映画貧乏日記

映画貧乏からの脱出は可能なのだろうか。おそらく無理であろう。ならばその日々を日記として綴るのみである。

「ワンダー 君は太陽」

ワンダー 君は太陽
ユナイテッド・シネマとしまえんにて。2018年6月15日(金)午前11時40分より鑑賞(スクリーン5/F-13)。

涙腺が決壊する基準は人それぞれだろうが、それでも大半の観客の涙腺を決壊させてしまう映画がある。難病モノもその一つだ。困難な現実に直面した難病を抱えた主人公が、健気にそれを乗り越えていく姿が涙を誘う。

全世界で800万部以上を売り上げたというR・J・パラシオのベストセラー小説を映画化した「ワンダー 君は太陽」(WONDER)(2017年 アメリカ)の予告編を観た時にも、絶対にそういうタイプの映画だと確信した。観客を泣かせにかかる仕掛けが、波状攻撃のように押し寄せるに違いない。そう予想したのである。

だが、実際は違っていた。確かに泣けるのは泣けるのだが、押し付けがましさはまったくない。しかも、単に難病の主人公を描くだけでなく、より幅広い人々のドラマになっていたのである。

主人公は10歳の少年、オギー(ジェイコブ・トレンブレイ)。最初に彼の独白によって、生まれてから今日までの経緯が紹介される。オギーは、遺伝性の難病でこれまでに27回も手術をしてきた。日常生活は普通に送れるが顔に障がいが残ったこともあって、幼い頃から母イザベル(ジュリア・ロバーツ)と自宅学習を続けてきた。彼が宇宙飛行士のヘルメットをかぶっているのは、宇宙飛行士に憧れているという理由もあるが、それ以上に他人に顔を見られたくないからである。

そんな中、イザベルは夫ネート(オーウェン・ウィルソン)の反対を押し切って、5年生の新学期からオギーを学校に通わせることを決意する。

登校前の夏休みに、オギーは学校へ顔を出す。そこには優しく理解ある校長先生がいた。また、3人の同級生が案内役として学校の中を案内してくれた。上々の学校生活の滑り出しに見えたのだが……。

登校初日、オギーに対して多くの生徒が好奇の目を向ける。からかい程度で露骨なイジメなどはないのだが、そこには厳然として壁が存在する。それに対してオギーは戸惑い、傷つく。それはそうだろう。今までは優しい両親と姉のヴィア(イザベラ・ヴィドヴィッチ)に囲まれていたのだから。

こうして何度も困難な目に遭いながら、オギーは少しずつそれを乗り越えて成長していく。そんな彼の学校生活の光と影の両面を瑞々しく描いていく。彼が好きな「スター・ウォーズ」のチューバッカを出現させたり、宇宙飛行士になったオギーを登場させるなど、ファンタスティックなシーンもある。もちろん、彼を支える両親と姉の姿も生き生きと描かれる。

過剰な描写はまったくない。センスの良いユーモアに満ちた会話が展開していく。それらを通して、オギーと家族、それぞれの様々な心模様が、スクリーン越しにそこはかとなく伝わってくるのである。

しかし、まあ、オギーを演じたジェイコブ・トレンブレイの巧みな演技ときたら。2015年の「ルーム」で外の世界を知らないままに育った子供の役を見事に演じていたが、今回も出色の演技である。ただ可愛いだけでなく、オギーの心理の揺れ動きをきちんと表現している。

彼を見守る母親役のジュリア・ロバーツ、父親役のオーウェン・ウィルソンのツボを押さえた演技も見逃せない。

そして、この映画で最も驚かされたのが、オギーだけのドラマではないところだ。途中で何度かオギー以外が主人公になったドラマが描かれる。それは姉ヴィア、その友達のミランダ、オギーと最初に友達になったジャスティンなどのドラマだ。

例えば、姉ヴィアのドラマを描くパートでは、一家の生活がいつもオギーを中心に回り、常に「良い子」でいなくてはならなかった彼女の苦悩が綴られる。そして、高校で新たな出会いやチャレンジを重ねて、成長していく姿も描かれる。

そうなのだ。この映画は難病を抱えたオギーだけでなく、その周囲の人々の苦悩と成長もくっきりと刻まれた映画なのだ。それぞれのパートだけで1本の映画ができそうなぐらいの中身の濃いドラマである。

正直なところ、あまりにもきれいごとすぎる世界のようにも思える。本物の悪人は出てこないし、定番と呼べるような展開も多い。だが、観ているうちはそれも気にならない。いや、むしろ、この映画にはその方がふさわしく思えてくるのである。

ラストの修了式でのシーンも素晴らしい。例の校長先生が、実に良い味を出している(世の中、こういう先生ばっかりならいいのに)。そしてオギーのはじけんばかりの笑顔。これで感動できない人はいないのではないだろうか。

監督は瑞々しい青春映画「ウォールフラワー」(2012年)のスティーヴン・チョボスキー。演出もそうだが、共同で手掛けた脚本が実に秀逸な作品だ。

「人を見た目で判断するな」とか「ありのままを受け入れて前を向け」とか、この映画がら受け取れるメッセージはいくらでもありそうだが、そういうことに関係なく、実に温かくて心地よい世界が存在する映画なのだ。「良い映画を観たなぁ~」という感慨にふけることができたのである。

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◆「ワンダー 君は太陽」(WONDER)
(2017年 アメリカ)(上映時間1時間53分)
監督:スティーヴン・チョボスキー
出演:ジュリア・ロバーツオーウェン・ウィルソン、ジェイコブ・トレンブレイ、マンディ・パティンキンダヴィード・ディグス、イザベラ・ヴィドヴィッチ、ダニエル・ローズ・ラッセル、ナジ・ジーター、ノア・ジュープ、ミリー・デイヴィス、ブライス・ガイザー、エル・マッキノン、ソニア・ブラガ
*TOHOシネマズ日本橋ほかにて全国公開中
ホームページ http://wonder-movie.jp/