映画貧乏日記

映画貧乏からの脱出は可能なのだろうか。おそらく無理であろう。ならばその日々を日記として綴るのみである。

「美しい星」

「美しい星」
シネ・リーブル池袋にて。2017年5月26日(金)午後2時20分より鑑賞(スクリーン2/G-4)。

三島由紀夫は好きじゃない。思想信条以前に、割腹自殺したという事実がどうにも受け入れられない。だって、痛いじゃないですかぁ~。オレ、痛いのダメなんですよ。想像しただけで気持ち悪くなっちゃいますよ。弱虫でごめんネ。

とはいえ、作品は別だ。そんなに多くの三島作品を読んだわけではないが、なるほど名作だと思える作品に出会ったことはある。さすがにノーベル文学賞候補になった人物だ。そこは素直に評価している。

そんな三島由紀夫がSF小説を書いていたというのを初めて知った。その小説を映画化した映画が「美しい星」(2016年 日本)(上映時間2時間7分)である。監督は、「クヒオ大佐」「桐島、部活やめるってよ」「紙の月」などでおなじみの吉田大八。地球温暖化などの話を前面に出して原作を現代風にアレンジしているようだ。

主人公はお天気キャスターの大杉重一郎(リリー・フランキー)。しかし、彼の予報は当たらないことで有名だ。冒頭は、そんな彼がレストランで家族と食事するシーン。妻の伊余子(中嶋朋子)と、女子大生の娘・暁子(橋本愛)。ただし、フリーターの息子・一雄(亀梨和也)がなかなか現れず、重一郎はイラついている。しかも、彼は家族に隠れて愛人に電話しているのだ。

とくれば、これはどう考えても崩壊しかけた家族だ。彼らが再び絆を結ぶまでのドラマが、この映画の大きな要素だとわかる。

しかし、それを奇想天外な過程で実現するのが、この映画の面白いところだ。重一郎は車を運転中に不思議な光に包まれて、それをきっかけに自分が火星人だと自覚するようになる。また、娘の暁子は、謎のストリートミュージシャンと出会ったことから、自分は金星人だと自覚する。さらに、息子の一雄も謎の代議士秘書と知り合ったのをきっかけに、自分は水星人だと自覚する。こうして家族は次々に覚醒するのである。

これで妻の伊余子が木星人にでも覚醒すれば、家族揃って宇宙人ということになるわけだが、残念ながら(?)彼女は地球人のままだ。ただし、彼女は怪しい水ビジネスにはまっていく。

一方、宇宙人として覚醒した重一郎、一雄、暁子は、それぞれ地球を救うべく行動を開始する。重一郎はテレビ番組で「地球温暖化阻止」を強烈にアピール。美しすぎて周囲から浮いてしまう暁子は、地球人に真の美を知らしめるためミスコンに出ようとする。また、一雄はこちらも地球を救うと信じて、代議士秘書(水星人)の指示に従って行動する。

こうして地球を救うために動き出した家族の姿を、あの手この手で盛り上げて楽しく見せるのが吉田監督の真骨頂だ。それを通して、家族の再生に加え、地球温暖化、美に対する考え方、水ビジネスの怪しさなど様々なテーマを描き出していく。

感心するのは、シリアスと笑い、リアルと荒唐無稽のバランスの良さである。マジなテーマについて正攻法から描くかと思えば、人を食ったような笑いで観客を煙に巻く。いかにもありそうなエピソードを展開した後で、宇宙人ネタを中心に「アホかいな」と思わせるような話を紡ぎ出す。UFOとの交信、異星人の子を妊娠など、この手のSFらしいネタも満載だ。おかげで、予想もしない展開が次々に続いて、最後まで飽きることがなかった。

それにしても、こんなにとっ散らかった展開で、どうやって話を収束させるのかと思ったら、そこはさすがに吉田監督。後半には重一郎と一雄の論争を配置する。それは地球をどう認識するかという異星人同士の意見の食い違いであると同時に、親子=世代間の論争でもある。このあたりから、人間ドラマが色濃く出る。

そのはてに用意されているのが、家族の再生だ。ありがちではあるものの、素直に感動してしまう。特に、重一郎と暁子とのウソと真実に関する告白が胸にジワーっとしみてくる。伊余子の水ビジネスも、実は家族の絆を取り戻そうとしての行動だったことがわかり、家族の再生につながっていく。

ラストもユニークだ。人間ドラマと、SFと、人を食った笑いがごちゃ混ぜになった展開。死に瀕した重一郎と家族による逃走劇、そこで映る夜景の美しさ、なぜか出現する牛。そして、いよいよUFOの登場だっ!!

というわけで、いろんなものが詰め込まれ、怒涛の2時間7分が終了。それだけに人によって好き嫌いは分かれそうだが(SFとはいえ、かなり変わっているし)、地球や人間に対する愛情が感じられる映画なのは間違いないだろう。

俳優陣は、この一風変わった物語にふさわしくハジケた演技を見せている。亀梨和也橋本愛中嶋朋子佐々木蔵之介羽場裕一など、いずれも見応えある演技だ。しかし、一番すごいのはリリー・フランキーだろう。地球温暖化を訴えるときの決めポーズで笑わせ、終盤の娘とのシリアスなシーンで泣かせる。彼なしではこの映画の魅力は半減したと思う。彼が出る映画はやっぱり見逃せない。

●今日の映画代、1000円。テアトルシネマ系のTCGメンバーズカードの有効期限が切れたので、再度入会。入会金1000円支払い。映画を1000円で観られる割引券を1枚ゲット。そして、この日は毎週火・金曜のサービスデーで1000円で鑑賞。