映画貧乏日記

映画貧乏からの脱出は可能なのだろうか。おそらく無理であろう。ならばその日々を日記として綴るのみである。

「ポルト」

ポルト
新宿武蔵野館にて。2017年10月11日(水)午前9時45分より鑑賞(スクリーン3/B-3)。

ジム・ジャームッシュといえば、先日公開された「パターソン」をはじめ独特の世界観を持つ作品で知られる監督だ。そんな彼が製作総指揮を務めた映画が公開になった。ポルトガル北部の港湾都市ポルトを舞台にしたアメリカ人の男とフランス人の女によるラブストーリー「ポルト」(PORTO)(2016年 ポルトガル・フランス・アメリカ・ポーランド)である。

こうした異国の地での異邦人同士の刹那的なロマンス話は、数限りなくある。というわけで話自体は陳腐なのだが、それをあの手この手で魅惑的かつ独特なタッチの作品に仕上げているのが、この映画のミソだ。

主人公は26歳のアメリカ人青年ジェイク(アントン・イェルチン)。家族が住むリスボンを離れてこの地で暮らしている。一方、32歳の考古学を学ぶフランス人留学生マティ(リュシー・リュカ)は、ソルボンヌの大学で知り合ったポルトガル人の教授ジョアンとともにこの地にやって来た。

そんなある日、考古学調査の現場でジェイクとマティは互いの存在に気づく。ジェイクは臨時雇いの作業員として、そこで働いていたのだ。その後カフェで2人は再会し、マティはジェイクに引っ越しの手伝いを頼む。そして、まだ家具もベッドもない新居で一夜の関係を結ぶのだった。

だが、翌日の昼過ぎにジェイクが起きるとすでにマティはおらず、しばらくすると彼女は恋人のジョアン(パウロ・カラトレ)と一緒に帰ってくる。気まずい雰囲気で過ごす3人。

その後も、あの夜を忘れられないジェイクはマティにしつこくつきまとう。だが、今の生活を壊すつもりはない彼女は、ジェイクのあまりの執拗さに悩み警察に通報する。ジェイクは留置所に入れられて絶望する。

数年後。ジェイクは、ポルトで相変わらずの生活を送っている。それに対して、マティはジョアンとの間に娘をもうけるが、夫との関係は壊れていた……。

そんな2人のドラマを3章に分けて描くのが本作である。ユニークなのはスクリーンサイズが、8ミリ、16ミリ、35ミリと変化することだ。また、そこに描かれる映像も様々に変化する。ジョアンとマティを映したシーンでは、セリフに頼らずに2人の表情から、その心理を切り取った映像が印象深い。また、プライベートフィルムのような荒い映像や、ポルトの風景を早回しで見せた映像などもある。

さらに、この映画は時制が明確ではない。発掘現場での2人の出会い、カフェでの会話、新居でのセックスなどが、過去と未来の出来事がぶつ切りにされて行き来し、同じシーンが視点を変えて何度も登場したりする。いったい何が現在の出来事で、何が過去の出来事なのかさえ、よくわからなくなってくるのである。

それを通して、2人が抱えているものが少しずつ見えてくる。ジェイクは父が外交官のため幼い頃からリスボンに住んでいたが、家族と折り合いが悪く、今はこの地で暮らしている。定職もなく、友人もおらず、心を通わせるのは愛犬のみの孤独な人生だ。「ひょっとしたらコイツ、ヤバイんじゃない?」と思わせるような心の闇さえ感じさせる。

一方、マティは年上のポルトガル人教授との関係に悩むだけでなく、心を病んで病院に入っていたこともあるらしい。その病は今も癒えていないという。

そんなことが判明してくるにつれて、ただの行きずりの刹那的に見えた一夜の関係が、2人にとっては必然であり、それゆえ、いつまでも心から消せないことがよくわかってくるのである。

この映画の監督は、第70回ヴェネチア国際映画祭で最優秀ドキュメンタリー賞を受賞し、本作で長編劇映画デビューを果たしたゲイブ・クリンガー。ジャームッシュ監督がその才能を評価しただけあって、ありふれた一夜のロマンスを技巧を凝らしてこれだけの作品にするのだから、今後が楽しみな監督だと思う。

もちろん粗削りなところもある。例えば3度も続けて濃厚なセックスシーンを映すのはやりすぎではないのか。それほどあの一夜が2人にとって特別なものだと言いたかったのかもしれないが、一度だけでも十分に2人の関係性や心の奥底を見せられたと思うのだが。

ラストは見つめあう2人。その表情を延々と映す。はたして、それは何を物語っているのか。解釈は人それぞれだろうが、切なさが漂うのは確かである。

ジェイク役は2016年に事故死してしまったアントン・イェルチン。まだ27歳でこれからの活躍が楽しみな俳優だっただけに、何とも惜しまれるところだ。相手役のリュシー・リュカもなかなかきれいな女優さんである。

●今日の映画代、1000円。新宿武蔵野館の毎週水曜のサービス料金で鑑賞。

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◆「ポルト」(PORTO)
(2016年 ポルトガル・フランス・アメリカ・ポーランド)(上映時間1時間16分)
監督:ゲイブ・クリンガー
出演:アントン・イェルチン、リュシー・リュカ、フランソワーズ・ルブラン、パウロ・カラトレ
新宿武蔵野館ほかにて公開中。全国順次公開予定
ホームページ http://mermaidfilms.co.jp/port