映画貧乏日記

映画貧乏からの脱出は可能なのだろうか。おそらく無理であろう。ならばその日々を日記として綴るのみである。

「ラ・ラ・ランド」

「ラ・ラ・ランド」
TOHOシネマズ日本橋にて。2017年3月1日(水)午後6時40分より鑑賞。

ミュージカルは苦手だ。何で普通の会話をしている人間が、突然歌を歌いだすのだろう。どう考えても不自然ではないか。確かタモリもそんなことを言っていた気がするのだが、オレも同感である。理解不能だ。違和感バリバリだ。

とはいえ、そんな不自然さを感じさせない見事なミュージカルがあるのは認めよう。昔なら「サウンド・オブ・ミュージック」、最近なら「マンマ・ミーア!」あたりは、なかなか面白いミュージカル映画だった。要は、オレの持つミュージカル映画に対する偏見を打ち砕くほどの作品であれば問題ないわけだ。

今年のアカデミー賞を席巻した「ラ・ラ・ランド」(LA LA LAND)(2016年 アメリカ)をようやく観たのだが、なるほど、これは見事なミュージカル映画である。ミュージカル嫌いのオレでも、十分に楽しんでオツリがくるほどの映画だった。

お話はシンプルだ。夢を叶えたい人々が集まる街、ロサンゼルス。女優志望のミア(エマ・ストーン)は、映画スタジオのカフェで働きながらオーディションを受け続けていたが、なかなか役がもらえなかった。そんな中、ミアは場末の店で、ピアニストのセブ(ライアン・ゴズリング)の演奏に魅せられる。セブは、いつか自分の店を持ち、大好きなジャズを思う存分演奏したいと願っていた。やがて2人は恋におち、互いに励まし合って夢に向かうのだが……。

夢見る男女のラブストーリーを季節ごとに描いたミュージカル映画。冬に出会い、春に親しくなり、夏に転機が訪れ、秋に別れ、そして次の冬に思わぬ再会をする2人。ただ、それだけなのに、なんでこんなに観応えある映画になるのだ???

監督は「セッション」のデイミアン・チャゼル。「セッション」を観たときから、「コイツ、すげえ!」と思ってはいたのだが、今回もいろんな意味ですごい映画だ。

まず度肝を抜かれるのが冒頭のシーン。渋滞の高速道路で車から次々に人が出てきて、歌い踊る。ゴージャスかつ躍動感あふれる場面で、いきなり観客の心をわしづかみにする。そのシーンからミアとセブの初めての遭遇につなげる展開も抜かりがない。

前半は過去のミュージカルのエッセンスを詰め込んだ展開だ。ロスの夜景を見下ろす丘でのミアとセブ。プラネタリウムの星空に舞う2人など、ロマンチックなシーンが観客の心をときめかせる。リアルとファンタジー、ミュージカルとストレートプレイを縦横無尽に行き来して、観客をスクリーンに引き込む。鮮やかな色彩など映像のマジックもいかんなく発揮されている。特に夜空の色が印象的だ。

ミアが映画スタジオのカフェで働いているということで、ハリウッド黄金時代のようなノスタルジックな雰囲気も感じさせる(一応設定は現代だが)。ジェームス・ディーンの「理由なき反抗」を巧みに使ったり、「セッション」を意識したようなセリフがあったりと、心憎いばかりの仕掛けや小ネタの連続。

音楽も完璧だ。オリジナルのスコアはもちろん、セブがジャズピアニストということでジャズを中心に様々な音楽を使用。セブが加入するバンドのリーダーをジョン・レジェンドが演じるということで、彼の音楽もふんだんに登場する。

しかし、まあ、チャゼル監督の知識量の豊富さときたらあきれるばかりだ。彼がいかに映画オタク&ミュージカルオタク&音楽オタクなのかが、よくわかる。

後半の展開にも驚かせられる。夢を追う中で訪れる2人の転機と危機をシリアスな芝居で見せていく。そこには歌や踊りはまったくない。ミュージカル映画なのを忘れてしまうような展開だ。エマ・ストーンとライアン・ゴズリンクは、それなりに歌や踊りでも頑張っているとはいえ、もちろん売りはその演技力にある。それを前面に押し出してドラマを進める。歌や踊りがなくても、いや、歌や踊りがないからこそ、2人の心情につい寄り添ってしまうのである。

そして、後半のハイライトになるミアのオーディションシーン。ここで、それまで封印していた歌を満を持して彼女に歌わせる。その繊細かつ力強い歌声が、彼女の夢と人生を説得力を持って語らせる。

最後の展開にも驚かされた。再びの冬に訪れる2人の再会。そこで、もしかしたら、あり得たかもしれない人生を描き、観客の共感を誘う。ラストの2人の表情がいつまでも心に残る。お互いにいろいろあったけれど、夢をかなえた今を肯定し合う素晴らしい笑顔だ。

とにかくケチのつけようがない映画である。すべて計算づくでやっているのがわかっても、ついつい引き込まれてしまう。さすがハード―ド大学!(てのは関係ないか)

ブロードウェイミュージカルの映画化ならともかく、オリジナルでこういう作品を、わずか32歳でつくってしまうのだから、デイミアン・チャゼルおそるべし! 一応脚本を書いたりする(依頼がないからほとんど書く機会がないけど)オレにとって、うらやましすぎる才能だ。ここまでくると嫉妬のしようもない。完全に降参である。

●今日の映画代、1100円。毎月1日の映画サービスデーで。