映画貧乏日記

映画貧乏からの脱出は可能なのだろうか。おそらく無理であろう。ならばその日々を日記として綴るのみである。

「花筐/HANAGATAMI」

「花筐/HANAGATAMI」
第30回東京国際映画祭JAPAN NOW部門 P&I上映にて。2017年10月27日(金)鑑賞。

大林信彦監督といえば、「転校生」「時をかける少女」「さびしんぼう」の“尾道三部作”で知られる。郷愁たっぷりのそれらの作品だが、実はけっこうアバンギャルドな要素もあったりする。そして、そんなアバンギャルドさが、年をとるにつれてさらに顕著になっているのだ。

「花筐/HANAGATAMI」(2017年 日本)は、「この空の花 長岡花火物語」「野のなななのか」に続く“戦争三部作”の最終作に位置づけられる作品である。原作は檀一雄の同名小説。大林監督がデビュー作「HOUSE ハウス」以前に書き上げていた幻の脚本を、40余年の時を経て映画化したという。

戦争が本格化する前夜を舞台にした、瑞々しくもはかない青春ドラマである。

時代は1941年、春。主人公は、アムステルダムに住む両親のもとを離れて、唐津に暮らす叔母(常盤貴子)の家に身を寄せる17歳の青年・榊山俊彦(窪塚俊介)。新学期が始まり、彼は新たな学友たちと交流する。アポロ神のように雄々しい鵜飼(満島真之介)、虚無僧のような吉良(長塚圭史)、お調子者の阿蘇柄本時生)など。彼らに刺激を受け、彼らと“勇気を試す冒険”に興じる。

その一方で、俊彦は肺病を患う従妹の美那(矢作穂香)にほのかな思いを寄せる。また、彼女の女友達のあきね(山崎紘菜)や千歳(門脇麦)と青春を謳歌する。

本作の描写はリアルさとは縁遠い。俊彦、鵜飼、吉良、阿蘇ら登場人物のキャラは極端にデフォルメされている。演じる役者たちのセリフも大げさで、演技もオーバー気味だ。

そして何よりも映像が現実離れしている。佐賀県唐津を舞台にしながら、自然の風光美よりも、まるで舞台の書き割りのような人工的な装置を背景にした場面が多い。

そんな中で強烈な映像が次々に飛び出す。教室に舞う桜の花びら、空にかかる巨大な月、あまりにも鮮烈な血の色……。観ていてあっけにとられてしまうような、前衛的な映像世界である。

幻想世界のような街の様子なども印象深い。俊彦らが通う酒場などは、この世のものとは思えない妖しさにあふれている。

まさに大林監督ならではの唯一無二の世界だ。それによって観客はファンタジーの世界に引きずり込まれる。リアルさの欠如など気にならず、むしろ不思議な魅力にとりつかれてしまうはずである。

その中で描かれる青春群像は、至極真っ当なものだ。友情、恋愛など、思春期の若者たちが様々な葛藤を乗り越えて成長を示していく。特に、「生と死」に関する問題が彼らを大きく変えていく。結核で死期が迫る美那と俊彦との関係をはじめ、彼らの運命に波乱を生じさせる。

そんな「生と死」というテーマが戦争へとつながっていく。ドラマが進むにつれて、戦争の色はどんどん濃くなっていく。象徴的なのが、兵士の格好をした案山子がどんどん増殖していくイメージショットだ。それが実際の兵士へと変化する。

自らもまた兵士になり戦地に赴き、死んでいくという避けられない運命が、若者たちの生き様に影響を及ぼしていく。唐津くんちの場面でのけた外れの躍動感と、死の影の対比が胸に響いてくる。

「青春は戦争の消耗品ではない」という俊彦のセリフを待つまでもなく、終盤における大林監督の反戦への思いは明確だ。ファンタジーの世界を通して、あまりにもリアルな反戦メッセージを発している。その力強さにひたすら圧倒される。おそらく、大林監督は現在の日本を戦争前夜だととらえているのではないか。

ラストに描かれる後日談も心に残る。戦争の犠牲となった若者たちへの大林監督の鎮魂歌だろう。

最近の大林映画で見られたアバンギャルドさに、ますます磨きがかかっている。80歳を前にしてこの若々しさは驚嘆に値する。しかも、大林監督はガンで余命宣告を受けながら本作を完成させた。まさに渾身の一作。力強い反戦映画であると同時に、瑞々しい青春ドラマ、そして生と死をめぐる深い考察を秘めた作品でもある。必見!!

●今日の映画代、0円。関係者向けのP&I上映にて。

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◆「花筐/HANAGATAMI」
(2017年 日本)(上映時間2時間49分)
監督・脚本:大林宣彦
出演:窪塚俊介満島真之介長塚圭史柄本時生矢作穂香山崎紘菜門脇麦常盤貴子、村田雄浩、武田鉄矢入江若葉南原清隆根岸季衣池畑慎之介、原雄次郎、白石加代子片岡鶴太郎高嶋政宏品川徹、伊藤孝雄
有楽町スバル座ほかにて全国公開中
ホームページ http://hanagatami-movie.jp/