映画貧乏日記

映画貧乏からの脱出は可能なのだろうか。おそらく無理であろう。ならばその日々を日記として綴るのみである。

「ノクターナル・アニマルズ」

ノクターナル・アニマルズ
角川シネマ新宿にて。2017年11月5日(日)午後1時30分より鑑賞の回(シネマ1/E-11)。

ファッションには全く疎い。自分が着る服はユニクロやスーパーで買ったもので十分だ。ブランド物などまったく持ち合わせていない。まあ、ブランド物を買う金銭的余裕がないのも事実なのだが。

それゆえデザイナーの名前などもよく知らないのだが、トム・フォードという人物は世界的な著名デザイナーらしい。グッチだの、イヴ・サンローランだので、クリエイティブディレクターを務めた経歴を持つとか。

そんなトム・フォードが、監督デビューを果たした2009年の「シングルマン」に続く監督第2作として完成させたのが、「ノクターナル・アニマルズ」(NOCTURNAL ANIMALS)(2016年 アメリカ)。オースティン・ライトが1993年に発表した小説「ミステリ原稿」の映画化だ。

オープニングタイトルの映像が強烈だ。とてつもなく太った女性が裸でダンスをしている。肉塊がゆらゆらと揺れる。美しいとか醜いとかいう次元を超えて、もはや悪夢的なアートな世界である。そう。この映画は悪夢の映画といってもいいかもしれない。

主人公はアート・ディーラーとして成功を収めているスーザン(エイミー・アダムス)という女性。名だたるセレブと交流するなど華やかな生活を送る。だが、その反面、夫との夫婦関係は冷え切っており、彼が不倫をしていることも後で判明する。

ある日、そんな彼女のもとに、20年近く前に離婚した元夫エドワード(ジェイク・ギレンホール)から自作の小説が送られてくる。そのタイトルは『夜の獣たち(ノクターナル・アニマルズ)』。それはスーザンに捧げられた作品だった。

というわけで、そこからはその小説の内容が映像化される。同時に、それを読む現在のスーザンの姿も描かれる。いったいどんな小説なのか。

登場するのは車で移動中の家族。トニー(ジェイク・ギレンホール二役)とその妻(アイラ・フィッシャー)と娘(エリー・バンバー)。彼らは夜のハイウェイで、レイ(アーロン・テイラー=ジョンソン)らに襲われる。妻と娘は彼らに拉致され、殺されてしまう。トニーはボビー・アンディーズ警部補(マイケル・シャノン)と共に犯人たちを追い詰めていく……。

かつてのスーザンとの結婚生活を踏まえたらしいエドワードの小説。それは暴力に彩られた壮絶な復讐劇。小説中の妻はスーザンにそっくりであり、スーザンにとって悪夢のような内容ともいえる。いったい元夫のエドワードは、どうしてこんな小説を書いてスーザンに捧げたのか。それが、このドラマの最大の謎である。

それにヒントを与えるのが、途中から挿入される過去の出来事だ。同郷だったスーザンとエドワードがニューヨークで再会し、つきあい始める。スーザンは毛嫌いしている母親からの反対にもかかわらず、エドワードと結婚する。だが、やがて2人に隙間風が吹く。何事にも前向きで強気なスーザンにとって、エドワードのあまりの弱気が我慢できなかったのだ。

はたしてエドワードの小説は、スーザンに対する復讐の思いから書かれたものなのか。それとも悔恨の念がそこに隠れているのか。スーザンはエドワードの意図をはかりかねて不安になる。

このスーザンの不安や苦悩こそが、本作の核になる部分である。それを例えば手持ちカメラなどを使った映像で描くのではなく、前作同様のスタイリッシュな映像でミステリアスに描いていくのがフォード監督の真骨頂だ。登場人物が着る服や部屋のデザイン、細かなディテールなど、すべてにおいてこだわり抜き、場面場面にふさわしい映像を紡ぎ出す。まさにアートといってもいい世界である。

小説を映像化した劇中劇のスリリングさもかなりのもの。フォード監督、ごく普通のエンタメ映画を撮っても、それなりに面白くしてしまうのではないだろうか。そんなことも思わせる。

実は、この映画の結末は明快ではない。エドワードが小説に込めた思いが明らかになりそうな場面で、寸止めして終わってしまう。スーザンが小説を読み始めた頃の悪夢的な状況に、微妙な変化が訪れているようにも思えるのだが、それについては観客の想像力に判断をゆだねているのだろう。それもまた、アート的な雰囲気の漂うこの映画にふさわしいものといえるかもしれない。

エイミー・アダムスジェイク・ギレンホールに加え、マイケル・シャノンの相変わらずのアクの強い演技が光る。本作でアカデミー助演男優賞にノミネートされたというのも納得の演技である。

トップデザイナーらしいスタイリッシュでこだわり抜いた映像美と、スリリングでミステリアスな雰囲気に酔いしれる映画だと思う。やはりトム・フォードストーリーテラーというよりは、アーティストなのだろう。

●今日の映画代、1300円。TCGメンバーズカードの会員料金で鑑賞。

f:id:cinemaking:20171107221956j:plain

◆「ノクターナル・アニマルズ」(NOCTURNAL ANIMALS)
(2016年 アメリカ)(上映時間1時間56分)
監督・脚本・製作:トム・フォード
出演:エイミー・アダムスジェイク・ギレンホールマイケル・シャノンアーロン・テイラー=ジョンソンアイラ・フィッシャー、エリー・バンバー、カール・グルスマン
ルー、アーミー・ハマーローラ・リニーアンドレア・ライズブローマイケル・シーン
*TOHOシネマズシャンテほかにて全国公開中
ホームページ http://www.nocturnalanimals.jp/