映画貧乏日記

映画貧乏からの脱出は可能なのだろうか。おそらく無理であろう。ならばその日々を日記として綴るのみである。

「リングサイド・ストーリー」

「リングサイド・ストーリー」
新宿武蔵野館にて。2017年10月18日(水)午後12時20分より鑑賞(スクリーン1/B-9)。

子供の頃はテレビでけっこう観たプロレスだが、今はまったく興味がない。かつては真剣勝負だと思っていたのだが、スポーツとショーを合体させたものだということがわかってしまってからは、あまり観る気がしなくなった。とはいえ、そうしたことを承知でエンターティメントとしてのプロレスを楽しむファンも多いようだ。彼らのほうが、オレよりもよほど寛容で人生を楽しんでいるのかもしれない。

プロレスが大きく取り上げられている映画が「リングサイド・ストーリー」(2017年 日本)である。何しろ映画の冒頭では、いきなり力道山以来の日本のプロレスの歴史を語っているのだ。

そこから主人公の江ノ島カナコ(佐藤江梨子)が、勤め先の弁当工場を突然クビになる展開へとなだれ込む。そのあたりのテンポの良さとポップな描き方が心地よい。

カナコには10年間付き合い同棲中の彼氏・村上ヒデオ(瑛太)がいる。だが、こいつがとんでもないヤツなのだ。7年前には大河ドラマにチラッと出たりもしたが、今はまったく売れない役者で、ヒモ同然の生活を送っている。そのくせ口では偉そうなことばかり言い、気に入らない仕事を断ったりしている。まさにサイテーのダメ男なのである。

そんな中、カナコは弁当工場をクビになり、2人の収入源は断たれてしまう。カナコは新たな仕事を探すが、プロレス団体が裏方のスタッフを募集していることを知ったプロレス好きのヒデオは、勝手に志望動機を送ったりしてカナコを無理やりそこに就職させる。

こうして戸惑いつつ働き始めたカナコだが、すっかりプロレスの世界に魅了されて生き生きと輝きだすのだった。

というわけで、武藤敬司などプロレスラーが続々登場。練習や試合シーンもあるし、プロレスの舞台裏も目撃できる。それだけに、プロレスファンにはたまらない映画なのではないだろうか。

もちろん、そうでない人にも楽しめる映画だとは思う。何よりもユーモアにあふれたケレン味タップリの展開が楽しい。全編笑いどころには事欠かない。

さて、こうして輝きだしたカナコだが、それを見たヒデオはカナコが浮気していると勘違いする。そして、嫉妬のあまりとんでもない事件を起こしてしまうのだ。それによって、カナコはプロレス団体を自ら辞める。

ところが、その次にカナコが就職したのはなんとK-1の主催団体。なので、ここからは武尊はじめK-1選手も登場。どこまでも格闘技がついて回る映画なのだ。

しかし、相変わらずダメ男のヒデオは、またしてもカナコが浮気しているものと誤解。またまたとんでもない事件を起こしてしまう。そして、そのケリをつけるべく、K-1チャンピオン・和希との一騎打ちをするハメになるのである。

俳優が格闘技のリングに上がるという奇想天外な展開。だが、残念ながら物足りなさが残る。この手のドラマなら、「ロッキー」ではないが、トレーニング風景の面白さや迫力をしっかり見せて欲しかった。それがイマイチないのだ。

いや、それ以前に肝心の試合もセコイ。入場シーンで延々とヒデオにダンスを躍らせて盛り上げに盛り上げて、それであの試合はないだろう。もちろん現実に素人がリングに上がればあんなものだろうが、せめてもう少し工夫して「ミジメだけどカッコよかった」と思わせてほしいのである。

それより何より、このドラマに決定的に欠けているのはカナコとヒデオの人間ドラマだ。2人の苦悩や葛藤、行動の原点となった過去などがきちんと描かれていない。特にヒデオは最初から終幕近くまでずっとダメ男のままだ。彼の内面の変化がほとんど感じられないのである。

ドラマが薄味すぎるから結末もしっくりこない。まさか「ラブコメだから人間ドラマなんていらない」というものでもないだろう。ヒデオの変化を促すなら、ヒデオではなく、むしろカナコをリングにあげてしまったほうがよかったのではないか。な~んてことまで考えてしまったのである。

武正晴監督は前作「百円の恋」で名を上げた監督。主演の安藤サクラの力が大きかったといはいえ、演出にも抜群のキレがあった。今回もその点は抜かりがないのだが、問題なのはやはり脚本だろう。ちなみに本作は「百円の恋」の脚本を書いた足立紳の実話をヒントにしたらしいが、どうせなら脚本も彼に書かせるべきではなかったのか。

とまあ、いろいろ注文を付けてしまったのだが、ポップコーンやビール片手に気楽に観る分には十分にモトをとれる映画かもしれない。遊び心も満点で、映画監督の岩井俊二がチラリと顔を見せていたりもする。

瑛太の半端でないダメ男ぶりも面白い。本人もノリノリで演じていたのではないだろうか。一方、サトエリはさすがにアラサー設定は厳しかったが、相変わらずスタイルがいいから、こういうアクティブな役にはピッタリだ。パンツスーツ姿がキマっている。

●今日の映画代、1000円。新宿武蔵野館の毎週水曜のサービス料金で鑑賞。

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◆「リングサイド・ストーリー」
(2017年 日本)(上映時間1時間44分)
監督:武正晴
出演:佐藤江梨子瑛太、有薗芳記、田中要次伊藤俊輔奈緒村上和成高橋和也峯村リエ武藤敬司、武尊、黒潮“イケメン”二郎、菅原大吉、小宮孝泰、前野朋哉、角替和枝近藤芳正余貴美子
新宿武蔵野館、渋谷シネパレスほかにて全国公開中
ホームページ http://ringside.jp/