映画貧乏日記

映画貧乏からの脱出は可能なのだろうか。おそらく無理であろう。ならばその日々を日記として綴るのみである。

「マギーズ・プラン-幸せのあとしまつ-」

「マギーズ・プラン-幸せのあとしまつ-」
ヒューマントラストシネマ有楽町にて。2017年1月25日(水)午後12時10分より鑑賞。

アメリカのインディーズ映画を観ていていつも思うのは、役者の演技力の高さだ。ハリウッドメジャーの作品の超有名俳優と遜色のない演技をする無名の役者が、テンコ盛りでいるのだ。

2012年の「フランシス・ハ」を観た時にもビックリした。「イカとクジラ」(2005)や「ヤング・アダルト・ニューヨーク」(2014)などのノア・バームバック監督が、ニューヨークでプロのダンサーを夢見ながら、思うようにかない27歳の女性をモノクロ映像で描いた作品。主演のフランシスを演じたグレタ・ガーウィグの存在感にはすさまじいものがあった。

そんな彼女の新たな主演作が、「マギーズ・プラン-幸せのあとしまつ-」(MAGGIE'S PLAN)(2015年 アメリカ)だ。監督・脚本は女性監督のレベッカ・ミラー。

こちらもインディーズ映画で、ニューヨークで暮らす男女の奇妙な三角関係を描いている。とはいえ、ドロドロの三角関係というわけではない。軽快で笑いに満ちたコメディー映画だ。

主人号は大学で働くアラサー女性のマギー(グレタ・ガーウィグ)。恋愛下手で同じ相手と半年も続かず、いまだに独身。そのため、人工授精でシングルマザーになることを決意する。いざそれを実行しようと思った時に現れたのが、同じ大学で教える文化人類学者のジョン(イーサン・ホーク)。ジョンは妻子持ちだが、妻のジョーゼット(ジュリアン・ムーア)は有名な学者で仕事一筋。マギーとジョンは親しくなり、ジョンはジョーゼットに愛想を尽かして離婚し、マギーと結婚する。

この映画の魅力はユーモアとウィットにとんだセンスの良い会話。いかにも都会的なのと同時に、それぞれの人物のキャラクターが正確に反映されていて、そこから本音がチラリチラリと垣間見える。

マギーに精子を提供する相手が家に訪ねてきてその最中にマギーが踊りだすシーンや、人工授精の真っ最中にジョンが訪ねてくるシーンなど、絶妙の展開もあちこちに用意され、そこから小気味よい笑いが生まれる。

この手のラブコメにありがちな不自然さも感じない。ジョンは小説を書いている。それ使い、マギーが小説にのめり込むのと同時にジョンに心を奪われる経緯が効果的だ。

後半に描かれるのは3年後の出来事。ジョンとマギーの間には、かわいい女の子が誕生している。しかし、ジョンの前妻ジョーゼットが忙しいため、マギーは時々前妻との間の2人の子供まで面倒まで見る。しかも、マギーは仕事を続け、ジョンは小説の執筆に専念しているのだが、それがいつまでたっても完成しない。おまけにジョンはいまだにジョーゼットと連絡を取り、相談に乗ったりしている。

そんなこんなで「この結婚は間違いだった」「ジョンはジョーゼットのところにいるほうが幸せだ」と確信したマギーは、ジョーゼットに協力してもらい、ジョンを彼女のところに返す計画を敢行するのだ。

後半もサエた会話が続く。何度もクスクス笑ってしまった。そして、表面的には笑いながらも、内心は裏腹のマギーの心理が巧みに表現されている。彼女とジョーゼットが屈折した感情を持ちつつ、距離を縮めていくところもよく描かれている(ジョーゼットの出版パーティでの二人の表情がよい)。

夫を元妻に返却するというのは、何とも奇想天外な計画だが、ウソくささを感じさせない。マギーの作戦は、学会を利用して2人を復縁させようとするもの。そこで雪の中で2人が迷子になるところが印象的だ。大枠はマギーの計画によって動く復縁劇だが、予期せぬことも起きるわけだ。それによってラストの結末が納得できるものになるのである。

マギーの計画はストレートに成功とはいかないが、最後には心の温まる結末が待っている。ここでもジョンの書く小説が小道具として、効果的に使われる。ジョンとジョーゼットのレストランでのシーンが、何ともほほえましい。

そして、マギー自身の今後にも期待を抱かせる仕掛けが、エンディングに用意されている。スケートリンクにある人物が登場して、それを見つめるマギーの表情が大写しになる。

この映画の登場人物は欠陥だらけの人間だ。それでも自分なりに反省したり、少しでも良い方向に進もうとポジティブに生きている(もちろん、それが失敗することもあるわけだが)。だから、どうしても嫌いになれないのだ。この映画のあと味のよさはそこから来ていると思う。

おまけにマギーはとても人間くさい。孤独は嫌だけど、誰かと一緒にいると思い通りにいかない……というような状況は、独り身で他人と暮らしたことのないオレにもよくわかる。そうした思いは、誰にとっても身近なものではないだろうか。

グレタ・ガーウィグは今回も抜群の存在感を見せている。彼女なしにこの映画は成立しない。そして、その相手役を務めたジョン役のイーサン・ホークジョーゼット役のジュリアン・ムーアという2人のメジャー俳優が、さすがに貫禄の演技を披露している。

クスクス笑って、観終わって心がポカポカと温まった。三角関係を描いた映画で、こんなにあと味が良い作品も珍しいかもしれない。

●今日の映画代、1100円。テアトル系の水曜サービスデー料金(男女とも)で鑑賞