映画貧乏日記

映画貧乏からの脱出は可能なのだろうか。おそらく無理であろう。ならばその日々を日記として綴るのみである。

「リバーズ・エッジ」

リバーズ・エッジ
ユナイテッド・シネマとしまえんにて。2018年2月23日(金)午後2時30分より鑑賞(スクリーン2/F-8)。

数日前に暇だったので無料動画サイトを探索していたら、2001年製作の行定勲監督作品「GO」を見つけてしまった。公開当時かなり評価が高かった映画だが、あいにく見逃したままになっていたのだ。さっそく観てみたのだが、これが素晴らしい青春映画だった。行定監督の演出、宮藤官九郎の脚本、窪塚洋介柴咲コウらのキャスト、どれも良かった。

その行定監督の新作「リバーズ・エッジ」(2017年 日本)が公開されたので、観に行ってきた。原作は、1993年に雑誌『CUTiE』に連載された岡崎京子の伝説的コミックとのこと(残念ながら未読)。

舞台になるのはある高校。若草ハルナ(二階堂ふみ)は、彼氏の観音崎(上杉柊平)にイジメられていた山田(吉沢亮)を助けたのがきっかけで、彼の秘密の宝物について打ち明けられる。それは河原に放置された死体だった。ハルナの後輩で摂食障害を抱えるモデルのこずえ(SUMIRE)も、その死体を愛していた。ハルナ、山田、こずえの3人は、不思議な友情で結ばれていく。

一方、山田は同性愛であることをひた隠しにしていた。そんな山田に過激な愛情を募らせるカンナ(森川葵)、そして父親の分からない子どもを妊娠するルミ(土居志央梨)たちも、心に闇を抱えていた。

要するに、屈折した複雑な心理を抱える6人の高校生たちの青春群像劇なのだ。ただし、その描き方がかなりトンガっている。

まず驚くのが映像だ。全編スタンダードサイズの画角の狭い映像で描かれる。つまり、映画館のスクリーンの両端がかなり余白になるワケ。なぜこういう映像にしたのか。あくまでも想像だが、行定監督は、若者たちが抱えるやり場のない欲望や焦燥感をそこに凝縮しようとしたのではないか。

もう一つ、驚くことがある。本作で描かれるのは6人の若者たち。その全員のドラマに深みを持たせるのは至難の業だ。そこで行定監督はユニークな仕掛けをする。本作には通常のドラマとは違うパートがある。それぞれの登場人物にインタビューした映像が、ところどころに挟み込まれているのである。そこで彼らは自らの背景や心情を語る。最初はちょっとあざとい仕掛けにも思えたが、最後まで観るとこれが実に効果的だった。

こうした仕掛けによって、6人の若者が抱える複雑な心理がよりクッキリと見えてくることになる。たとえば、セックス依存症で軽薄な女に見えるルミだが、実は心の奥に空疎さや今の自分への苛立ちを抱えこんでいることが、チラリと見える。他の人物も、けっしてひとことでは語れない複雑な心理を抱えているのがわかる。

ハルナ、山田、こずえが親しくなるきっかけが死体だというのも面白い。彼らはどうにもならない焦燥感を抱え、生きているという実感を持てずにいるのである。死体という存在は彼らのそんな思いのある種のメタファーなのではないか。だからこそ、なおさら彼らの心の闇が浮かび上がってくるのだと思う。

全体を包む不穏でヒリヒリした雰囲気も印象深い。青春ドラマというと、キラキラと輝いているイメージがあるが、それとは対極の暗さと危うさに満ち満ちた映画である。

途中まではそれほど大きな事件は起きない。いじめ、暴力、セックス、ドラッグ、摂食障害など、個々人が抱える様々な問題は見えてくるが、ドラマに大きな波乱をもたらすほどの出来事はない。しかし、中盤以降には「新たな死体」の存在をきっかけに、ドラマは急展開を見せる。まさに青春の持つ危うさが暴走していくのである。

というわけで、やり場のない欲望や焦燥感を抱えた若者たちの青春ドラマとして、なかなかの秀作だと感じたのではあるが、それにしても主人公のハルナの存在感が薄いなぁ~。さすがに二階堂ふみが演じているから、スクリーン上の印象は強いものの、ドラマ的には影が薄い感じ。

と思ったら、ラスト近くになってようやく納得した。結局のところ、ハルナは何物とも密接な関係が築けず、生きている実感が持てず、醒めた思いを心に抱えて生きていたのだ。いつもダルそうにタバコをスパスパ吸う姿にも、観音崎とのセックスの時の無表情さにもそれがよく現れている。

そんな彼女が、今回の一連の出来事を通して、ようやく変わり始めたことが、最後のインタビュー映像を通して伝わってくる。喜んだり、悲しんだり、傷つきながら、生きて行こうという前向きな意欲を、彼女は初めて獲得したのだろう。つまり、青春群像劇である本作の核心は、ハルナの新たな旅立ちを描く成長物語だったのだ。

それにふさわしいシーンが、そこから終幕に向けて積み重ねられる。ハルナと観音崎の別れ、山田との夜の散歩とそこで語られるウィリアム·ギブスンの詩、そしてラストのUFO召喚。いずれも心にしみるシーンだ。あまりにもヒリヒリしたドラマではあるが、ラストのあと味はけっして悪くない。ハルナをはじめ登場人物の未来をかすかに感じさせる終幕である。

本作は1993年の連載当時とほぼ同じ時代設定になっているようだ。オリジナルラブの話をはじめ当時のカルチャーなどから、それがわかる(小沢健二が主題歌を担当しているのも興味深い)。なるほど、あの時代の若者たちには、本作の登場人物と共通するものがあったに違いない。

同時に、それは今の若者たちにも通底するものかもしれない。はたして、今の若者たちが本作を見てどう思うのだろうか。それがとても気になった。

ちなみに、本作は第68回ベルリン国際映画祭のパノラマ部門で、革新性の高い作品に贈られる国際批評家連盟賞に輝いた。確かにエッジの効いた作品で、しかも濃密な世界が展開する。誰もが満足する映画ではないかもしれないが、個人的にはかなり心に刺さったのである。

●今日の映画代、1000円。毎週金曜はユナイテッド・シネマの会員サービスデー。

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◆「リバーズ・エッジ
(2017年 日本)(上映時間1時間58分)
監督:行定勲
出演:二階堂ふみ吉沢亮、上杉柊平、SUMIRE、土居志央梨、森川葵
*TOHOシネマズ新宿ほかにて全国公開中
ホームページ http://movie-riversedge.jp/