映画貧乏日記

映画貧乏からの脱出は可能なのだろうか。おそらく無理であろう。ならばその日々を日記として綴るのみである。

「22年目の告白-私が殺人犯です-」

「22年目の告白-私が殺人犯です-」
ユナイテッド・シネマとしまえんにて。2017年6月19日(月)午前11時15分より鑑賞(スクリーン1/自由席)。

2011年の東日本大震災の際の記憶は鮮明にあるのだが、1995年の阪神淡路大震災の記憶はほとんどない。それでもテレビのニュースを見て、戦慄を覚え、何かしなければと思って、郵便局に募金に走ったことだけは記憶している。

映画「22年目の告白 私が殺人犯です」(2017年 日本)の冒頭は、その阪神淡路大震災の映像からスタートする。なぜなら、それはまさに1995年に起きた猟奇連続殺人事件をめぐるドラマだからだ。2012年の韓国映画「殺人の告白」を「SR サイタマノラッパー」「ジョーカー・ゲーム」の入江悠監督がリメイクした。

導入部で描かれる阪神淡路大震災の惨状と、その頃に起きた5件の連続殺人事件の概要。それが時効に至った経緯をテンポよく見せて、観客をスクリーンに引き込む。

それから22年後。事件の犯人だと名乗る曾根崎雅人(藤原竜也)という男が記者会見を行う。そして彼は告白本を出版して、それがベストセラーになる。曾根崎は積極的にマスコミに登場し、サイン会を開き、被害者家族に対して派手な謝罪パフォーマンスをするなど話題の人になっていく。

その経緯をSNSを効果的に使うなどして見せていくところも、入江監督のセンスの良さがうかがえる。記者会見やサイン会などのシーンも、ケレン味タップリで観客を刺激する。同時に今の世相とも連動して、リアル感を醸成していく。

まあ、何しろ曾根崎を演じるのは藤原竜也である。こういうワルをやらせたら右に出る者はいない。底知れぬ恐ろしさと憎たらしさを振りまいて、観客に「ホンマに嫌なヤツだなぁ~」と思わせてしまうのだ。

そんな曾根崎と対するのが、刑事の牧村(伊藤英明)だ。彼は事件当時駆け出しの刑事で、先輩とともに捜査にあたっていた。そして、犯人を逮捕寸前まで追い詰めたもののとり逃し、犯人の罠にはまって上司を殺されてしまったのだ。

そんな彼の前に突然現れた真犯人。牧村は怒りや後悔の念にさいなまれる。しかし、時効が成立しているのでどうしようもない。その焦燥感ややり場のない怒りがスクリーンを覆いつくす。

怒りを感じているのは被害者家族も同様だ。ヤクザの親分、病院の院長、書店員の女の子など、各自がそれぞれの思いを抱え、自らの手で復讐に乗り出そうとする。

何しろ事件はあまりにも猟奇的なものだ。犯人の殺害方法は背後からの絞殺。しかも、いずれも被害者と親しい者に殺人の瞬間を見せつける恐怖のルールに沿った犯行だ。だから、なおさら被害者家族の怒りはすさまじいわけである。

犯人はその犯行を映像に記録していたという設定で、そのものズバリの犯行シーンがあちこちにはさみこまれる。このへんはかなりエグいので、人によっては目をそむけたくなるかもしれない。それでも、サスペンスとしてのスリリングさだけでなく、ホラー映画的な怖さをこの映画に加味しているのは間違いない。とにかく背筋ゾクゾクものの怖さなのである。

ちなみに、殺人など凶悪犯罪の時効は2010年に廃止され、さかのぼって適用されることになったが、問題の事件はその期限ぎりぎりに起きたため時効になったという設定だ。ただし、それがラストで予想外の展開を見せる。

中盤になると、事件を追い続けてきた仙堂というジャーナリストが前面に出てくる。彼は元戦場ジャーナリストで、今はニュース番組の司会をしており、曾根崎を自身の番組に出演させる。このあたりからは、曾根崎を取り上げるドキュメンタリー番組のカメラ映像を駆使する仕掛けによって、緊張感をさらに高めている。

そんな中で、実は連続殺人事件に関連して、牧村刑事の妹が行方不明になっているというもう1つの事件が発覚する。その一件に絡んで、「真犯人は曾根崎ではなくオレだ」という人物まで登場する。

後半の最初のヤマ場は仙堂の番組で、曾根崎、牧村、真犯人を名乗る人物が対決するシーンだ。さあ、いったい何が起きるのか。事件の真相はどうなっているのか。期待に胸が膨らむ。

と思ったら、え? まさか? そんな。曾根崎の正体と、彼が書いた本の本当の著者を聞いて、オレは拍子抜けしてしまった。そりゃあ、いくらなんでも強引だろう。テレビの2時間サスペンスじゃないんだから。あまりにもリアリティに欠ける展開だ。

その後は事件の全容が明らかになるのだが、それも何だかなぁ~。松田優作主演の某映画を思わせる既視感。しかも、強引でわざとらしい。「あわや」の最後の展開も含めてやっぱり2時間サスペンス風。あとは崖と船越英一郎が出てくれば完璧か!?

というわけで、前半から中盤までは観応え十分だっただけに、終盤のバタバタ感がどうにももったいないところだ。あそこまでヒネらなくても、当事者たちの心理などで十分に見せられたのでは?

そんな中、キャストはいずれも適役。藤原竜也伊藤英明仲村トオルらの対決に加え、夏帆岩松了岩城滉一などの脇役もなかなかの存在感だったと思う。

こうしていよいよエンドロール。ゲゲゲッ!!! それはいくら何でもやりすぎでしょう。最後の最後まで観客を楽しませようとする意図はわかるのだが、オレはそのやりすぎ感に思わず苦笑してしまったのである。

●今日の映画代、1500円。ユナイテッド・シネマの会員料金で。