映画貧乏日記

映画貧乏からの脱出は可能なのだろうか。おそらく無理であろう。ならばその日々を日記として綴るのみである。

「おとなの事情」

「おとなの事情」
新宿シネマカリテにて。2017年3月22日(水)午前11時30分より鑑賞(スクリーン1/A-7)。

昔、バンドをやっていた時には年を秘密にしていた。プロフィールには「年齢不詳」と書き、メンバーにも本当の年を教えなかった。25歳過ぎてからバンドを始めたため、周囲より年上だったという事情もあるが、それ以上に年齢不詳にしたほうがミステリアスで面白いだろうという完全なウケ狙いの行動だった。「そんなところに気を回すなら、もっと演奏の腕を磨け!」という話ではあるのだが。

というわけで、オレの場合は大した秘密ではなかったわけだが、それとは違って、絶対に他人に知られたくない秘密を持っている人も多いだろう。そして、そういう人に限って、「秘密なんてない!」と強がったりするものだ。

そんな人々が痛い目にあってしまうのが、「おとなの事情」(PERFETTI SCONOSCIUTI)(2016年 イタリア)という映画である。イタリア映画で、イタリアのアカデミー賞に当たるダビッド・ディ・ドナテッロ賞で作品賞、脚本賞を受賞した。

ある月食の夜、幼なじみの男4人とそのパートナーが集まり、エヴァ(カシア・スムトゥニアク)とロッコ(マルコ・ジャリーニ)夫妻宅で食事会を開く。参加したのは7人。そんな中、1人があるゲームを提案する。「メールが届いたら全員の目の前で開くこと」「かかってきた電話にはスピーカーに切り替えて話すこと」というもので、秘密など何もないという信頼度を確認するためのゲームだった。平静を装ってゲームを始める7人だったが、ゲームが進むにつれて、それぞれの本当の姿が次々と露呈していく……。

舞台となるのは食事会のみ。いわゆるワンシチュエーションのドラマだ。食事会に参加したのは、幼なじみの4人の男とそのパートナー。ただし、そのうちの1名のバツイチ男は新恋人が熱を出したとかで、1人で参加する。

映画の冒頭は、彼らが食事会に参加する前の様子が描かれる。そこでそれぞれが抱えた事情がチラリと見える。反抗期の娘との関係に悩む母親、義母に不満をぶつける嫁、何やら秘密を抱えているらしい夫……。その後の展開を示唆する内容だ。

そして始まる食事会。食事をしながらの会話から、タイトル通りに大人の事情が少しずつ見え隠れする。とはいえ、まだ決定的な場面には至らない。それが現れるのはあるゲームがきっかけだ。不倫メールで破たんしたカップルの噂話をきっかけに、「俺たちにはそんな秘密はない」と豪語した参加者たちは、それを確認するためにスマホを使ったゲームを始める。全員が食卓にスマホを出して、スマホに届いたメールや電話は全員に公開しようというのである。

そこからポロポロと出てきたのは各自の意外な秘密。豊胸手術を受けようとしていた妻、妻に内緒でカウンセリングを受けていた夫、何度も転職しているのにまた転職を考えている夫などなど。彼氏の家に誘われたという娘からの相談電話などもかかってくる。

だが、これはまだ序の口だ。急展開のきっかけは、不倫相手からのメールが届くことになっている男が、同じ機種を持つ単身参加の男にスマホの交換を持ちかけたことから。この作戦が裏目に出て大変なことになる。不倫男は、それとは別のあらぬ疑惑をかけられて追い詰められ、妻との関係が危険水域に突入するのである。

その後は、その妻が抱えた秘密も露見。さらに別の新婚男の不倫関係も明らかになるなど、しっちゃかめっちゃかになってしまう。親子の確執や夫婦間のズレ、性的傾向などの様々な問題が浮上してくるのだ。

ゲーム開始以降、いったいどんなメールや電話が来て、どんな事態に発展するのか予測不能の展開が続く。ハラハラドキドキで目が離せない。各自のいろいろな事情が見えてくる中で、笑いもたくさん生まれてくる。イタリア人らしい陽気さによって何でもジョークにしてしまうのだが、露見する様々な秘密と相まってブラックな笑いに発展していく。

食事会が行われるのが月食の夜だというのも、独特の空気感を醸し出す。時々登場する月食が、人々を狂わせているのかも……なんてことまで思わせてしまうのだ。

ラストはついに全崩壊。すべての終わり。ジ・エンド……かと思いきや、そこには驚きの結末が待っている。これって、あり得たかもしれない過去ってこと? うーむ、あり得たかもしれない過去といえば、「ラ・ラ・ランド」の終盤を思い出すが、こちらはまったく違う世界。あまりの逆転劇に言葉を失ってしまった。

それにしても、ホスト宅夫妻の夫ロッコが言った最後の言葉が説得力満点だ。大人は誰しも人に知られたくない秘密を持っている。むやみにそれに触れないほうがよいのだ、と。

スマホを使ったユニークな仕掛けが見事な映画。スマホに慣れ親しんだ今の人間にとっては、他人事とは思えないだろう。そういう意味で、コメディーではあるものの、ホラー的な要素もある映画だといえる。

皆さまも、くれぐれもスマホの公開などなさりませんように。後で大変なことになっても知りませぬゾ。

●今日の映画代、1000円。新宿シネマカリテの毎週水曜映画ファンサービスデー料金で