映画貧乏日記

映画貧乏からの脱出は可能なのだろうか。おそらく無理であろう。ならばその日々を日記として綴るのみである。

「ルイの9番目の人生」

ルイの9番目の人生
ヒューマントラストシネマ渋谷にて。2018年1月26日(金)午後2時30分より鑑賞(シアター2/F-8)。

1996年の「イングリッシュ・ペイシェント」でアカデミー監督賞を獲得したアンソニー・ミンゲラ監督。受賞も納得の素晴らしい映画だったが、残念ながら2008年に54歳の若さで病死してしまった。

そのミンゲラ監督が映画化を望んでいたのが、リズ・ジェンセンによるベストセラー小説『ルイの九番目の命』だという。その思いを引き継いだ息子で俳優のマックス・ミンゲラがプロデューサーと脚本を担当して、アレクサンドル・アジャ監督が映画化したのが本作「ルイの9番目の人生」(THE 9TH LIFE OF LOUIS DRAX)(2015年 カナダ・イギリス)である。

難産の末に生まれ、毎年のように事故や病気で生死をさまよってきた少年ルイ(エイデン・ロングワース)。9歳の誕生日に両親とピクニックに出かけた彼は、崖から落ちて昏睡状態に陥る。ルイの父ピーターは現場から行方不明となってしまい、美しき母ナタリー(サラ・ガドン)のもとにも謎の警告文が届くようになる。そんな中、ルイの主治医となった小児神経科医アラン・パスカルジェイミー・ドーナン)は、事件の真相を探るため、自ら調査に乗り出すのだが……。

本作の骨格は、ルイが昏睡状態になった事件の真相をめぐるサスペンス・ミステリーだ。とはいえ、それをダーク・ファンタジーの切り口で描き、サイコ・スリラー的な要素まで盛り込んでいるところがユニークである。ギレルモ・デル・トロ監督の映画や、昨年日本公開されたJ・A・バヨナ監督の「怪物はささやく」あたりを思い起こさせる。

主人公の少年ルイの設定が面白い。生まれた時から何度も事故や病気になり、そのたびに死にかけて生還し続けている。なんと9年で9度死にかけたという。まさに奇跡のような存在だ。この怪しく不可思議な設定が効いている。

ルイがペットのハムスターを殺害するなど、恐ろしい一面があることを示すあたりも、ドラマ全体の不気味さを高めている。昏睡状態の彼がドラマの途中で一瞬だけ目覚める展開も、不可思議に満ちていてゾクゾクさせられる。

そんな彼が崖から転落した事件の真相が、このドラマの肝である。それを探るのは女性刑事。当初は父親に突き落とされたとみられていたルイだが、どうやら彼女はそれに疑問を感じているらしい。そしてルイの主治医のアランもまた事件の謎を追う。

そんな事件前後の経緯を、昏睡状態のルイの独白で綴る手法が面白い。しかも、そこには謎の怪物なども登場する。まさにターク・ファンタジー的な世界が現出する。ちなみに、この怪物の正体が後半で明らかになり、ドラマに情感を漂わせる。

いかにもダーク・ファンタジーらしい暗く、美しく、鮮烈な映像も特徴的だ。水中でのシーンをはじめとしてどれも印象的で、それもまたこの映画の魅力になっている。

また、映画の中盤では、事件の謎を追う主治医アランがおぞましい悪夢を見るのだが、そのあたりもダーク・ファンタジーやホラー的な世界である。同時に、彼はリアルな世界の中では、ルイの母親と親密な関係になり、それが事件の真相をさらに霧の中に包み込んでしまう。途中で謎の手紙の存在が明らかになるなど、ミステリーとしての仕掛けも色々と工夫されている。

はたしてルイは本当に父親によって突き落とされたのか。その父親はどこに消えたのか。過去の回想も挟みつつ真相追求が続くのだが、謎は深まっていくばかりだ。様々な可能性が示唆されては消え、先が見えない展開が続く。

そんな中、前半からたびたび登場するのが、事件前にルイにセラピーを施していた精神科医。彼とルイとのセラピーのようすが、回想として何度も登場するのだが、その精神科医が終盤で大きな役割を果たす。

ラスト9分で明らかにされる真相。それはけっして驚くべきものではなかった。それまでのドラマの過程を冷静に見れば、何となく想像がつくと思う。しかし、問題はそれを解き明かす仕掛けだ。ルイの主治医に対して精神科医が行うある行為。その内容と映像に驚かされる。途中で、主治医がルイと入れ替わる展開にも、思わず息を飲んでしまった。ここでは、サイコ・スリラー的な世界も垣間見える。

結局のところ、ルイは悲惨な環境に置かれた少年である。事件の構図そのものや、そこに登場する病そのものは、けっして珍しい話ではないだろう。だが、それを独特の世界観で描き、心をざわつかせる。その監督の手口に感心させられた。

ラストは少年とある人物との絆が明らかになり、さりげなく希望を灯す。けっして後味は悪くなかった。

●今日の映画代、1000円。TCGメンバーズカードの火・金曜の特別料金で。

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◆「ルイの9番目の人生」(THE 9TH LIFE OF LOUIS DRAX)
(2015年 カナダ・イギリス)(上映時間1時間48分)
監督:アレクサンドル・アジャ
出演:ジェイミー・ドーナンサラ・ガドン、エイデン・ロングワース、オリヴァー・プラットモリー・パーカー、ジュリアン・ワダム、ジェーン・マグレガー、バーバラ・ハーシー、アーロン・ポール
*ヒューマントラストシネマ有楽町ほかにて公開中。全国順次公開予定
ホームページ http://louis9.jp/