映画貧乏日記

映画貧乏からの脱出は可能なのだろうか。おそらく無理であろう。ならばその日々を日記として綴るのみである。

「第30回東京国際映画祭」~その8

「第30回東京国際映画祭」~その8

第30回東京国際映画祭は本日まで。ただし、オレの出動は昨日まで。最終日の今日はプレス&関係者向け上映がないので。

昨日、11月2日の最終日は、ついに1日5作品鑑賞という暴挙を敢行。と言っても、以前も何度かやってはいるので、それほどのことでもないか。ダメな映画なら1本観ただけでも疲れるが、世界から集めた良作揃いなのでまったく問題ないのである。

鑑賞したのは以下の作品。

「スパーリング・パートナー」コンペティション部門)
~フランス映画。45歳の二流ボクサーが欧州チャンピオンのスパーリング相手に立候補し、家族のために奮闘する。敗者の美学に貫かれた作品。負け組の生き様を温かく見守っている。チャンピオンとの友情なども織り込みつつ、クライマックスの引退試合に向けて盛り上げる。ラストは素直に心が温まる。何よりもマチュー・カソヴィッツの本気のボクサー姿が魅力的。正攻法のドラマで誰でも楽しめそう。

「詩人の恋」(ワールド・フォーカス部門)
~韓国・済州島に住む詩人の男。妻は子供を望むが気が乗らない。それでも妻の希望で人工授精に踏み切る。そんなある日、彼はドーナツ店のアルバイトの青年に魅了される……。詩が効果的に使われた抑制的で穏やかなタッチの作品。ユーモアもあちこちにある。青年に対する同情と愛情の狭間で苦悩する主人公の思いが描かれる。ままならぬ人生と恋の切なさが漂う。何よりも「息ができない」の監督・脚本で日本でも評価を高めた主演のヤン・イクチュンの演技が絶品。妻役のチョン・ヘジンの演技も素晴らしい。

「アケラット-ロヒンギャの祈り」コンペティション部門)
~マレーシアで金に困ったヒロインが紹介された仕事は人身売買だった……。タイトルにあるように、前半はミャンマーから来たロヒンギャ難民の問題を背景にした社会派サスペンスの様相。だが、後半はタッチが変わり、ヒロインと彼女を支える病院勤務の青年との逃走の旅と心の通い合いを描く。アート的で詩情にあふれた映像が魅力的な作品。セリフは少なく映像の力で引っ張っていく。ヒロイン役のダフネ・ローも存在感がある。

「リーナ・ラブ」(ユース部門)
~ドイツ映画。孤独な少女リーナは、不気味な絵を描く男の子と知り合い好きになる。だが、彼を友達に取られたと思い意地悪をする。それが相手からの恐ろしい反撃を招く……。思春期の少女の心の闇を鮮烈な映像で描いた作品。特に後半のホラー的なタッチにゾクゾクさせられる。SNS、なりすまし、偽アカウントなどの若者たちを取り巻く状況も、巧みに取り入れられている。終盤での二転三転する展開も目が離せない。怖いエンターティメント映画としてよくできている。

「超級大国民[デジタル・リマスター版]」(ワールド・フォーカス部門)。
~1950年代の戒厳令下の台湾。政治活動や言論の自由は厳しく制限され、「白色テロ」と呼ばれる市民の逮捕・投獄が横行していた。そんな中、思想犯として投獄された男が、銃殺された仲間の墓を30年後に探す……。1995年の映画だがまったく色あせていない。日本統治下の台湾や、1995年前後の台湾の状況なども盛り込みつつ、権力による弾圧の恐ろしさと、それに翻弄される人々の悲しみを伝えている。

というわけで、結局のところ、期間中に鑑賞した映画は合計30本。特にコンペティション部門の15作品を完全制覇したのは今年が初めてだった。本日、その中から各賞が発表されるわけだが、自分なりの予想をして発表を待とうと思う。

それにしても、連日の六本木通い。その間に仕事もあったので、睡眠不足に加え食事時間を確保できない日も多く、またまた痩せてしまったのだが、それでもこんなにたくさんの素晴らしい映画に出会えて幸せな日々だった。関係者の皆さまに感謝するのみである。

明日から映画祭ロスになりそう……。

f:id:cinemaking:20171103102624j:plain