1300円。シネマート新宿でも新たにTCGメンバーズカードが使えるようになったので。