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映画貧乏日記

映画貧乏からの脱出は可能なのだろうか。おそらく無理であろう。ならばその日々を日記として綴るのみである。

「ノー・エスケープ 自由への国境」

「ノー・エスケープ 自由への国境」
TOHOシネマズシャンテにて。2017年5月7日(日)午後12時35分より鑑賞(スクリーン1/D-9)。

東京・日比谷では大規模な再開発工事が行われている。何でもでっかいビルを建てるらしい。そこに全11スクリーン約2300席を新設。隣接する東京宝塚ビル内の2スクリーン、約800席のスカラ座・みゆき座を改装して、合わせて全13スクリーン・約3000席のシネコン「TOHO シネマズ日比谷(仮称)」を2018年にオープンさせるとのこと。

それに伴って、近くにあるTOHO シネマズシャンテは閉館するらしい。うーむ、シャンテといえば、マイナーながら良質な作品をたくさん上映していた映画館。ここのみでの上映作品も多かった。オレの好きな映画館の1つだっただけに、寂しい思いでいっぱいだ。はたして、新しいシネコンにそのコンセプトは引き継がれるのだろうか。大いに不安である。

そんな不安を抱えつつ、あと何度足を運べるかわからないシャンテに参上。今回のお目当ての作品は、「ノー・エスケープ 自由への国境」(DESIERTO)(2015年 メキシコ・フランス)である。

監督(共同脚本と編集も担当)のホナス・キュアロンは、「ゼロ・グラビティ」でアカデミー監督賞を受賞したアルフォンソ・キュアロンの息子で、「ゼロ・グラビティ」の共同脚本も担当している。おまけに、この映画は「ゼロ・グラビティ」よりも前に脚本が完成していて、それをヒントに「ゼロ・グラビティ」が生まれたらしい。

ゼロ・グラビティ」が宇宙でのサバイバル劇だったのに対して、こちらは砂漠でのサバイバル劇だ。冒頭は荒涼とした砂漠地帯を一台のトラックが走るシーン。その荷台には、アメリカに不法入国しようとするモイセス(ガエル・ガルシア・ベルナル)たち15人のメキシコ人が乗っている。ところが、途中でトラックが故障し、彼らは徒歩で国境を越えることを余儀なくされる。

一方、その砂漠に謎の男(ジェフリー・ディーン・モーガン)がやってくる。銃を持ち猟犬を連れた彼は、警官には「ウサギ狩り」と答えるのだが、真の目的は人間狩りだ。まもなく、国境のフェンス(有刺鉄線)を越えたメキシコ人たちに銃弾を浴びせる。彼の手で1人また1人と犠牲になるメキシコ人たち。摂氏50度という過酷な状況の中、武器も通信手段も持たないモイセスたちは、必死で逃げ延びようとするのだが……。

まあ、とにかくリアルさがハンパでない映画である。灼熱の砂漠の中を必死で逃走するモイセスたちを、臨場感あふれる映像で描き出す。例えば、メキシコ人たちを謎の男の銃の照準越しにとらえた映像、彼らを追い詰めるべく全速力で走ってくる猟犬を低いアングルで映した映像など、スリリングで迫力ある映像が満載だ。

トーリー自体はシンプルなのに、全く飽きないし、最初から最後まで緊張感が途切れない。モイセスたちの壮絶な逃走劇を目撃しているうちに、自分もそこに加わっているような気分になってしまう。そのぐらい圧倒的なリアルさと、スリリングさを持った映画なのである。

砂漠の逃走劇と言っても、ただ平地を逃げるだけではない。そこには、岩山やサボテンが群生する場所などもある。毒蛇も生息している。それらを巧みに生かして、あわやの場面を何度も作り出していく。

次々に仲間が殺され、モイセスたちは3人になり、ついに2人になる。それでも隙をついて謎の男の車を奪い、ついに脱出成功!

かと思ったら、そうは問屋が卸さない。その先も何度も危険な場面に遭遇する。終盤はモイセス1人が謎の男と対峙する。そして、岩山でのギリギリのバトルから余韻の残るラストへとなだれ込む。

モイセス役のガエル・ガルシア・ベルナルの鬼気迫る演技に加え、謎の男を演じたジェフリー・ディーン・モーガンの戦慄の演技が見事だ。彼は不法入国者を恨んでおり、それが殺害の動機のようなのだが、それを越えてサイコパス的資質まで感じさせる。スピルバーグ監督の初期作品「激突!」の追跡者の得体の知れない怖さを連想させるような演技だった。

この映画の背景には、メキシコからアメリカに入国する不法移民をめぐる社会的問題がある(トランプ大統領の壁建設の話でもおなじみ)。しかし、それを前面に出すことはなく、声高なメッセージを発することもない。

また、不法入国する人々の背景を冗長に語ることもない。モイセスとアデラという女の子の短い会話から、彼らの抱えた事情をチラリと示すのみだ。

つまり、この映画は、あくまでもサバイバル劇の怖さや緊迫感を追求したエンタメ映画であり、それこそが、この映画の最大の魅力なのである。

ハラハラドキドキ度はかなりのもの。88分間があっという間だった。この手の映画が好きな人ならかなり満足できそうだ。ホナス・キュアロン監督、親の七光りかと思いきや、なかなかの才能の持ち主かもしれない。今後が楽しみな存在だ。

●今日の映画代、1500円。事前にムビチケ購入済。