映画貧乏日記

映画貧乏からの脱出は可能なのだろうか。おそらく無理であろう。ならばその日々を日記として綴るのみである。

「ザ・シークレットマン」

「ザ・シークレットマン」
新宿バルト9にて。2018年2月24日(土)午後3時より鑑賞(シアター2/F-8)。

リーアム・ニーソンったら、相変わらず大活躍だなぁ~。今年66歳だというのに出演作が途切れないものなぁ~。

というわけで、そのリーアム・ニーソンの最新主演作が「ザ・シークレットマン」(MARK FELT: THE MAN WHO BROUGHT DOWN THE WHITE HOUSE)(2017年 アメリカ)である。

この映画を語るには、まずウォーターケート事件について説明しなければいけない。1972年6月、ワシントンのウォーターゲート・ビルにあった民主党全国委員会に5人の男たちが侵入し、盗聴器を仕掛けたことが発覚した。ニクソン大統領再選のための工作の一環だった。

ワシントン・ポスト紙のボブ・ウッドワード記者とカール・バーンスタイン記者は、このウォーターゲート事件を徹底的に追及し、その結果、ニクソン大統領は1974年にアメリカ合衆国史上初めて任期半ばで辞任に追い込まれたのだ。

その2人の記者を描いた映画が、1976年製作のアラン・J・パクラ監督、ダスティン・ホフマンロバート・レッドフォード共演の「大統領の陰謀」である。

そして、そんな記者たちの活躍の陰には、彼らに情報を提供したFBI内部の人間がいたのだ。そのことは以前から知られていたのだが、“ディープ・スロート”と呼ばれるその情報提供者がいったい誰だったのかは、長い間謎だった。

それが事件からおよそ30年後の2005年に、事件当時FBI副長官だったマーク・フェルトが、自分がディープ・スロートだと名乗り出たのだ。本作はそのマーク・フェルトの自伝を基にした実録政治ドラマである。

1972年、長年FBIに君臨してきたフーバー長官が死去し、長官代理にニクソン大統領に近いパトリック・グレイが就任する。そんな中、ワシントンの民主党本部に盗聴器を仕掛けようとした男たちが逮捕される事件が発生する。捜査に当たったFBI副長官マーク・フェルトリーアム・ニーソン)に対して、ホワイトハウスは、グレイ長官代理を通じて捜査に圧力をかけてくる。反発したフェルトは、マスコミに捜査情報をリークし始める。

本作のポイントの一つは、なぜフェルトは情報提供者になったのかという点にある。それについて一面的ではなく、幅のある描き方をしているのが印象深い。

冒頭でホワイトハウスに呼ばれたフェルトは、FBIをコントロールしようとする大統領側近に対して、毅然とした態度を取る。そう。彼には「FBIは何ものにも支配されない独立した組織だ」という強い自負と誇りがある。だから、それを侵害しようとするホワイトハウスに怒りをおぼえて、情報提供者になったと見ることができるのだ。

ただし、それだけではない。フェルトの言動にはフーバー長官亡きあとは、自分が後継になると信じていた節がうかがえる。それをないがしろにして、自分の息のかかった人物を送りこんできたホワイトハウスに対する意趣返しの意味も、そこにはあったのかもしれない。

また、単純な正義感や、ニクソン大統領に対する政治的な嫌悪感が根底にあった可能性もある。要するに様々な思いの果てに、情報提供者となったフェルトの人物像を厚みをもって描いているのである。

フェルトの娘が、音信不通で消息不明となっているエピソードも、彼の人物像を膨らませる。フェルトの妻(ダイアン・レイン)は、夫が職権を使って娘を探すことを望むが、フェルトはそれを拒否する。だが、彼は本当はそれとは違う行動を取っていたのだ。

そのフェルトを演じるのがリーアム・ニーソン。今回は白髪で登場。アクションもなしだが、さすがにもともと演技派の役者だけに、フェルトの人物像を魅力的かつ厚みのあるものに見せてくれる。常に無表情で何を考えているのかわからない彼のミステリアスさが、この映画の大きな魅力になっている。

妻役のダイアン・レインをはじめ、ブルース・グリーンウッドエディ・マーサンら地味だが実力派の脇役も味がある。あのテレビドラマ「ER」でおなじみのノア・ワイリーも顔を見せている。

政治ドラマというと、小難しい印象を持つかもしれないが、そんなことはない。単純にサスペンスとして観ても面白い映画である。捜査を進めようとするフェルトとその部下たち、長官代理のグレイを通じて捜査情報を入手し、圧力をかけてくるホワイトハウス。両者の攻防がスリリングで見応え十分だ。周囲の目を盗んで情報をマスコミに提供するフェルトの行状も緊張感たっぷりで目が離せない。

「大統領選まであと何日」といったテロップを随時提示したり、当時のニュースフィルムや大統領演説などを挿入する仕掛けなども、緊迫感を高めている。

ラストはフェルトの自己犠牲的態度によってやや英雄的存在の色合いが強まるものの、「あなたがディープ・スロートなのか?」という質問に対する彼の態度で余韻を残し、一連の出来事に深みを持たせている。

さて、この映画には妙なリアリティがある。そこには実録ドラマというだけでなく、アメリカの今の政治に直結するものがあるからだ。

ロシアゲート疑惑をめぐって徹底捜査しようとするFBI、それを阻止しようとするトランプ大統領たちホワイトハウスの人々。そうなのだ。ウォーターゲート事件で起きたことは、今のアメリカでもそのまま続いているのだ。だからこそ、本作がよりリアルで、スリリングに感じられるのである。

●今日の映画代、1400円。事前にムビチケ購入。

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◆「ザ・シークレットマン」(MARK FELT: THE MAN WHO BROUGHT DOWN THE WHITE HOUSE)
(2017年 アメリカ)(上映時間1時間43分)
監督:ピーター・ランデズマン
出演:リーアム・ニーソンダイアン・レインマートン・ソーカス、アイク・バリンホルツ、トニー・ゴールドウィン、ブルース・グリーンウッド、マイケル・C・ホール、ブライアン・ダーシー・ジェームズ、ジョシュ・ルーカスエディ・マーサン、ウェンディ・マクレンドン=コーヴィ、マイカ・モンローケイト・ウォルシュトム・サイズモア、ジュリアン・モリス、ノア・ワイリー
新宿バルト9ほかにて全国公開中
ホームページ http://secretman-movie.com/