映画貧乏日記

映画貧乏からの脱出は可能なのだろうか。おそらく無理であろう。ならばその日々を日記として綴るのみである。

「僕のワンダフル・ライフ」

僕のワンダフル・ライフ
TOHOシネマズ日劇にて。2017年10月1日(日)午後2時30分より鑑賞(スクリーン3/N-18)。

子供のころ実家でコロという名前の犬を飼っていた。スピッツと何かの雑種だった。だが、残念ながら病気で死んでしまった。フィラリアだった。今では予防するのが常識になっているが、当時はそんな病気があることさえまったく知らなかった。

そんなこともあって、またいつか犬を飼って、死んだコロの分も可愛がろうと思い続けているのだが、ペットの飼えない賃貸物件に一人暮らしとあって、いまだに実現していない。

そういう事情が影響しているのかどうかは知らないが、犬を描いた「ドッグ・ムービー」にはどうも弱い。2004年のオムニバス映画「いぬのえいが」では、宮崎あおい演じる主人公が愛犬との暮らしを綴った「ねぇ、マリモ」というエピソードで号泣してしまった。

僕のワンダフル・ライフ」(A DOG'S PURPOSE)(2016年 アメリカ)もドッグ・ムービーだ。W・ブルース・キャメロンのベストセラー小説をスウェーデン出身の名匠ラッセ・ハルストレム監督が映画化した。ハルストレム監督にとって、「マイライフ・アズ・ア・ドッグ」(1985年)、「HACHI 約束の犬」(2008年)に続くドッグ・ムービー第3弾ということになる。

ちなみに、ハルストレム監督は犬の映画ばかり撮っているわけではない。「ギルバート・グレイプ」(1993年)、「サイダーハウス・ルール」(1999年)、「ショコラ」(2000年)など、犬とは関係ない素晴らしい映画もたくさん送り出しているので、誤解のないように。

さて、本作のタイトル「僕のワンダフル・ライフ」の「僕」とは人間のことではない。犬のことである。つまり、この映画は犬が主人公の、犬目線で描かれたドラマなのだ。

主人公の犬はゴールデン・レトリバーの子犬ベイリー。暑い夏の日に車に閉じ込められているところを8歳の少年イーサン(ブライス・ガイザー)に助けられ、彼の家で飼われるようになる。夏休みにはイーサンとアメフトのボールで毎日のように遊ぶなど、強い絆で結ばれていく。その様子を生き生きと描き出していく。

ユーモアもタップリだ。ベイリーは、イーサンの父親が大切にしていたコインを飲み込んでしまうのだが、それを“回収”する経緯が笑える。

犬が主人公だけに、アップで人間の顔をとらえた映像など犬目線の映像がたくさん登場する。それと並行して飼い主側に立った人間目線の映像も織り込んでいく。この組み込み方が実に巧みだ。

犬によるモノローグでドラマが進行するのもユニークなところ(ただし、それがクドくて邪魔なところもあるにはあるのだが)。

やがてイーサンは高校生になる。ベイリーも成長する。ベイリーが自分の尻尾を追いかけてぐるぐる回っているうちに大きくなったり、アメフトのボールが空を飛ぶうちにイーサンが成長している仕掛けなども、とてもセンスがいいと思う。

高校生になったイーサン(K・J・アパ)はフットボールのスター選手になる。その傍らにはいつもベイリーがいた。ベイリーは遊園地でイーサンとハンナ(ブリット・ロバートソン)という女の子の出会いまで演出する。おかげで2人はたちまち恋人同士になる。

その一方で、イーサンの父はアル中になり家を出てしまう。そんな悲しい時にも、ベイリーはそばでイーサンを支える。その様子を見ているだけで、犬と人間との絆の強さが自然に伝わってくる。

そして、さらに悲しい出来事が飽きる。イーサンはある事件によってフットボール選手の夢を絶たれてしまうのだ。そんな中、ベイリーはついに寿命を迎えてしまう。これでドラマは終了。

かと思ったら、そうではなかった。何とベイリーは、その後何度も生まれ変わるのだ。最初はジャーマン・シェパードのエリーという警察犬。警察犬としてきっちり仕事をこなすだけでなく、相棒の孤独な警察官カルロスに寄り添い心を温める。しかし、ある事件によってエリーは命を落としてしまう。

続いてティノというコーギーに生まれ変わり、人づき合いが苦手な女子大生マヤと仲良くなる。そして彼女に新たな出会いをもたらす。

ハルストレム監督以下スタッフの手際の良さが目につく。何よりも犬たちの素晴らしい演技を引き出している。彼らの目だけで感情が伝わるシーンもある。

それにしても、このドラマの結末はどこに落ち着くのだろう。まさか、永遠に生まれ変わり続けるわけでもないだろうに。

そう思った頃にドラマは大きく動く。ベイリーはまた生まれ変わる。今度は虐待まがいの飼い方をされ捨てられてしまうのだが、その先に奇跡が待ち受けているのである。

終盤の詳細は伏せておくが、ベイリーが生まれ変わりを繰り返す理由に思いを馳せれば、その奇跡が何かわかるはずだ。ベイリーは最初の死にあたって、イーサンを幸せにできなかったことに大きな悔いを残したまま死んでいった。それがついに……。

終盤は犬好きならずとも、感動できるはずだ。感動を押し売りするのではなく、自然に心を温めてくれる演出は、さすがにハルストレム監督の熟練の技である。大人になったイーサンを演じるデニス・クエイドの顔も、年輪を感じさせ、彼の人生のドラマに深みを与えている。

それぞれのエピソードは薄味だが、全体を犬目線の描写と輪廻転生のドラマで括ることで、見応えが生まれている。犬好きかどうかを問わず、温かな気持ちになりたい人にはおススメの映画だと思う。

●今日の映画代、1100円。毎月1日のファーストデイのサービス料金にて鑑賞。

◆『僕のワンダフル・ライフ』(A DOG'S PURPOSE)
(2016年 アメリカ)(上映時間1時間40分)
監督:ラッセ・ハルストレム
出演:デニス・クエイド、ペギー・リプトン、ブライス・ガイザー、K・J・アパ、ブリット・ロバートソンジョン・オーティス、ジュリエット・ライランス、カービー・ハウエル=バプティスト、プーチ・ホール、ルーク・カービー、マイケル・ボフシェヴァー、ガブリエル・ローズ、ジョシュ・ギャッド(声の出演)
*TOHOシネマズ日劇ほかにて全国公開中
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