映画貧乏日記

映画貧乏からの脱出は可能なのだろうか。おそらく無理であろう。ならばその日々を日記として綴るのみである。

「ダンケルク」

ダンケルク
TOHOシネマズ日本橋にて。2017年9月20日(水)午後7時15分より鑑賞(スクリーン8/I-15)。

クリストファー・ノーラン監督の「メメント」(2000年)を観た時にはぶっ飛んだ。記憶が短時間しか持たない男を描いていて、それゆえ時間軸を解体して再構成して見せるという離れ業を仕掛けていたのだ。

このインディーズ作品が出世作となり、ノーラン監督は「バットマン」シリーズや「インセプション」「インターステラー」などのハリウッド大作を撮るようになったわけだ。それでも、そうした作品の多くにノーラン監督の個性が色濃く反映しているのが面白い。

話題の新作「ダンケルク」(DUNKIRK)(2017年 アメリカ)にも、ノーラン監督らしさはしっかり盛り込まれている。

ダンケルクとはフランス北端の地名。第二次世界大戦で、どんどん侵攻するドイツ軍によって、英仏連合軍の兵士40万人がダンケルクに追い詰められてしまう。そこでイギリス首相のチャーチルは、彼らを救出する決死のダイナモ作戦を発動する。その結果、兵士の犠牲を最小限に抑えることに成功し、その後の戦局に大きな影響を与えた。その史実をクリストファー・ノーラン監督が映画化したのである。

映画は街の中から始まる。若き英国兵トミー(フィオン・ホワイトヘッド)が街中を必死で逃げ回る。しかし、突然の銃撃で仲間はバタバタと死んでいく。ようやく海岸にたどり着いたトミー。そこには多数の兵士たちが救助の船を待っていた。

ここからトミー目線でのドラマが続くのが普通の映画。しかし、ノーラン監督はそんな普通のことはしない。トミーたち浜辺の兵士のドラマ、空中戦に飛び立ったイギリス空軍のパイロットのドラマ、そして軍に徴用されてダンケルクに向かうイギリスの民間船(それもほとんどが小さな船)のドラマという3つの要素を並行して描くのである。

それも3つの要素は時間軸が違う。浜辺の出来事は1週間、民間船は1日、空軍パイロットは1時間。それを巧みに絡ませて描くのは並大抵のことではない。さすがに「メメント」で、時間軸を再構成して見せたノーラン監督らしい構成だ。

それが破格のスリルを生み出している。最初から最後まで緊張感がまったく途切れない。3つの要素とも「ヤバイ!」場面の連続でハラハラドキドキが続くのだ。

浜辺の兵士たちは船に乗り込んで逃げようとするものの、敵の銃撃によって船が沈む。そのうちトミーたちは、座礁した船に乗り込んで満潮とともに脱出しようとするのだが、その船が敵の銃撃訓練の標的になり穴だらけになってしまう。

一方、空軍パイロットの戦いでは敵機を見事に撃墜するものの、自分も銃撃されて不時着を余儀なくされる。しかも、脱出できずに機内に閉じ込められてしまう。

また、民間船では途中で行き場をなくしていた一人の兵士を救うのだが、敵の攻撃でトラウマを負っていた彼が大暴れしたために、大変なことになってしまう。

そんな3つの視点の様々なドラマを、絶妙に組み合わせて見せるのだから、これが面白くないわけがないのである。

これだけの大規模なスケールのアクションなのに、極力CGを使わずにIMAXフィルムカメラなどを駆使して実写で撮っているというのも驚きだ。リアルな映像になるのも当然だろう。兵士たちが乗り込んだ船が魚雷に砲撃されて沈没するシーンも、ほぼ実写で撮ったとか。ドイツ軍戦闘機との空中戦も、実際にコックピットにカメラを取り付けて撮影しているのだから、ある意味常軌を逸している。

おなじみのハンス・ジマーによる音楽(というかサウンドといったほうがいいかも)も、破格の緊迫感を煽る。そんなわけで、観客はまるで自分も戦場にいるような臨場感に叩き込まれてしまうのである。

戦場を舞台にしているだけに、戦争の様々な側面も見えてくる。仲間のはずのフランス軍兵士をイギリスの兵士たちが差別したり、それどころかイギリス軍内部で仲違いしたりと、「戦争の修羅場ではこんなことまで起きてしまうのだ」的な側面がところどころで描かれる。

とはいえ、戦争の本質に迫っているわけではない。ノーラン監督自身にも、そういう意図はないようだ。瀬戸際に追いやられた人間の姿をスリリングに描くことに専心しているのだろう。

それでも、ラストはちょっと意味深に思える。イギリスにとって撤退戦とはいえ、奇跡の快挙に違いないわけで、この映画にはあちらこちらに「イギリス万歳」的な雰囲気が漂っている。ラストでもそれが見えるのだが、新聞記事を読む形で語られるのが印象的。もしかしたら、愛国的な色合いは、けっして作り手が主体的に生み出しているのではないことを示そうとしたのかもしれない。というのは深読みのしすぎか?

これといった人間ドラマはないから、役者が目立ちにくい映画ではあるものの、それでも名優ケネス・ブラナーをはじめ、キリアン・マーフィ、マーク・ライランス、トム・ハーディあたりが、さすがの存在感を発揮している。新人のフィオン・ホワイトヘッドもなかなかの演技だ。

細かなことを抜きにしても、破格の臨場感とスリルは体感してみる価値が十二分にある映画だと思う。観るならやはり大スクリーンの劇場がおすすめだ。

●今日の映画代、1400円。事前にムビチケ購入済。

◆「ダンケルク」(DUNKIRK
(2017年 アメリカ)(上映時間1時間46分)
監督・脚本・製作:クリストファー・ノーラン
出演:フィオン・ホワイトヘッドトム・グリン=カーニー、ジャック・ロウデン、ハリー・スタイルズアナイリン・バーナードジェームズ・ダーシーバリー・コーガンケネス・ブラナーキリアン・マーフィ、マーク・ライランス、トム・ハーディ、マイケル・フォックス、ジョン・ノーラン
丸の内ピカデリーほかにて全国公開
ホームページ http://wwws.warnerbros.co.jp/dunkirk/