映画貧乏日記

映画貧乏からの脱出は可能なのだろうか。おそらく無理であろう。ならばその日々を日記として綴るのみである。

「女神の見えざる手」

女神の見えざる手
TOHOシネマズシャンテにて。2017年11月8日(水)午後1時10分より鑑賞(スクリーン2/D-10)。

あんなに銃撃事件が相次いでいるのに、なかなか銃規制が進まないアメリカ。どう考えても規制したほうが社会は安全になると思うのだが、どうしてそれができないのか。

女神の見えざる手」(MISS SLOANE)(2016年 アランス・アメリカ)は、そんなアメリカの銃規制をめぐる事情を背景にした社会派サスペンスだ。

主人公のエリザベス・スローン(ジェシカ・チャステイン)は花形ロビイスト。だが、映画の序盤で彼女は上院の聴聞会に呼ばれる。どうやら何かやらかしたらしい。いったい何があったのか。その過去の出来事を並行して描いていく。

エリザベスは、大手ロビー会社“コール=クラヴィッツ&W”に勤務していた。ある日、銃擁護派団体から新たな銃規制法案の成立を阻止してほしいという依頼を受ける。だが、彼女はこれをきっぱりと拒否する。

そんな時に、銃規制法案の成立を目指して活動する小さな新興ロビー会社のCEO、シュミット(マーク・ストロング)から移籍の誘いを受けたエリザベスは、部下を引き連れて移籍し、銃規制法成立へ向けた活動を開始する。

この映画でまず驚くのがエリザベスの仕事ぶりだ。目的のためには手段を選ばず、敵の弱点を調べ上げて、そこを効果的に突いていく。法的、倫理的に危ないことも平気で実行する。議員への接待や贈り物はもちろん、盗聴や盗撮もいとわないのだ(そのために秘密のスタッフまで雇ったりしている)。

その一方で、私生活では問題も抱えている。24時間稼働中ともいえるような生活の中で薬に依存し、金で男性を買って欲望を満たしている。それでも、人前で弱みを見せることはない。

移籍後、銃規制法案成立に向けて邁進するエリザベス。そこでもまた巧妙な作戦を繰り出す。「そうくるか!」と思わず膝を打つような場面が何度もある。

エリザベスを演じるのは「ゼロ・ダーク・サーティ」のジェシカ・チャステイン。全身ビシッと決めたファッションとメイクで、ほとんど笑顔を見せることなく、ひたすら前に進んでいく。その圧倒的なカッコよさがスクリーン全体に緊張感を与える。実に素晴らしい演技である。

恋におちたシェイクスピア」「マリーゴールド・ホテルで会いましょう」のジョン・マッデン監督は、そんなエリザベスと敵陣営との対決をスリリングかつテンポよく見せる。

エリザベスの活躍で銃規制法案支持派が勢いを増す。だが、その過程ではトラブルも起きる。テレビ番組に出演したエリザベスは、部下の秘密をばらしてしまう。それは、高校時代に銃乱射事件に遭遇したという過去だ。他人の気持ちなど省みず、あらゆることを利用するエリザベスの本領発揮というところだが、それが思わぬ事態を引き起こしてしまう。そのあたりから、エリザベスの苦悩もチラチラと見え始める。

そんな中、エリザベスがかつて在籍していたロビー会社が反撃を試みる。彼女の弱点を探し、それをネタにスパーリング上院議員ジョン・リスゴー)を使って、上院で聴聞会を開かせようというのだ。

というわけで、終盤には、冒頭から断続的に登場していた聴聞会の結末が描かれる。そこでエリザベスは当初の作戦だった証言拒否を貫けずに、窮地に追い詰められてしまう。彼女にまつわる様々なことが暴露され、絶体絶命のピンチに陥ってしまうのである。

彼女の最後の意見陳述では、多くの反省の言葉が述べられる。ついに彼女も一巻の終わりか。そう思った瞬間、オレは驚愕した。エリザベスが最後の最後で起死回生の逆転満塁ホームランを放つのだ。それも予想もしない人物を使って仕組んだ、あまりにも巧妙な策略によってである。

ここに至って、観客はサスペンスドラマとしてのカタルシスを間違いなく味わうことだろう。エンターティメントとして、文句なしに面白いドラマだと思う。

だが、それだけではない。同時に、そこにはアメリカの銃規制の現状の問題点が、様々な形で表れている。政治家も無茶苦茶なら、それを取り巻くロビイストたちも無茶苦茶だ。これでは銃規制など、そう簡単には進まないだろう。

このように社会派の側面とエンタメ性を見事に融合させたのがこの映画だ。まさに快作といってもいいだろう。

それにしても、はたしてすべてはエリザベスの思い通りだったのか。あるいは、そこには多少なりとも偶然の幸運があったのか。それは神のみぞ知る。「女神の見えざる手」という邦題が何とも意味深ではないか。

●今日の映画代、1500円。だいぶ前にムビチケ購入済みで。

◆「女神の見えざる手」(MISS SLOANE)
(2016年 アランス・アメリカ)(上映時間2時間13分)
監督:ジョン・マッデン
出演:ジェシカ・チャステインマーク・ストロング、ググ・ンバータ=ロー、アリソン・ピル、マイケル・スタールバーグ、ジェイク・レイシー、サム・ウォーターストンジョン・リスゴー
*TOHOシネマズシャンテほかにて全国公開中
ホームページ http://miss-sloane.jp/