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映画貧乏日記

映画貧乏からの脱出は可能なのだろうか。おそらく無理であろう。ならばその日々を日記として綴るのみである。

「ラビング 愛という名前のふたり」

「ラビング 愛という名前のふたり」
TOHOシネマズシャンテにて。2017年3月17日(金)午前10時45分より鑑賞(スクリーン3/E-9)。

今年の第89回アカデミー賞は従来とはかなり様相が違った。トランプ大統領への批判や皮肉に満ちたコメントがテンコ盛りだったのに加え、作品賞、脚色賞、助演男優賞の3部門を受賞した「ムーンライト」をはじめ、アフリカ系アメリカ人が活躍する作品が賞レースを席巻した。白人中心だった過去の歴史からは、考えられないことだった。

主演のルース・ネッガが主演女優賞にノミネートされた「ラビング 愛という名前のふたり」(LOVING)(2016年 アメリカ)も、そうした作品の1つといえるだろう。異人種間の結婚が違法とされていた1950年代のバージニア州を舞台にした実話をもとにした映画である。ジェフ・ニコルズ監督は、これまでに「MUD マッド」「テイク・シェルター」というなかなか面白い映画を撮ってきたが、今回はまた違った個性を発揮している。

1958年、バージニア州。白人男性のリチャード・ラビング(ジョエル・エドガートン)は、幼なじみで恋人の黒人女性ミルドレッド(ルース・ネッガ)から妊娠を告げられ、結婚を決意する。だが、バージニア州では異人種間の結婚は法律で禁止されていたため、2人はワシントンD.C.で結婚の手続きをする。その後、地元で暮らし始めた2人だが、ある日、自宅に押しかけてきた保安官に逮捕されてしまう。そして裁判で離婚するか、25年間州外に退去するか選択を迫られる……。

タイトルの「ラビング」とは主人公夫妻の名前。同時に「愛」ともかかっている。つまり、これは一組の夫婦の愛のドラマなのだ。2人は人種差別と闘うことになるのだが、それはただ愛を守りたいから。そんな視点が貫かれた映画なのだ。

前半で印象的なのはバージニア州ののどかな田園風景だ。そこでは黒人と白人が一緒になって働いている。一見、差別など感じさせない光景だ。しかも、リチャードは子供の頃から黒人と過ごしており、ミルドレッドを好きになったのはごく自然なことだった。そうした描写があるからこそ、逮捕という事実が、観客にとってなおさら理不尽でショッキングなものに感じられるのである。

2人の愛は真実の愛だ。たとえ裁判で有罪になろうとも離婚など考えられない。その結果2人は故郷を離れて暮らすことを余儀なくされる。しかし、いざミルドレッドの出産が近づくと、どうしても故郷で出産したくなり(リチャードの母親は助産師)、故郷に戻る。しかし、そこで彼らはまたしても逮捕され、再び故郷を離れることになる。

その後、3人の子供に恵まれた夫妻だが、やはり故郷への思いは断ちがたく、ミルドレッドはケネディ司法長官に手紙を書く。ちょうど当時は公民権運動が盛んな時だった。その手紙がきっかけで、人権派弁護士と知り合った2人は、裁判によって理不尽な処置を覆そうとする。

というわけで、後半ではラビング夫妻は人権派弁護ととともに立ち上がるのだが、そこでも声高に何かを叫んだりはしない。それもまた2人にとっては、愛を貫くための行動にしかすぎない。闘いはそのための手段でしかない。

だから、後半になっても社会派映画にありがちなお説教臭さとは無縁だ。むしろ新米の人権派弁護士の頼りなさを前面に出したり、裁判に積極的なミルドレッドと消極的なリチャードのすれ違いを描くなど、ドラマ的な妙味にあふれている。

もちろん、すれ違いといっても、それが決定的になることはない。リチャードが積極的になれないのも、周囲の嫌がらせなどを見て、家族を守りたい一心でそうなるからだ。ミルドレッドはそれをよく理解している。

終盤は裁判闘争がドラマの大きな核になる。それでも法廷自体は必要最低限にしか描かれない。あくまでも夫婦の姿を中心に描く(ミルドレッドは夫の意をくんで出廷しなかったのでなおさら)。

そしていよいよ判決。ラストは文句なしに感動できる。夫婦の愛の強さと、それが世の中を動かしたという事実が心を揺り動かすのである。

寡黙ながら芯の強さと優しさを表現したジョエル・エドガートン、健気さの中にたくましさを見せたルース・ネッガの演技が見事だ。セリフなしでも、それぞれの心の内が伝わってくる演技だった。

実話ものとはいえ、メッセージ性の強い社会派映画や偉人伝にしようと思えばできたはずなのに、あえてそれを封印してシンプルな夫婦愛の物語を紡いだことが、この映画の最大の勝因だろう。だからこそ、心に深く刺さるのである。

●今日の映画代、1500円。久々にムビチケ購入しました。