映画貧乏日記

映画貧乏からの脱出は可能なのだろうか。おそらく無理であろう。ならばその日々を日記として綴るのみである。

「目撃者 闇の中の瞳」

「目撃者 闇の中の瞳」
新宿シネマカリテにて。2018年1月17日(水)午前11時45分より鑑賞(スクリーン1/A-9)。

そんなにたくさん観ているわけではないのだが、台湾映画といえば瑞々しい青春映画のイメージが強い。2002年の「藍色夏恋」などは、今でもオレのベスト青春映画の上位にランクされる作品だ(製作は台湾・フランスの合作)。

だが、そんなイメージをひっくり返す台湾映画が現れた。「目撃者 闇の中の瞳」(目撃者/WHO KILLED COCK ROBIN)(2017年 台湾)である。まさに戦慄のサスペンス・スリラー。台湾映画だと告げられずに観たら、韓国映画か香港映画だと思ってしまったかもしれない。

冒頭の嵐の中のシーンから、一気にスクリーンに引き込まれてしまった。暗く、重く、ヒリヒリするような緊迫感が漂う。いったい何が起こったのか。

2007年。新聞社で実習生として働くワン・イーチー、通称シャオチー(カイザー・チュアン)は、ある嵐の夜、郊外の山道で車同士の当て逃げ事故を目撃する。被害者の男は死亡し、助手席の女性も瀕死の状態だった。シャオチーはとっさに現場から逃走する車の写真を撮影し、上司のチウ編集局長(クリストファー・リー)に見せるが、ナンバープレートの数字が判読不可能であったため記事にはならず、犯人が捕まることもなかった。

と、あらすじを書いてみたものの、実はそれがすべて明らかになるのは後のこと。最初は何がなんだかわけがわからないのだ。事件の全容を一度に見せるのではなく、小出しにしてフラッシュバックで少しずつ明らかにしていく仕掛けだ。これが謎を増幅していくのである。

そして、場面は9年後に移る。敏腕記者となったシャオチーは、交通事故の現場に行き、そこで国会議員の不倫を目撃する。その帰り道、彼は買ったばかりの中古車をぶつけてしまい修理に出す。すると、その車は過去にも事故に遭っていたことが判明する。さらに警察で車両番号を照会したところ、なんと以前の持ち主は9年前の当て逃げ事故の被害者だった。そう。シャオチー自身が目撃者となったあの事故だった。

そんな中、シャオチーは新聞社を解雇されてしまう。例の国会議員の不倫報道だが、実は2人は夫婦であり、名誉毀損で新聞社を訴えると言い出したのだ。それでもシャオチーは、先輩記者マギー(シュー・ウェイニン)の協力を得て9年前の事故の真相を調べ始める。

最初にシャオチーが行きついたのは、瀕死だった事故の被害者女性シュー・アイティン(アリス・クー)だった。病院を抜け出して姿をくらましていた彼女を探し当て、話を聞こうとするシャオチー。だが、それは悪夢の始まりだった……。

それにしても謎が謎を呼ぶドラマである。かつてシャオチーが撮影した写真は、何者かによって一部のデータが消去されていた。また、シュー・アイティンは車を運転していた男は飲酒運転だったというが、それは真っ赤なウソだった。9年前の事故と同じ日には身代金目的の幼女誘拐事件が発生していた。というように、次々と疑惑が浮かび上がってくる。謎のテンコ盛り状態なのである。

事件周辺でうごめく怪しい人々の姿も気になるところだ。すでに述べた先輩記者マギー、上司のチウ編集局長に加え、自動車修理工のジー、若い警官ウェイ(メイソン・リー)などなど。そしてシャオチー自身も……。そうした人々の証言が食い違い、真相がますますわからなくなる「藪の中」状態も、この映画の大きな特徴である。

チェン・ウェイハオ監督の手腕が見事だ。特に映像に特筆すべきものがある。手持ちカメラの映像を中心に鮮烈な映像を次々に繰り出して、ミステリアスさやおどろおどろしさ、緊迫感などを生み出していく。フラッシュバックの使い方も印象に残る。

ドラマは二転三転して先が読めない。「え!そうなの?」と何度も驚かされてしまった。冷静に考えれば都合のよすぎる展開もあるし、つじつまが合わないように思える部分もある。だが、作り手の気迫や熱量のようなものに圧倒されて、観ているうちはそれほど気にならなかった。

いったいこの複雑怪奇な物語に出口はあるのか。後半になって、実はシャオチー自身にも秘密があることがわかる。彼が事件の真相を追う真の動機も、そこにあったのだ。

だが、終盤の見どころは謎解きではない。欲望にとりつかれた人間たちのおぞましい姿だ。凄惨で猟奇的な場面も登場する。圧倒的なエネルギーを持つ本作においても、終盤のエネルギーは異様なすさまじさである。

ここに至って、この映画はサスペンス・スリラーの枠を飛び越えて、戦慄のホラー的世界へ突入する。人間の暗黒面が大きな渦を作り、底なし沼のようになっていく。何なんだ。こいつらは~~!!

当然ながら、エンタメ映画のようなわかりやすさやカタルシスには行きつかない。苦く、そして重たく、含みを残すエンディングである。

同時に、一度観ただけでこの複雑怪奇な物語の全容まで知るのは困難だ。途中で疑問に思った部分も、最後の結論から考えれば巧妙な伏線だったのかもしれない。というわけで、もう一度観たくなってしまったのである。

この手のサスペンス・スリラーやホラー映画が好きな人にはぜひおススメしたい映画だ。逆に、映画に楽しさやストレス解消を求める人には絶対におススメしない。何にしても破格の映画である。こんな台湾映画は初めて観たぜ!

●今日の映画代、1000円。シネマカリテの毎週水曜の映画ファンサービスデー料金で。

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◆「目撃者 闇の中の瞳」(目撃者/WHO KILLED COCK ROBIN)
(2017年 台湾)(上映時間1時間57分)
監督:チェン・ウェイハオ
出演:カイザー・チュアン、シュー・ウェイニン、アリス・クー、クリストファー・リー、メイソン・リー
*新宿シネマカリテほかにて公開中。順次全国公開予定
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