映画貧乏日記

映画貧乏からの脱出は可能なのだろうか。おそらく無理であろう。ならばその日々を日記として綴るのみである。

「皆はこう呼んだ、鋼鉄ジーグ」

「皆はこう呼んだ、鋼鉄ジーグ
ヒューマントラストシネマ有楽町にて。2017年5月24日(水)午後2時15分より鑑賞(スクリーン1/D-12)。

ユニークな邦題の映画はいろいろある。最近では、ジェイク・ギレンホール主演の「雨の日は会えない、晴れた日は君を想う」、グザヴィエ・ドラン監督の「たかが世界の終わり」あたりは、けっこう変わっているかもしれない。

だが、そんなものと比較できないほど変わっているのが、「皆はこう呼んだ、鋼鉄ジーグ」(LO CHIAMAVANO JEEG ROBOT)(2015年 イタリア)である。なんだ? 鋼鉄ジーグって?

なんでも「鋼鉄ジーグ」とは、1975年に日本で放送され、79年にはイタリアでも放送された永井豪原作のアニメらしい。本作が長編デビューとなったブリエーレ・マイネッティ監督は、どうやら日本のアニメの大ファンのようだ。ちなみに、この映画が始まると「皆はこう呼んだ、鋼鉄ジーグ」という日本語のタイトルが大々的に登場する。どう考えても、この監督、オタクである。

そんなわけで、この映画もマニアックなオタク映画なのだと思い込んでいた。ところが、実際に観たら全然違っていた。見せ場タップリのエンターティメント映画だったのだ。

舞台はテロの脅威にさらされるローマ郊外。裏街道を歩く孤独なチンピラのエンツォ(クラウディオ・サンタマリア)が、警察に追われている。どうやら彼はドロボーで、腕時計を盗んで追われているようだ。しかし、逃げ場をなくして仕方なく、川に飛び込んで隠れる。するとそこには不法投棄したらしい放射性物質があって、彼は放射能を浴びてしまう。それによって、エンツォは超人的パワー(不死身&スーパーパワー)を獲得してしまうのだ。

それにしてもエンツォときたら、ワルとはいえただのチンピラだ。しかも、恋人も友達もなく、趣味はエロビデオ鑑賞。格好もヒゲ面のダサダサ。まさにダメ男を絵にかいたような人物なのだ。そんな人物が超人的パワーを獲得してしまうのが、何とも皮肉ではないか。

その後エンツォは、世話になっていたオヤジ的存在のセルジョに従って、麻薬絡みの現場に向かう。しかし、そこでトラブルが起きて、セルジョは殺されてしまう。エンツォも肩を撃たれ、高所から転落してしまうのだが、そこはさすがに超人的パワーの持ち主。すぐに回復して元通りになる。

ただし、死んだセルジョには娘のアレッシア(イレニア・パストレッリ)がいる。突然行方不明になったセルジョを探すギャングたちは、彼女を問い詰め、痛めつけようとする。エンツォは彼女のピンチを救い、それをきっかけに彼女の面倒を見る羽目になる。

実はアレッシアはもう立派な大人の女性なのだが、母の死などのせいで、現実と空想の区別がつかないなど精神的な問題を抱えている。そしてアニメ「鋼鉄ジーグ」のDVDを片時も離さない熱狂的なファンで、エンツォを「鋼鉄ジーグ」の主人公の司馬宙と同一視してしまうのである。

アレッシアにとって鋼鉄ジーグは正義のヒーローだから、エンツォにもそれを期待するわけだ。しかし、エンツォはそんな立派な人物ではない。超人的パワーを使ってATMを強奪したり、現金輸送車を襲ったりとロクなことをしないのだ。やれやれ。

それでも少しずつエンツォとアリッシアは距離を縮め、やがて2人の間には愛情らしきものが芽生える。このあたりは武骨なラブストーリーの雰囲気も漂う。ピンクのドレスを着たアリッシアの姿が印象的だ。

ガブリエーレ・マイネッティ監督の演出は、全編を通してケレン味にあふれている。アクションシーンだけでなく、普通のシーンでも大胆なカメラワークを繰り出すなど、様々な工夫で観客を飽きさせない。「鋼鉄ジーグ」のアニメ映像なども使いつつ、ユーモアも交えながらドラマを盛り上げる。

やがてドラマは大きな転機を迎える。エンツォとアリッシアの周囲では、ギャングが抗争を展開し、そこに爆弾事件なども絡んでくる。その中で、2人はギャングのリーダーのジンガロ(ルカ・マリネッリ)に目をつけられ、抗争の渦中に巻き込まれてしまう。そして、悲劇が……。

傷心のエンツォだがドラマは続く。一度は殺されたと思ったある人物が、エンツォと同じように超人的パワーを獲得し、悪のヒーローとして生まれ変わる。そして、エンツォはその人物と対決する。そうである。彼はついに、アリッシアが期待していた正義のヒーローとなって、悪のヒーローと闘うのだ。

そこからは圧巻のアクションの連続。サッカー・スタジアムを舞台に、ハラハラドキドキのバトルが展開し、そして余韻の残るエンディングへとなだれこむ。そこでも「鋼鉄ジーグ」が重要な役割を果たす。

そういえば、最初はダサいダメ男だったエンツォが、最後にはかっこよく見えてくるから不思議なものだ。孤独なダメ男が、初めて愛を知り、そしてヒーローになるドラマが胸に響く。同時に、激しいアクションやラブロマンスなどの見せ場もタップリだ。

エンターティメントとしてなかなか充実した昨品である。鋼鉄ジーグのことなど知らなくても(オレもそうだが)、十分に楽しめるはずだ。

●今日の映画代、1100円。テアトルシネマ系の毎週水曜のサービス料金。