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映画貧乏日記

映画貧乏からの脱出は可能なのだろうか。おそらく無理であろう。ならばその日々を日記として綴るのみである。

「お嬢さん」

「お嬢さん」
TOHOシネマズシャンテにて。2017年3月5日(日)午後1時25分より鑑賞(スクリーン2/C-11)。

去る3月4日に〇回目の誕生日を迎えてしまった。同居者もいないし、友達も少ないオレなので、例年なら特に何もないのだが、今年は知り合い関係の飲み会でお祝いしていただき感謝感謝である。

さて、一つ年をとった一発目には、いったいどんな映画を観るべきか。これは思案のしどころである。これで、この一年のオレの命運が決まるのだ! というほど大げさな話ではないのだが、まあ、それなりに迷ったりしたわけだ。

そして、選んだ映画は「お嬢さん」(THE HANDMAIDEN)(2016年 韓国)。カンヌ映画祭で審査員特別グランプリを取った『オールド・ボーイ』をはじめ『親切なクムジャさん』『渇き』などで知られる韓国の鬼才パク・チャヌク監督の作品だ。前作『イノセント・ガーデン』は初のハリウッド進出作だったが、今回は韓国に戻ってメガホンを取った。

パク・チャヌク監督の映画を観ると、多くの作品でその凄まじいエネルギーに圧倒されるのだが、今回もまさにそうだった。原作はイギリス人作家サラ・ウォーターズのミステリー小説「荊の城」。だが、他の誰にも撮れないパク・チャヌク独自の世界を構築している。

どんなストーリーかといえば……。舞台は1930年代の日本統治下の朝鮮半島。貧民街で泥棒一味に育てられた少女スッキ(キム・テリ)は、伯爵を名乗る詐欺師(ハ・ジョンウ)にスカウトされ、お金持ちのお屋敷に送り込まれる。詐欺師は屋敷で叔父の上月とともに暮らし、莫大な財産の相続権を持つ令嬢の秀子を誘惑して結婚し、彼女を精神病院に送り込んで財産を奪う計画を立てていた。スッキは秀子のもとで、珠子という名でメイドとして働き、詐欺師の計画を後押しする。だが、やがてスッキと秀子は愛し合うようになり……。

この映画は三部構成になっている。一部はスッキの目線で、彼女がスカウトされて屋敷に入り込み、秀子に接近して詐欺師の計画を後押しする顛末が描かれる。しかし、その過程で彼女は秀子とただならぬ関係になってしまう。そして、ラストには衝撃の逆転劇が待っている。

続く二部では、今度は秀子の目線で、彼女の幼い頃やスッキとの出会い、詐欺師に誘惑されるまでが描かれる。しかし、そこで語られるのは驚きの事実だ。一部で見たことがガラガラとひっくり返る。騙し、騙されるサスペンスの醍醐味が満点の展開だ。

それにしても何という美意識に貫かれた世界だろう。細部にまでこだわり抜いた衣装や美術、妖しい色彩感覚が全開だ。ただし、それは何やら不可思議な世界である。舞台となる屋敷は和洋折衷の豪邸だが、例えば広大な日本間のところどころに庭石が置かれていたりして、現実の日本間とは微妙に違う。秀子の結う日本髪などもどう考えても不自然だ。

だが、これはハリウッド映画などにときどき登場する「勘違い日本」ではないだろう。パク・チャヌク監督はおそらく変なのを承知の上で確信犯的に、こういうビジュアルをつくり上げている。それは日本でも、朝鮮半島でも、ヨーロッパでもない、この世のものとも思えないあやかしの世界なのである。

その視点からみれば、韓国人俳優たちが操る日本語も、あやかしの世界の言語と化している。かなり訓練したようで達者な日本語ではあるのだが、さすがに日本人から見ればぎこちなさが残る。それが純粋な日本とは違う独自の世界を現出させている。

この映画には、官能的な要素もタップリだ。スッキと秀子がただならぬ関係になるということで、レズビアン的シーンをはじめエロいシーンが満載である(もちろんR-18です)。2人の女の絡み合いは、きわめて美しく、きわめてエロい。その両者のバランスが絶妙なのだ。

そしてエロには笑いもある。秀子は叔父(完全な変態!)の主催する希少本のオークションで、男たちの前で官能小説をいやらしく読み上げ、人形相手に変なポースまでする。男女の局部を表す言葉(どんな言葉かは自粛させていただきます)も堂々と言い放つ。これがエロいのと同時に実に笑えるのである。

さて、最後の三部では、詐欺師の計画が成功したかに見えた後の顛末が描かれる。そこでは、これまで男どもに操られてきた女たちの、たくましくも美しい姿が見られる。それに対して、男どもの情けなさ過ぎる運命ときたら……。おかげで、ラストの女同士の絡みが、なおさら美しく映るのだ。

過去のパク・チャヌクの映画を観たことがない人は衝撃を受けるかもしれない。そのぐらい変態すぎる映画だ(これ、けなしているのではなく褒めているのです)。妖しい官能ミステリーという点では、江戸川乱歩の小説などと共通するところもあるが、やはりそれとも違う独特の世界だ。夢に出てきそうな強烈なシーンが、最初から最後まで連続する。こんな映画を作れるのはパク・チャヌクだけだろう。もはや我々観客は、その世界にどっぷり浸かるしかないのである。

●今日の映画代、0円。TOHOシネマズのポイントが6ポイント貯まったので、ただで観させていただきました。