読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

映画貧乏日記

映画貧乏からの脱出は可能なのだろうか。おそらく無理であろう。ならばその日々を日記として綴るのみである。

「いぬむこいり」

「いぬむこいり」
新宿Ks cinemaにて。2017年5月13日(土)午後12時30分より鑑賞(自由席・整理番号46)。

今までに何百本、いや確実に千を越える本数の映画を観てきたオレだが、あらためて「映画とは何だ?」と問われると困惑してしまう。ハリウッドのエンタメ映画も、前衛的なアート映画も、映画であることには変わりないだろう。だとすれば、映画とは「何でもあり」の世界なのだろうか。

映画「いぬむこいり」(2016年 日本)は、いろんな意味で凄い映画だ。まず凄いのが上映時間だ。何と4時間5分もある。過去に瀬々敬久監督による2010年公開の「ヘヴンズストーリー」(上映時間4時間38分)、濱口竜介監督による2015年公開の「ハッピーアワー」(上映時間6時間17分)など長尺映画は何本か観てきたが、これらは徹底してリアルさを追求していた。しかし、本作はそれとはかなり異質な映画だ。

物語は全4章で構成されている。主人公は東京の小学校教師・梓(有森也実)。彼女の家には先祖代々伝わる伝説がある。それは、お姫様と軍功をあげた家来の犬が結婚するという不思議な犬婿伝説だ。この伝説が物語の基軸になっている。

第1章。冒頭で梓は人形劇で生徒たちに伝説を語る。しかし、まもなく彼女は学校で問題を起こし、フィアンセに逃げられてしまう。そんな中、空からお告げの声が聞こえる。「イモレ島へ行け。そこには、おまえが本当に望んでいる宝物がある」と。梓は全てを捨てて、宝物を求めてイモレ島へと向かおうとする。

第2章。梓は飛行機でイモレ島への経由地の沖之大島に着く。ペテン師のアキラ(武藤昭平)にだまされた梓は、三線店の店主(柄本明)に救われる。その島では悪徳市長(ベンガル)が圧政を敷き、それに対して自称革命家(石橋蓮司)たちが反撃の機会を狙っている。そして、梓は彼らに推されて市長選挙に出馬することになる。

第3章。イモレ島に向かったものの難破して無人島に流れ着いた梓は、イモレ島のナマ族の国王の息子・翔太(山根和馬)と出会う。ところが、彼は犬神に噛まれたことが原因で犬男に変身してしまう。それでも翔太を愛する梓。しかし、そこに彼の婚約者がやってきたことから、梓は再びイモレ島を目指す。

第4章。ついにイモレ島に着いた梓。そこではナマ族とキョラ族が70年に渡って激しい戦争を繰り広げている。キョラ族の女王卑弥呼緑魔子)とナマ族の国王ナマゴン(PANTA)は、聖地マブイの丘をめぐって決戦に臨む。そんな中、はたして梓は本当に宝物を見つけることができるのか……。

あらすじを聞いても「なんじゃ、そりゃ?」と思うのではないだろうか。ジャンル分けは不能。主人公の成長物語、冒険ファンタジー、政治風刺劇、異形の者とのロマンス、戦争ドラマ、アングラ演劇などなど、いろんな要素がギッシリ詰まっている。まるで、おもちゃ箱をひっくり返したような大騒ぎなのである。

けっして難解な映画ではない。しかし、予想もしない展開が次々に続いてあっけに取られてしまう。それがどこに着地するのかも予測不可能だ。おかげで、ついついスクリーンに引きずり込まれてしまう。良い映画か悪い映画かなどという評価は、もはやどうでもよい。面白い。とにかく面白い。だから、4時間5分という長さを感じなかった。

悪ふざけ気味のユーモアも魅力だ。冒頭近くで梓が生徒からカンチョーされて失神したり、フィアンセを取られた相手がとんでもない女だったり、第2章で梓がキャピキャピの衣装で選挙運動を展開したり。あまりにもバカバカしくて、無条件に笑ってしまうのである。

そして、何といっても目を引くのが個性派俳優たちの演技だ。主演の有森也実は、ひょうきんな面からシリアスな面まで多彩な演技を披露。終始梓と関わりを持つペテン師役の武藤昭平もいい味を出している。革命家の石橋蓮司の規格外の演技は怪演としか言いようがないし、彼のかつてのバンド仲間(2人の若き日の写真が爆笑モノ)役の柄本明の味のある演技も見事。悪徳市長役のベンガル、武器商人役の江口のりこなども存在感たっぷりだ。みんな何かに憑かれたような演技である。

なかでも驚いたのは、4章に登場する緑魔子だ。70歳を超えているというのに、かつてのアングラ演劇を思い起こさせるブチ切れた演技で、キョラ族の女王を熱演している。これにはビックリである。彼女と敵対するナマ族国王を演じたPANTAも、底知れぬ恐ろしさを漂わせる演技だった。

ラストは神話的な世界に突入する。そして、梓の旅の落とし前がつけられる。とはいえ、ありがちな再生や成長をスクリーンに刻むわけではない。希望を感じさせはするものの、それでもかなりアクの強い結末だ。赤ん坊の顔がぁぁぁぁぁ~~~!!

うーむ、この映画を的確に表現することは困難である。パンク、カオス、アバンギャルド、奇想天外、荒唐無稽、縦横無尽……どんな言葉を使っても当たっているような、いないような。あえていえば、かつて本作の片嶋一貴監督がプロデューサーを務めた「ピストルオペラ」などの鈴木清順監督の作品や、若松孝二監督の作品などと共通するところがあるかもしれない。

いやいや、やっぱりそれとも違うな。唯一無二。こんな日本映画は過去に観た記憶がない。理屈を超えて、桁外れのパワーに圧倒されてしまった。何度も夢に出てきそうな映画である。よくもこんな映画を構想し、実際に作ってしまったものだ。これは快挙、いや怪挙か?

この映画を観て改めて思った。「やっぱり映画って自由なんだな」と。この先も、まだまだ想像もしない映画に出会えそうである。

●今日の映画代、先日のイベントでサイン入りパンフと合わせて2500円で購入。定価は鑑賞券2000円、パンフ1000円だからずいぶんお得。

*この日は公開初日ということで舞台挨拶あり。片嶋一貴監督、有森也実武藤昭平、山根和馬PANTAが出席。

f:id:cinemaking:20170514211609j:plain