映画貧乏日記

映画貧乏からの脱出は可能なのだろうか。おそらく無理であろう。ならばその日々を日記として綴るのみである。

「ブレードランナー 2049」

ブレードランナー 2049」
ユナイテッド・シネマとしまえんにて。2017年11月4日(土)午前11時35分より鑑賞(スクリーン5/G-13)。

SF映画の金字塔といわれる「ブレードランナー」。だが、1982年の公開時の興行成績は散々だったらしい。それでも、その独特の世界観などでじわじわと評価を高め、カルト的な人気を獲得するに至った。

実のところ、オレもこの映画を劇場では観たことがない。テレビ放映で目にしたのみなのだが、それでも鮮烈な印象が今も頭に焼きついている。

そんな「ブレードランナー」に35年ぶりの続編「ブレードランナー 2049」(BLADE RUNNER 2049)(2017年 アメリカ)が登場した。前作のリドリー・スコット監督は、今回は製作総指揮に回り、「ボーダーライン」「メッセージ」のドゥニ・ヴィルヌーヴが監督を務めている。

前作の舞台は2019年だったが、今回は2049年が舞台だ。前作は、「明るい未来」というありがちな構図をひっくり返し、荒廃した退廃的な未来を描き出していたが、今回はそれがますますエスカレートしている。生態系は壊れ、植物は育たず、食糧が足りないため、人々はプロテインを食べて生きている。そんな中、貴重な労働力としてレプリカント(人造人間)が活躍している。

ただし、そのレプリカントは人類に従順な最新型のネクサス9だ。前作で反乱を起こすなどした旧型のネクサス8は、欠陥品として捜査官のブレードランナーによって取り締まられていた。

LA市警のブレードランナー・K(ライアン・ゴズリング)もレプリカントの取り締まりにあたっている。彼自身もレプリカントである。そんなある日、Kは農民となっていたネクサス8を処分する。ところが、その現場で思わぬものを発見する。それは帝王切開によって出産したレプリカントの骨だった。

レプリカントに繁殖能力はないというのが常識だ。もしも、それがひっくり返れば大変なことになる。Kの上司は真相を突き止め、すべてを消し去ることを命令する。

前作と本作の最大の共通点は圧倒的な映像美にある。前作ではスコット監督が、荒廃した未来世界を圧倒的な映像美で描いていたが、今回のヴィルヌーヴ監督も負けてはいない。前作にもあったまるで新宿歌舞伎町のような猥雑で退廃した街の姿(そのせいか日本語もチラチラと登場する)をはじめ、こだわり抜いた映像が次々に飛び出す。

もちろん未来社会が舞台だけに、テクノロジーを駆使したアイテムもたくさん登場する。その最たるものは、Kと一緒に暮らすバーチャル映像の女性ジョイ(アナ・デ・アルマス)だろう。自由自在に衣装や髪型を変え、スイッチをオフにすれば一瞬で姿を消す彼女だが、Kと心を通わせる。だが、それでも肉体を持たない彼女とKの関係には虚無感が漂う。

そうなのだ。この虚無感もまた前作と今作に共通する特徴なのだ。虚無感に覆われた世界の中で捜査を続けるKの姿には、フィルムノワール的な暗さと重さ、危うさが終始つきまとっている。そして、ヴィルヌーヴ監督の前作「メッセージ」とも共通する音楽、というかまるでうめき声のような音が、ますますノワール的なタッチを増幅しているのである。

Kは捜査を続けるうちに、前作で優秀なブレードランナーとして活躍し、レイチェルという女性レプリカントと共に姿を消したデッカードハリソン・フォード)の存在にたどり着く。その過程では、K自身が自分の誕生の経緯に対して大きな疑念を抱くようになる。

そして、ついにディックの登場だ。彼とKが遭遇するのは荒廃したラスベガス。その映像も筆舌に尽くしがたい美しさと異様な迫力に満ちている。そこに残るかつての豪華ホテルでバトルを展開する2人。その背景には、エルヴィス・プレスリーのステージのバーチャル映像が映る。何という妖しさだろうか。

終盤は、レプリカントたちの反乱組織やレプリカントを製造する天才ウォレス(ジャレッド・レト)が絡んで、Kとディックを危機にさらす。あわやの水中での戦いを経て、ラストは2人の対照的な運命を映し出す。切なさと温かさの入り混じったエンディングである。

それにしてもハリソン・フォード、御年75歳にしてこの力強い演技。終盤では水中でのアクションまで披露している。

本作は前作の良さをそのまま受け継ぎ、前作の様々な謎に答えを出している。ただし、すべてが明快に結論づけられているわけではない。観客の想像力を喚起させる余白の部分もしっかりと残している。その上で、新たな要素を加えて輝きを増した本作。2時間43分がまったく長く感じられなかった。これなら、続編を作った意義も十分にあるのではないだろうか。前作のファンはもちろん、そうでない人にとっても一見の価値があるSF大作だと思う。

●今日の映画代、1400円。事前にムビチケ購入済み。

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◆「ブレードランナー 2049」(BLADE RUNNER 2049)
(2017年 アメリカ)(上映時間2時間43分)
監督:ドゥニ・ヴィルヌーヴ
出演:ライアン・ゴズリングハリソン・フォード、アナ・デ・アルマス、マッケンジー・デイヴィス、シルヴィア・フークスレニー・ジェームズカルラ・ユーリロビン・ライトショーン・ヤングデイヴ・バウティスタジャレッド・レトー、ウッド・ハリス、デヴィッド・ダストマルチャン、ヒアム・アッバスエドワード・ジェームズ・オルモスバーカッド・アブディ
丸の内ピカデリーほかにて全国公開中
ホームページ http://www.bladerunner2049.jp/