映画貧乏日記

映画貧乏からの脱出は可能なのだろうか。おそらく無理であろう。ならばその日々を日記として綴るのみである。

「トレイン・ミッション」

トレイン・ミッション
池袋シネマ・ロサにて。2018年3月31日(土)午後12時15分より鑑賞(シネマ・ロサ1/D-8)。

昔から気になっていたのが「ジャンル映画」という言葉だ。何だ? それ。と思っていたのだが、要するにジャンル分けしやすい典型的な娯楽映画のことらしい。「トレイン・ミッション」(THE COMMUTER)(2018年 アメリカ・イギリス)は、まさにそんなジャンル映画である。

どちらかといえば、ただの娯楽映画よりも、もっと深みのある作品が好きなオレだが、それでも有無を言わさず楽しませてくれる娯楽映画だったら、それはもう大満足なのである。そして、この「トレイン・ミッション」は文句なしに面白い! なにせジャウマ・コレット=セラ監督と主演のリーアム・ニーソンがコンビを組むのは、「アンノウン」「フライト・ゲーム」「ラン・オールナイト」に続いて4回目。まさに名コンビと言っていいだろう。

主人公は保険会社に勤めるマイケル・マコーリー(リーアム・ニーソン)。映画の冒頭では、彼が毎朝起床して、家族と食事し、通勤電車で会社に行くシーンが描かれる。

だが、どうも様子が変だ。どうやら1日の出来事ではなく、別々の日の光景を組み合わせているらしい。おそらく毎日同じことを繰り返してきたマイケルの10年間の通勤風景を、端的に表現しているのだろう。こうした細かな工夫が、あちこちに施された映画なのである。

ところが、マイケルは会社を突然リストラされてしまう。住宅ローンを抱え、息子の学費を確保しなければならない彼は茫然とする。そのマイケルが会社を出たところを、高所から見下ろすショットが印象的だ。彼のショックと戸惑いを的確に表現している。

そうなのだ。ジャウマ・コレット=セラ監督の映画は映像も素晴らしい。アクションシーンのド迫力のカメラワーク、怪しさや不安定さを煽る手持ちカメラなど、その場その場にふさわしい映像を巧みに使い分ける。今回もそのワザが健在だ。

マイケルは、いつもの通勤電車で帰路につく。だが、そこでとんでもない出来事が起きる。車内でマイケルの前に現れたジョアンナ(ヴェラ・ファーミガ)と名乗る見知らぬ女が、突然こう話しかけてきたのだ。「トイレの中にお金がある。乗客の中からある人物を捜し出せば10万ドルの報酬を支払う」。

女はすぐに姿を消す。マイケルがトイレに行ってみると、確かに金はあった。会社をリストラされて金に困っているマイケルは、高額な報酬に惹かれて、とりあえず人捜しを始める。そんな中、妻子が人質にされていることが発覚する。これでマイケルは謎の女性の依頼を受けざるを得なくなる。

というわけで前半は、列車の車内という密室を効果的に使い、人捜しに奔走するマイケルの姿がスリリングに描かれる。乗客は約100人。その中から1人の人物を見つけなければいけない。ヒントは、おなじみの乗客ではなく、終着駅で降りる人物、そして通称はプリン。

実はマイケルは元警官だ。この設定がいろんな場面で効いてくる。彼は座席の背もたれに挟み込まれた切符などをヒントに、ターゲットを絞っていく。だが、なかなか問題の人物を特定できない。しかも、乗客は怪しい人物ばかり。高慢な投資ディーラー、タトゥー女、ギターらしきものを抱えた黒人青年など。「きっとこいつだ!」とマイケルが思った人物が、実は無関係だったりする。

おまけにマイケルは監視されている。どうやら敵の仲間が乗客の中に混じっているらしい。列車の車内外では、この一件に絡んだ殺人事件まで起きる。いったい誰が敵で誰が味方なのか。そして、なぜ彼らは問題の人物を捜させるのか。謎が謎を呼び、一瞬も目が離せない。

はかどらない人捜し、犯人からの脅迫、乗客からの嫌疑の視線にさらされ、戸惑い、焦り、怒るマイケル。その心中がリアルに伝わってくる。それはそうだろう。確かな演技力を持つリーアム・ニーソンが演じているのだから。彼の表情の変化だけで、何を考えているかが伝わってきてしまう。もはや、そんな域まで達した貫禄の演技なのである。

そして、近年のリーアム・ニーソンといえば、やっぱりアクション! 一時は年齢的にアクション引退が噂されたりしたが、今のところ本人にその気はないようだ。本作でも、格闘バトルから列車の連結器での大ピンチまで、アクションがテンコ盛りで詰まっている。

途中までは、サスペンス・ミステリー+アクションといった趣の展開。だが、それだけでは終わらない。終盤は列車パニックアクションの様相を呈する。脱線の危機を前にしたハラハラドキドキの展開だ。ここも手に汗握る場面が続く。

そして、それがひと段落した後に、さらなるスリルが襲ってくる。そこから浮かび上がる事件の大きな背景と、予想外の敵側の人物。なーるほど、そういうことだったのか。実は、この映画には数々の伏線が張られている。それがラストに至るまでに、すべて見事に回収されていく。これもまたこの映画の大きな魅力だ。

すべてが決着してジ・エンド。と思ったら大間違い。最後の最後にもうひとネタ残っている。そこでマイケルが示すあるモノ。これまた、その前のある人物のシーンのセリフが伏線になった展開だ。これぞカタルシス。憎いぜ。まったく!

正直なところ、後で冷静になってみれば、やや強引だったり、わかりにくいところもあるのだが、観ているうちはまったくそれを感じさせない。巧みなテクニックと力技で押し切ってしまうのである。

濃密かつスリリングな106分。観客を楽しませるという点で、実にグレードが高い作品だ。ジャウマ・コレット=セラ監督とリーアム・ニーソンの名コンビ、今回もいい仕事してまっせ。

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◆「トレイン・ミッション」(THE COMMUTER)
(2018年 アメリカ・イギリス)(上映時間1時間45分)
監督:ジャウマ・コレット=セラ
出演:リーアム・ニーソンヴェラ・ファーミガパトリック・ウィルソン、ジョナサン・バンクス、エリザベス・マクガヴァン、フローレンス・ピュー、サム・ニール
*TOHOシネマズ日比谷ほかにて全国公開中
ホームページ http://gaga.ne.jp/trainmission/