映画貧乏日記

映画貧乏からの脱出は可能なのだろうか。おそらく無理であろう。ならばその日々を日記として綴るのみである。

「バリー・シール/アメリカをはめた男」

バリー・シール/アメリカをはめた男
TOHOシネマズ日本橋にて。2017年10月25日(水)午後7時20分より鑑賞。(スクリーン8/F-15)

東京国際映画祭の会期中は、朝から会場の六本木ヒルズに足を運び、2~5本の映画を鑑賞し、その間に仕事もこなすというハードスケジュール。おかけで睡眠不足だったり食事もままならないといった日々が続いていた。

そんな中で、映画祭が始まる前に観た映画のことをすっかり忘れていた。「バリー・シール/アメリカをはめた男」(AMERICAN MADE)(2017年 アメリカ)である。

忘れていたといってもつまらなかったわけではない。なにせ「ボーン・アイデンティティー」のダグ・リーマン監督が、「オール・ユー・ニード・イズ・キル」に続いてトム・クルーズとタッグを組んだ作品だ。面白くないはずがないのである。

冒頭は1970年代後半の時代状況が提示される。そして登場する主人公のバリー・シール(トム・クルーズ)。彼は大手民間航空会社TWAのパイロットだ。操縦の腕は超一級で、フライト途中で必要もないのに自動操縦から手動に切り替えてスリルを楽しむ、なんて場面まである。

そんな彼の操縦技術に目を付けたのがCIAのエージェント。バリーは彼に勧誘されて、極秘作戦に参加することになる。それはゲリラたちの姿を航空写真で撮影するというもの。それだけなら、よくあるCIAもののドラマの展開。だが、問題はその先だ。

CIAの依頼をこなす過程で、バリーは巨大麻薬組織“メデジン・カルテル”の伝説の麻薬王パブロ・エスコバルらに目をつけられ、麻薬の運び屋として活動することになるのである。

バリーがCIAの仕事と麻薬の運び屋を両立させ、まるでビジネスマンのように業務を拡張していくところは実に痛快だ。人を雇い、大金を稼ぎ、地元の名士にまで成り上がる。妻子もノリノリで一緒に成り上がる。その一方で、CIAと麻薬組織が入り乱れて、あわやの場面に遭遇することも何度かある。

そんなバリーの活躍ぶりを、ダグ・リーマン監督はスリリングかつテンポよく描き出す。CIAや麻薬組織などというとシリアスに流れがちだが、それと正反対のユーモラスなタッチにしたのが大正解。80年代の世相も織り込みつつ、当時の音楽もタップリ流す。わざと粗っぽくした映像を使うあたりも、独特の味わいを生み出している。

とはいえ、話の展開はあり得ないことの連続。とてもリアルには思えない。しかし、このドラマは何と実話をもとにしたもの。そのことが冒頭で告げられるから、観客にとって多少のウソ臭さは気にならないはずだ。もちろん創作した部分やデフォルメした部分もあるだろうが、それにしても実話の威力は大きい。まさに「事実は小説より奇なり」を地でいく映画なのである。

こうして変わったビジネスで大成功するバリーだが、観客は同時に彼の末路に不安を持つだろう。なぜなら映画のかなり早い段階から、彼がビデオに向かって告白をする映像が何度か挿入される。どう考えても、のちの彼が危うい立場にいることが想像できる。いったい何があったのか。そこに至るまでの経緯が後半に描かれる。

あまりにも手広くビジネスを展開した結果、バリーはDEA、ATF、FBIなどの捜査当局から目をつけられる。彼らが一斉にバリーを捕まえに来て、手柄争いをするシーンが面白い。

しかし、それでもバリーは生き残る。なんと今度はホワイトハウス絡みの仕事を任されるのだ。だが、それがやがてとんでもない事態を招く。

正直なところ、結末はかなり悲惨ではあるのだが、そこもけっしてウェットには描かない。あくまでもユーモラスに、軽妙洒脱に見せている。この徹底ぶりが心地よい。

それにしても、当時のCIAやホワイトハウスのメチャクチャさときたら、あきれるばかりだ。思い付きや見当違いの見方で、どんどん暴走していくのだから。もしかして今もそうなのか? などと思わせられてしまったのである。

破天荒すぎる1人の男の人生を、ユーモアを込めてテンポよく描いた作品。エンターティメントとしてよくできた映画だと思う。

●今日の映画代、1400円。事前にムビチケ購入済み。

◆「バリー・シール/アメリカをはめた男」(AMERICAN MADE)
(2017年 アメリカ)(上映時間1時間55分)
監督:ダグ・リーマン
出演:トム・クルーズ、ドーナル・グリーソン、サラ・ライトオルセンジェシー・プレモンス、ケイレブ・ランドリー・ジョーンズ、アレハンドロ・エッダ、マウリシオ・メヒア、E・ロジャー・ミッチェル、ローラ・カーク、ベニート・マルティネス、ジェイマ・メイズ
*TOHOシネマズスカラ座ほかにて全国公開中
ホームページ http://barry-seal.jp/