「アトミック・ブロンド」
池袋HUMAXシネマズにて。2017年10月21日(土)午後1時30分より鑑賞(シネマ6/D-7)。
アクション映画はアクションが命。とはいえ、そればっかりでは困りものだ。その背後にある人間心理をキッチリ見せてくれないと、気の抜けたサイダーのような感じがしてしまうのである。
「アトミック・ブロンド」(ATOMIC BLONDE)(2017年 アメリカ)は、アントニー・ジョンソンによる人気グラフィックノベルを映画化したスパイ・アクション映画だ。監督は、スタント畑出身で、「ジョン・ウィック」では共同監督を務め、「デッドプール」続編の監督にも抜擢されたデヴィッド・リーチ。
冷戦末期、1989年のベルリンからドラマがスタートする。英国秘密情報部“MI6”の捜査官が殺され、極秘リストが奪われてしまう。そのリストには西側のスパイの名が記されており、それが東側に渡ってしまえば大変なことになる。
そこでMI6のエージェント、ローレン・ブロートン(シャーリーズ・セロン)は、極秘リストの奪還と二重スパイ“サッチェル”の正体を突き止めるよう命じられベルリンへ向かう。だが、彼女はそこで大変な目に遭い、体中にあざを作った痛々しい姿で帰国する。いったいベルリンで何があったのか。上司たちの尋問に応じて、ローレンはベルリンで起きた出来事を話し始める。
というわけで、ドラマ全体がローレンの供述という形で進行する。ローレンはベルリンに飛び、現地で活動するスパイのデヴィッド・パーシヴァル(ジェームズ・マカヴォイ)と合流する。だが、彼はかなりのくせ者でいかにもヤバそうなヤツ。ローレンは任務を遂行しながら彼に翻弄される。
おまけにローレンを尾行する謎の女や、リストのネタ元の東側の役人など怪しげな人物が現れて混乱が深まる。そんな中、ローレンの行動は敵側に筒抜けとなり、彼女は何度も命を狙われるのである。
ベルリンの壁崩壊前夜を背景に、誰が敵で誰が味方なのか全くわからない展開が続き、ドラマが二転三転する。MI6だけでなくソ連のKGBやフランスの諜報機関DGSE、アメリカのCIAまでが入り乱れて暗躍し、裏切りのゲームを繰り広げる。それが破格のスリリングさを生んでいる。
映像も素晴らしい。グラフィックノベルの映画化らしい独特の暗めの世界観の中、ポップでテンポの良い映像が続く。ニュー・オーダー、デビッド・ボウイ、ザ・クラッシュなど懐かしめの音楽も場面ごとにふさわしい形で使われ、場を盛り上げている。
だが、この映画で最大の見せ場は何といっても、シャーリーズ・セロンの演技である。全身あざだらけの体を、氷をはったバスタブに沈める登場シーンから存在感がたっぷりだ。無表情で次々に襲いくる敵を倒すバトルアクションもキレまくっている。これぞクール&ビューティー!!
タルコフスキーの名画「ストーカー」が上映されている映画館でのバトルなども印象深い。カーチェイスや、水中に突き落とされた車からの脱出シーンなどもある。
そしてクライマックスは、ベルリンの壁崩壊のまさにその時。群衆に紛れて決死の脱出劇に挑むローレン。しかし、またしても情報が漏れ敵に襲われる。
そこでビルの中で繰り広げられるバトルが圧巻だ。手近な武器を使って敵をなぎ倒していく。だが、そのバトルにウソ臭さはない。リアルな痛みさえ伝わってくる。相当なトレーニングをしたであろうシャーリーズのリアルな動きとカメラワークが、スクリーンからオレの目が離れるのを許さないのである。
このドラマの最大の謎は、二重スパイ“サッチェル”の正体は誰かというところにある。それに関して、いったんは予想通りの結論を提示しつつ、後日談では意外な真相で度肝を抜く。ところがである。最後の最後でまた、それがまた見事にひっくり返されるのだ。むむ、そうだったのか!!!
こうしてローレンという女スパイの全貌がついに明らかになる。そこで、オレはハッとした。それまでの彼女の一挙手一投足に違った意味を見出したのだ。自らの真の使命と目の前で起きていることとのギャップに戸惑いつつも、自らを奮い立たせて前に進んでいたローレン。要するに、この映画はただのアクションだけの映画ではなかったのだ。そこには、間違いなく彼女の心情が無表情の奥にクッキリと刻まれていたのである。
おそらく筋肉バカが演じていたら、これほど面白い映画にはならなかっただろう。ご存知のようにシャーリーズ・セロンは、これまでに様々な役を演じ、その演技力には定評がある。2003年に主演した「モンスター」では、シリアルキラーを熱演し、見事にアカデミー主演女優賞を獲得している。
そんな演技派女優が完璧なアクションをこなすのだから、鬼に金棒だ。最近では本作以外にも、「マッドマックス 怒りのデス・ロード」「ワイルド・スピード ICE BREAK」などのアクション映画に出演しているが、本作はそのハイライトともいうべき作品だろう。
同様に元々の演技力にアクションが加わった俳優といえば、リーアム・ニーソンが思い浮かぶ。そうした役者が演じるアクション映画は、中身の充実度が違うのである。
そのシャーリーズの抜群の存在感に加え、ジェームズ・マカヴォイ、ジョン・グッドマン、ソフィア・ブテラら脇役の好演も光る。あらゆる角度から見て、文句なしに一級品のスパイ・アクション映画だ。
●今日の映画代、1400円。事前にムビチケ購入済み。
◆「アトミック・ブロンド」(ATOMIC BLONDE)
(2017年 アメリカ)(上映時間1時間55分)
監督:デヴィッド・リーチ
出演:シャーリーズ・セロン、ジェームズ・マカヴォイ、ジョン・グッドマン、ティル・シュヴァイガー、エディ・マーサン、ソフィア・ブテラ、ジェームズ・フォークナー、ビル・スカルスガルド、サム・ハーグレイヴ、ヨハンネス・ヨハネッソン、トビー・ジョーンズ
*TOHOシネマズみゆき座ほかにて全国公開中
ホームページ http://atomic-blonde.jp/