映画貧乏日記

映画貧乏からの脱出は可能なのだろうか。おそらく無理であろう。ならばその日々を日記として綴るのみである。

「時間回廊の殺人」

「時間回廊の殺人」
シネマート新宿にて。2018年3月17日(土)午後2時5分より鑑賞(スクリーン1/F-11)。

自慢ではないが、いわゆる韓流ブームが起きるずっと前から、韓国の映画やテレビドラマには注目していた。特に映画は1998年の「八月のクリスマス」で衝撃を受けて以来、話題作はできるだけ観るようにしてきた。印象深い作品はたくさんあるが、1999年の「シュリ」もその一本。南北分断を背景にしたラブ・サスペンスで、日本でもヒットしたから覚えている人も多いだろう。

その「シュリ」でヒロインを演じていたのがキム・ユンジン。彼女は、その後アメリカのテレビシリーズ「LOST」に出演して国際的に知られる存在になった。そのキム・ユンジンが「国際市場で逢いましょう」以来、3年ぶりに出演した韓国映画が「時間回廊の殺人」(HOUSE OF THE DISAPPEARED)(2017年 韓国)である。

舞台となるのはウィルン洞34番地にある古い家。そこに住むのはミヒ(キム・ユンジン)とその夫、そして2人の子供だ。1992年11月11日。ミヒは気を失って倒れている。意識が戻ると家の中が何やら普通でない。地下室に下りてみると、そこには夫の死体があった。そして長男はミヒが姿を目撃した次の瞬間に、どこかに消えてしまう。まもなく、ミヒは夫と息子を殺害した罪で逮捕され、無実を訴えるものの裁判で懲役30年が求刑される。

ドラマの大枠は殺人&失踪事件をめぐるサスペンス・ミステリー。同時にホラー的な要素もある。冒頭近くに早くも映る謎の影。さらに、死体と思った夫が一度は起き上がってくるおぞましい出来事。このあたりからホラー色がプンプンと匂ってくる。

事件から25年後、ミヒは仮釈放される。彼女は、行方不明の息子を捜す手がかりを求めて事件現場となった家に戻る。そんな彼女のもとを元受刑者のケアにあたるチェ神父(オク・テギョン)が訪ねてくる。

そこからは現在のドラマと、過去のドラマが交互に描かれる。過去のドラマで描かれるのは、25年前の殺人事件に至る経緯だ。実はミヒは前夫と死別し、警察官の夫と再婚していた。その夫は彼女の連れ子の長男に冷たく接し、実子の次男を溺愛する。

そんな中、ミヒたちが住む家に正体不明の侵入者が出現する。怖くなったミヒが地相鑑定士に家を見てもらうと「この家には問題がある!」と逃げ帰ってしまう。さらに今度は巫女を呼ぶと驚愕の出来事が起きる。

一方、現在のドラマでも、刑務所から戻ったミヒは何者かの気配を感じ取る。そんなミヒが頑なに心を閉ざすのを見たチェ神父は、25年前の事件がミヒの心を縛り付けていると感じ真相を調べ始める。その結果、その家にまつわる驚きの過去を突き止めるのだ。

というわけで、ドラマが進むにつれてどんどんホラー色が濃くなっていく。いわゆるお化け屋敷もののホラーだ。古い家で心霊現象や怪奇現象が起きて、住人を怖がらせる。地下室の謎の扉の存在をはじめ道具立てはバッチリ。不気味で妖しく、背筋をゾクゾクさせるような雰囲気の作り方も巧みだ。ホラー映画としての壺をキッチリ押さえて、観客の目をそらさせないのである。

だが、この映画の真骨頂はそこからだ。チェ神父が調べた「11月11日」にまつわる数々の出来事。それをふまえて、現在パートではついに今年の11月11日がやってくる。同時に過去パートでは25年前の11月11日に何が起きたかが描かれる。

途中からすでに先の読めない展開に突入していたドラマは、さらに予想もしない展開へと突き進む。それまでの現在と過去が入り乱れ、まったく違う世界が現出する。え? そうなの? まさかそんな……。

いったいどんな仕掛けが用意されているのか。ネタバレになるから詳細は伏せるが、そのヒントは「時間回廊の殺人」という邦題にある。ああいう仕掛けは全く予想外だった。完全に度肝を抜かれた。

あまりにも予想外だったので、どこかにきっと穴があるはずだ、と考えてみたのだが、にわかにはそれが見つからない。いや、むしろそれまでの数々の伏線をキッチリ回収しているから大したものだ(最後の最後で、チェ神父の意外な秘密を見せるあたりも見事)。この脚本、憎らしいほどよく考えられていると思う。

おまけにラストに提示されるのは、圧倒的な母の愛だ。「愛はすべてを超える」ではないが、それまでのすべてのドラマを母の愛で包み込んで、ラストで一気に爆発させる。サスペンス・ミステリー、ホラー、そしてSF的世界まで縦横無尽に行き来する大胆なドラマでありながら、ラストは王道の母の情愛を示して、観客を感動の境地に引きずり込んでしまうのである。

25年前のまだ若いヒロインと、現在の白髪のヒロインの両方を演じたキム・ユンジンの演技が素晴らしい。外見だけでなく、それぞれの内面をキッチリと演技に反映させている。おまけに怪奇現象に対するリアクションなど、ホラー映画にも意外に向いていることを再認識した。

そして、チェ神父役は人気グループ「2PM」のオク・テギョン。怖い映画にもかかわらず、女性の観客が多かったのはそのせいなのか?

いやぁ~、それにしても韓国映画はやっぱり面白い。これからも要チェックなのだ。

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◆「時間回廊の殺人」(HOUSE OF THE DISAPPEARED)
(2017年 韓国)(上映時間1時間40分)
監督:イム・デウン
出演:キム・ユンジン、オク・テギョン、チョ・ジェユン
*シネマート新宿ほかにて公開中。全国順次公開予定
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