映画貧乏日記

映画貧乏からの脱出は可能なのだろうか。おそらく無理であろう。ならばその日々を日記として綴るのみである。

「スプリット」

「スプリット」
ユナイテッド・シネマとしまえんにて。2017年5月15日(月)午前11時45分より鑑賞(スクリーン2/自由席)。

栄光などとは無縁のオレなので、栄光をつかんだ者の気持ちはわからない。だが、はた目には幸福に見えても、実際はそれほど穏やかな心持にはなれないのではないか。なぜならその栄光からあっさり転落することも珍しくはないのだから。

インド出身のM・ナイト・シャマラン監督といえば、1999年の「シックス・センス」が大ヒットし、ハリウッドで一気に栄冠をつかんだ男である。続く2000年の「アンブレイカブル 」も、なかなか面白い映画だった。だが、それ以降の作品は正直なところ駄作も目立った。栄光の座から転落して、完全な低迷期に入ったと見るのはオレだけではないだろう。

ところが、2015年の「ヴィジット」は原点に返ったような作品で、シャマラン復活を印象付けた。はたして、復活は本物なのだろうか。そんな中で登場した作品が、「スプリット」(SPLIT)(2017年 アメリカ)である。

冒頭のシーンは高校生の誕生パーティー。そこに出席していたケイシー(アニヤ・テイラー=ジョイ)、クレア(ヘイリー・ルー・リチャードソン)、マルシアジェシカ・スーラ)の女子高生たち。3人は車で帰り道に着こうとする。だが、発車直前に車に見知らぬ男が乗り込み、催眠スプレーで3人を眠らせて拉致監禁してしまう。

目を覚ますと3人は鍵の掛かった密室に閉じ込められている。そこにやってくるのが、潔癖症気味でいかにも冷酷非道そうな男。さっきの誘拐犯(ジェームズ・マカヴォイ)である。ところが、その後部屋には女装した誘拐犯が現われる。言葉も女言葉で別人のようだ。さらに、9歳の無邪気な少年なども登場。誘拐犯は、現われるたびに格好や性格が変っている。何じゃ? こりゃ。

実は、この男には23もの人格が宿っていたのだ。そして近いうちに“ビースト”と呼ばれる恐ろしい24番目の人格が現れるというではないか。はたして、ケイシーたちは脱出できるのか……。

最初に多重人格の映画と聞いた時には、それを最後のオチに持ってくるのかと思ったのだが、そうではなかった。誘拐犯が多重人格であることは、早いうちにわかってしまう。しかし、それがわかっても面白さは消えない。

描かれるのは3つのドラマだ。1つは監禁された女子高生たちが、何とか脱出しようともがくドラマ。それをケレン味たっぷりに描く。地下室をあちこち移動しながら、女子高生VS誘拐犯の対決が続く。得体の知れない相手に監禁された女子高生たちの恐怖がどんどん増幅する。必死で脱出を目指すものの失敗に終わり、彼女たちはますます窮地に追い詰められていく。

それと並行して描かれるのは、誘拐犯の男が女性の精神科医のところに行って、彼女と対話するドラマだ。その対話の中から、精神科医は男の異変に気付き、やがて行動を起こす。

3つめはケイシーの幼少時のドラマだ。彼女は常に反抗的で人を寄せ付けない。その原因は幼少時の出来事にある。その悲惨な事件を現在進行形のドラマに挿入する。彼女が今も抱える大きなトラウマが、誘拐犯の抱える心の傷ともシンクロして、ドラマに厚みを加えている。

映画の後半でケイシーは、誘拐犯の多重人格をうまく利用して脱出を試みる。このあたりの展開も面白いところだ。だが、そう簡単に脱出できはしない。最も恐ろしい24人目の人格の出現を前にして、3人の女子高生、誘拐犯、精神科医が交わり、恐怖と旋律は最高潮に達する。

それにしても誘拐犯の恐ろしさときたら半端ない。ただの多重人格ではなく、それによって外見も性格も変わってしまい、さらに肉体的にも変化するという設定が秀逸だ。冷静に考えれば、「そんなことあるのかな」と疑問にも思うのだが、話の運びがうまいので観ている間は気にならない。

その誘拐犯を演じるジェームズ・マカヴォイの怪演が素晴らしすぎる。若手演技派として知られているが、その才能をいかんなく発揮。人格ごとに表情やしぐさを使い分け、それぞれの違いを際立たる。内に秘めた底知れぬダークサイドは、背筋ゾクゾクものの恐ろしさである。

ケイシー役のアニヤ・テイラー=ジョイも、トラウマを抱える内省的な側面と、恐怖に身を震わせる絶叫クイーンの両面を演じて存在感を示す。

クライマックスでいよいよ登場する24番目の人格。いったん窮地を脱したかに見えるケイシーだが、恐怖は終わらない。その後もギリギリの場面が続き、ハラハラドキドキが途切れない。

ラスト近くでケイシーには、大きな転機が訪れる。警察官からある事実を告げられたケイシーの微妙な表情。彼女は、その後どんな選択をしたのか。観客の想像を促す余韻の残るシーンである。

そして、この映画の最後にはオマケがある。シャマラン監督の過去のある作品にまつわる「ミスター・ガラス」という言葉が飛び出す。しかも、そこにはあの人物がいるではないか!!

というわけで、本作が「シックス・センス」以来久々に全米3週連続1位に輝いたおかげで続編の製作が決定したとか。それは本作だけでなく、ラストに登場した過去のシャマラン作品の続編でもあります。シャマラン監督、復活できてよかったね。

ちなみに、自身の作品には必ず自ら出演するシャマラン監督。今回もバッチリ顔を出しているので、そこにもご注目を。

●今日の映画代、1400円。事前にムビチケ購入済み。