映画貧乏日記

映画貧乏からの脱出は可能なのだろうか。おそらく無理であろう。ならばその日々を日記として綴るのみである。

「トッド・ソロンズの子犬物語」

トッド・ソロンズの子犬物語」
ヒューマントラストシネマ渋谷にて。2017年1月22日(日)午後3時15分より鑑賞。

犬が好きだ。子供の頃には家に犬がいた。今では珍しいスピッツの雑種だ。だが、残念ながら病気で早くに死んでしまい、それ以降は一度も犬を飼ったことがない。住宅事情などが原因で、いつか飼おう飼おうと思っているうちに、とうとう今日まで来てしまった。それゆえ、ネットなどでかわいい犬の映像などがアップされていると、つい見てしまうオレなのだった。

犬の映画といえば、何といっても忘れられないのは、2006年に公開になった「いぬのえいが」だ。11の短編からなるオムニバス映画で、犬童一心監督の作品もあった。なかでも、最後のエピソードの「ねえ、マリモ」で、オレは号泣してしまった。宮崎あおいが、自分より早く成長して老犬になり、死にゆく犬に語りかける映画なのだが、これがもうたまらないのだ。今思い出しても泣けてくるぜ。

そんな犬好きのオレが久々に観た犬の映画が、「トッド・ソロンズの子犬物語」WIENER-DOG)(2015年 アメリカ)である。タイトルのトット・ソロンズとは、この映画の脚本と監督を担当した人。オレは過去の映画は未見だが、ブラックな笑いで人間の暗部を描いてきた監督らしい。

ところが、そんなイメージでこの映画を観たら、良い意味で裏切られてしまった。確かにブラックな笑いはあるものの、えげつなさは感じられず、むしろ不思議な詩情さえ感じてしまったのである。

ダックスフントの子犬の話だ(みんなウィンナー・ドッグと呼んでいる)。といっても、かわいらしい動物物語ではない。犬は狂言回しのような存在で、その飼い主たちの人間模様を描いている。

最初の飼い主はがん患者の男の子。父親が子供のために子犬を連れてきたのだが、母親(ジュリー・デルピー)は最初から嫌そうだ。子犬はいろいろと問題を起こし、留守中に子供が人間の食べ物を与えて下痢をして、あちこちにウンチをまき散らす。それに母親がブチ切れて安楽死を決断する。

しかし、持ち込まれた動物病院で助手の女ドーン(グレタ・ガーウィグ)がかわいそうに思って、自分の家に連れてくる。彼女は孤独を抱えているようで、たまたま会った昔の同級生の男(キーラン・カルキン)に誘われて、一緒に旅に出る。向かった先はダウン症の弟夫婦の家。そこでは、酒浸りで寂しく死んだ彼らの父親の死を介して、兄弟の和解が描かれる。

こうして今度はその家に飼われたはずの子犬。しかし、そこでインターミッション(途中の休憩)が挟み込まれる。それは子犬が西部劇のような荒野を進むシーン。何とも人を食った仕掛けだ。子犬がアメリカ中をさまよったことを表現したものだろう。

後半、子犬は落ち目の脚本家(ダニー・デヴィート)に飼われる。せっかく書いた脚本の売り込みがうまくいかず、講師をしている学校でも悪評まみれでクビの危機にある彼は、犬を使ってとんでもない行動に出る。

最後は偏屈そうな老女(エレン・バースティン)に飼われる子犬。そこに孫が金を借りに来る。どうやらその老女は孤独で、人生にたくさんの後悔を抱えている模様。それが少女時代のたくさんの分身たちと対話するユニークな仕掛けで描かれる。

というわけで、ブラックな笑いはあちこちにあるものの、それほど過激ではない。意外にマジメな映画だ。犬の飼い主になった様々な個性的な人物を通して、人間のダメさや弱さが見えてくる。同時に家族の抱えた問題や人生の孤独など、現代社会の様々な風景も描かれる。

それにしても、ラストはちょっとやりすぎでしょ~。何もあんなにダメ押ししなくてもね。あれがこの監督の持ち味なのだろうが……。それでもあと味はそんなに悪くない。そのシーンのあとに、最後の老女のエピソードを引き取った後日談でクスリとさせてくれる。それより何より、ダメ人間やどうにもならない人生を否定せずに、優しく見つめる視線がこの映画には感じられるから、嫌な気持ちにならないのである。

変わった映画なので誰にもおススメするわけではないが、独特の世界観は一見の価値があると思う。今後の作品にも期待したくなる監督だ。

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