映画貧乏日記

映画貧乏からの脱出は可能なのだろうか。おそらく無理であろう。ならばその日々を日記として綴るのみである。

「30年後の同窓会」

「30年後の同窓会」
TOHOシネマズシャンテにて。2018年6月9日(土)午後1時20分より鑑賞(スクリーン1/F-11)。

同窓会なるものにはほとんど出たことがないのだが、久々に級友に会うというのは、どんな気持ちなのだろうか。

「30年後の同窓会」(LAST FLAG FLYING)(2017年 アメリカ)は、30年ぶりに再会した旧友3人によるロードムービーである。ちなみにタイトルには「同窓会」とあるが、盛大な同窓会が開かれるわけではない。

原作は、ハル・アシュビー監督、ジャック・ニコルソン主演で1973年に公開された名作「さらば冬のかもめ」の原作者ダリル・ポニックサンが2005年に発表した小説。これは、「さらば冬のかもめ」の主要登場人物3人が登場する続編的な小説とのこと。

それを「恋人までの距離(ディスタンス)」「6才のボクが、大人になるまで。」のリチャード・リンクレイター監督が映画化した。脚本もリンクレイター監督とポニックサンが共同で手掛けて、独立した作品に仕上げている。なので「さらば冬のかもめ」を観ていなくても、全く問題ありません。

時代は2003年。バーを営むサル(ブライアン・クランストン)のもとに、かつてベトナム戦争でともに戦った旧友のドク(スティーヴ・カレル)が30年ぶりに現れる。ドクはサルを伴って、同じく戦友で今は牧師になったミューラー(ローレンス・フィッシュバーン)のもとを訪ねる。

こうして戦友2人と再会したドクは彼らに告白する。ドクは1年前に妻に先立たれ、2日前にはイラク戦争で息子が戦死したというのだ。そして、息子の軍葬に立ち会ってくれるように2人に依頼する。

この映画の最大の魅力は、主役3人のキャラが際立っているところだ。酒びたりで独身のサルは、おしゃべりでジョークばかり言う。妻と息子を相次いで亡くしたドクは、悲しみに沈んだままでいる。牧師のミューラーは厚い信仰心を示すが、旅に乗り気でなく不機嫌そうだ。彼は、かつてはけっこうヤンチャをしていたらしい。

そんな3人を演じるのはブライアン・クランストン(「トランボ ハリウッドに最も嫌われた男」)、スティーヴ・カレル(「フォックスキャッチャー」)、ローレンス・フィッシュバーン(「マトリックス」)。いずれもキャリアを重ねてきたベテラン役者だけに、熟練の演技を見せている。

そして、セリフが秀逸だ。リンクレイター監督の映画は、移動しながらセリフをやり取りする場面が多いのだが、そのセリフが抜群に面白い。おかげで3人の旅は爆笑珍道中だ。3人のキャラを生かした笑いが次々に飛び出す。まるでトリオ漫才のようである。同時に深みのあるセリフも散りばめられ、心にジンワリとくる場面があちこちに用意されている。

3人はかつての軍隊生活で楽しい思い出を共有し、それを懐かしく思っている。その一方で、政府の言いなりになって過酷な戦場に放り込まれ、そこで多くの仲間を失ってもいる。ドクはあることから刑務所にまで入っている。そうしたことから、過去を忌み嫌ってもいる。その相反する2つの思いが、さらにドラマに深みを与え、哀愁を漂わせる。まさに熟年ならではの年輪が醸し出す味わいである。

そして、この映画は笑いや懐かしさだけでなく、シビアな現実も突きつける。かつての3人の過酷なベトナム戦争の経験、そしてドクの息子のイラク戦争での戦死。さらに、ドクの息子は戦場で英雄的に死んだわけではなく、実は悲惨な死に方をしていたことがわかる。それを知ったドクは、アーリントン墓地への埋葬を拒否して、遺体を故郷に連れて帰ることにする。それが3人の旅の発端なのである。

そうやって戦争の恐ろしさをあぶりだすだけでなく、9.11以降のアメリカの息苦しさも映し出す。ドクたちは最初はトラックを借りて遺体を運ぼうとするのだが、そこで当局からテロリストと間違われてしまう。そのため、改めて列車で旅をすることになるのだ。

いくつかの脱線もありながら、ドクの自宅のあるポーツマスを目指す3人。その間にそれぞれの心理が少しずつ変化し、昔の絆を取り戻していく。もちろんお互いに年をとり失ったものもたくさんあるが、それでも前を向こうとする。

ベトナム戦争中に心に引っかかっていたある出来事にも落とし前をつけた3人は、ついにドクの家に着く。ラストには心を揺さぶる仕掛けが用意されている。静かな余韻を残すエンディングだが、そこにはほろ苦さも漂う。

繰り返しになるが、こういう映画ができるのも年輪のなせる業だろう。3人のベテラン俳優たちの演技、リンクレイター監督の味わい深い語り口によって、単なる旧友再会映画とは違う魅力を持つ作品になっている。感傷や郷愁はもちろん、それ以外にも様々な余韻が感じられるはずだ。まさに熟成した味わいを持つ映画である。

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◆「30年後の同窓会」(LAST FLAG FLYING)
(2017年 アメリカ)(上映時間2時間5分)
監督:リチャード・リンクレイター
出演:スティーヴ・カレルブライアン・クランストンローレンス・フィッシュバーン、J・クィントン・ジョンソン、ユル・ヴァスケス、シシリー・タイソン
*TOHOシネマズシャンテほかにて公開中
ホームページ http://30years-dousoukai.jp/