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映画貧乏日記

映画貧乏からの脱出は可能なのだろうか。おそらく無理であろう。ならばその日々を日記として綴るのみである。

「汚れたミルク/あるセールスマンの告発」

「汚れたミルク/あるセールスマンの告発」
新宿シネマカリテにて。2017年3月15日(水)午前9時45分より鑑賞(スクリーン2/A-6)。

先週、確定申告書を提出した。改めて昨年の年収を見て愕然とした。なんだこれは。自転車操業の自由業者とはいえ、もうちょっと何とかならないのかオレ。というわけで、まだまだ貧乏生活が続く中、最近はいろいろと生活費も切り詰めているのである。

なに? 映画館に行かなきゃ少しは楽になるだろう、だと? うーむ。確かに。だが、それは絶対に無理な相談である。もはや映画ジャンキーとなったオレに、そんな理屈は通用しない。映画館に行かないと、禁断症状が出るのだから。

というわけで、最近はインスタントコーヒーも安物に変えてしまった。以前はネスカフェを愛飲していたのだが、あれ、けっこう高いんだよねぇ~。

さて、そのネスカフェは、巨大多国籍企業のネスレ社のブランドなのを皆さんご存知? でもって、そのネスレ社に関わる重大な事実を、オレは映画を通して知ってしまったのである。

「汚れたミルク/あるセールスマンの告発」(TIGERS)(2014年 インド・フランス・イギリス)。監督は、アカデミー外国語映画賞を受賞した「ノー・マンズ・ランド」で知られるダニス・タノヴィッチ。パキスタンで実際に起こった事件をもとに撮った映画である。

映画の冒頭では、1970年代のアメリカ議会での録音が流れる。そこではある企業の幹部が死亡事故の責任追及をされて、責任は「NO」と言い放つ。この事実が、この映画で取り上げられる事件とつながっていく。

それはいったいどんな事件なのか。1994年のパキスタン。国内製薬会社のセールスマン、アヤン(イムラン・ハシュミ)は、外国産の薬に押されてまったく売り上げが伸びず、妻の勧めで多国籍企業ラスタ社の面接を受けて採用される。病院を回ってあの手この手でなりふり構わず粉ミルクを売り込むアヤン。おかげで彼はトップセールスマンになる。

ところが、その後彼は衝撃的な場面に遭遇する。貧困層の人々が不衛生な水で溶かしたラスタ社の粉ミルクを乳幼児に与えた結果、多数の乳幼児が衰弱し死亡していたのだ。それを承知しながら同社は強引に粉ミルク販売を続けていた。心を痛めたアヤンは辞職し、ラスタ社を告発しようとする。だが、それを知ったラスタ社や権力者たちは、アヤンを潰しにかかる……。

まるで猛烈営業マンの出世物語のような前半。一転して衝撃的な映像が飛び出す中盤。そして、過酷な闘いに挑むアヤンを描いた後半。中盤での子供たちのあまりにも悲惨な姿には、ただ言葉を失ってしまう。それがあるから、観客は後半で描かれるアヤンの闘いを応援したくなるのである。

この映画の基本は正攻法の社会派ドラマだ。ただし、ドラマ全体に映画の製作過程という枠をはめている。つまり、アヤンたちの闘いを映画にしようと考えたプロデューサーや監督が、法律顧問を交えてアヤンや協力する医師などとテレビ電話を通じて話をするという構成なのだ。そこで語られることを再現したのが、先ほど紹介したドラマである。

そこでのアヤンの闘いはひたすら過酷なもの。知人の医師やNPOの関係者などがサポートするものの、自分はもちろん家族まで危険にさらしかねない闘いだ。同時に、それを映画化しようと目論むプロデューサーや監督たちの闘いも過酷なもの。世界的な巨大企業を相手にした告発映画を作るのだから、少しも付け入る隙を与えられないギリギリの闘いが続く。こうした闘いの二重構成が、この映画をより深く厚みのあるものにしている。

おまけに、そこにはスゴイ仕掛けがある。映画の製作過程では、実際の企業名を出した後で弁護士役に「社名を出すのはまずい」と言わせて、架空の社名に変更する場面がある。その架空の社名がラスタ社だ。そして本当の社名は……。それがネスレ社なのだ。あの世界的企業ネスレ社こそが、この事件の当事者なのである。それをひとひねり加えて暴露する痛快さよ!

それにしてもネスレ社はひどいんじゃないの? そりゃあ毒ミルクを売っているわけじゃないのだから、法的責任はないかもしれないけどさ。貧困層がきれいな水を手に入れられないことは十分にわかっているのに、委細かまわず売りまくるのだからどう考えても道義的責任アリだろう。責任者出てこい!! アヤンならずとも怒りを感じてしまうではないか。

とはいえ、アヤンを英雄として描いているわけでもない。終盤では、いかにも正義の味方のようだったアヤンに、大きな過ちがあったことが明かされる(ていうか、ハメられちゃったんですけどね)。それもあって、この映画の結末はスカッとはいかない。

ラストでアヤンと家族のその後がどうなったか告げられる。そして、その後にまたしても衝撃的な事実が明かされる。劇中の乳幼児の映像の中には、昔の記録映像だけでなく、何と最近撮影されたものがあることが明かされるのだ。

なに? てことは、今もこの問題は続いているんじゃないの。おいおいおい、ちゃんと貧困層にも水道整備するとか、衛生教育するとかしろよ。粉ミルク売りつけるのは、その後だろう。ネスレ社さんよ。

というわけで、現在進行形の問題にズバッと斬りこんだ作り手の心意気に拍手。それが災いしたのか、この映画は、2014年製作なのにちゃんと公開されるのは日本が初めてとか。まさかネスレ社の圧力? 日本で本作を配給したビターズ・エンドに心から敬意を表します。ビターズ・エンド偉い!!!

●今日の映画代、1000円。毎週水曜はシネマカリテのサービスデー。サンキューでした!