映画貧乏日記

映画貧乏からの脱出は可能なのだろうか。おそらく無理であろう。ならばその日々を日記として綴るのみである。

「菊とギロチン」

「菊とギロチン」
2018年6月18日(月)ユーロライブでの特別試写会にて

6月18日、渋谷・ユーロライブにて、7月7日からの公開を前に映画「菊とギロチン」の特別試写会が行われた。

「菊とギロチン」(2017年 日本)は、「64 ロクヨン」「友罪」などの瀬々敬久監督の作品。オリジナル企画としては「ヘヴンズ ストーリー」以来8年ぶりとなる。以前にも書いたと記憶しているが、オレもこの映画にほんの少しだけ製作費をカンパした。そして、この日初めて完成作品を鑑賞する。それゆえ期待と不安が入り混じった気持ちで、試写会に臨んだのだった。

時代は大正末期、関東大震災直後の日本だ。ある日、東京近郊に女相撲の一座「玉岩興行」がやって来る。その中には力自慢の女力士に交じって、元遊女の十勝川韓英恵)や家出娘など、ワケありの女たちも集っていた。

そこに加わっていたのが、新人力士の花菊(木竜麻生)である。彼女は貧しい農家の嫁だったが、夫の暴力に耐えかねて家出して女相撲に加わったのだ。そして、「強くなって自分の力で生きたい」という一心で厳しい練習を重ねていた。

一方、その興行を見にやってきたのが、中濱鐵(東出昌大)と古田大次郎寛一郎)らアナキスト・グループ「ギロチン社」の若者たちだ。最初は面白半分に女相撲を観ている彼ら。だが、その真剣な闘いに魅了されていく…。

結論から言えば期待以上に面白い映画だった。3時間9分の長さをまったく感じさせなかった。その最大の理由は、アナキスト無政府主義者)と女相撲を結びつたアイデアにある。もともと瀬々監督は「ギロチン社」の若者たちを描きたかったようだ。

しかし、さすがにそれだけでは劇映画としては厳しい。彼らは個性的な面々ではあるが、メチャクチャな行動も多く、何よりテロを起こすことを目的としている。そこには映画的な華やケレンはない。ドラマ的な厚みにも欠ける。

そこで瀬々監督が目をつけたのが女相撲だ。日本にはかつて女相撲の興行が存在していた。時代や組織によって内容は玉石混交だったが、この映画に登場する山形発祥の「玉岩興行」のように、真剣に相撲に取り組む女力士たちもたくさんいたようだ。この女相撲アナキストを結び付けることで、映画は大きな化学変化を起こした。ドラマに厚みが生まれ、多彩な彩りが加えられたのである。

アナキストたちは、資本家を脅して金を略奪し、それを女と酒に注ぎ込んでいた。師と仰ぐ思想家・大杉栄が殺害されると、その復讐を画策するためにこの地に流れ着いていた。それでも相変わらずの迷走状態。ずさんな計画で事件を起こしたり、仲間割れを起こしたり。うわっ滑りの言動が目立つ。

そんな彼らが女相撲に魅了され、興行の宣伝を手伝うなど彼女たちと行動を共にするようになる。抑圧された女たちの真っ直ぐな生き様が、生半可な日々を送っていた男たちの背中を強烈に押したのだ。そして、自らも目的に向かって力強く行動していく。この構図が実に痛快だ。その中では、中濱と十勝川、古田は花菊との心の通い合いなども描かれる。

おびただしい数の人物が登場する群像劇だ。過去にも様々な群像劇を手がけてきた瀬々監督。そして3時間超の長さ。それでも、さすがに十分には描き切れていない人物もいる。

だが、本作にはそれを凌駕するものがある。それは破格のエネルギーだ。構想30年という瀬々監督の思い、それを全力で支えるスタッフたち、それらを受けて真剣に演技に向き合ったキャストたち。彼らのパワーが一体となってスクリーンのこちら側に伝播する。熱い魂に直撃される映画なのだ。

それを端的に表すシーンがいくつもある。劇中で中濱の「やるなら今しかない!」という叫びは、熱い思いを持つ若者の痛切な叫びであると同時に、困難な中で本作の製作を始めた瀬々監督やスタッフの思いでもあるのだろう。古田と倉知という2人の若者が、爆弾を炸裂させたのちにお互いの心情をぶつけ合うシーンも印象深い。これまた熱い魂が感じられるシーンである。

そうした熱さは観客にもきっと伝わるはずだ。自由を求めた若者たちが、もがき、苦しみ、反逆し、前を向いていく姿に大きな刺激を受けることだろう。そういう意味で、観客の背中を押す映画ともいえそうだ。朝鮮人虐殺の話をはじめ、今の時代にシンクロする要素もたくさんある。それだけに今こそ観るべき映画だと思う。

青春映画としての魅力にも満ちている。若者たちの光と影の両面がキッチリとらえられている。浜辺で女力士たちと中濱たちが踊り狂うシーンの輝きは、まさに青春の爆発だ。だが、そんな彼らが時代に翻弄され、運命を狂わされ、大きな挫折を味わうことになる。

そうなのだ。本作は、息苦しさと不穏さを漂わせる今の時代を直撃する映画であるのと同時に、時間も空間も越えた普遍的な青春ドラマでもあるのだ。

木竜麻生、東出昌大寛一郎佐藤浩市の息子)、韓英恵をはじめ、脇役に至るまですべての役者が存在感を放っているのもこの映画の魅力だ。特に、日大相撲部に指導を受けたという女力士を演じた女優たちの本気度が素晴らしい。

ラストシーンに漂うのは哀感だ。だが、そこには清々しさも感じる。力の限り闘った若者たちの姿が心地よい余韻を残してくれる。そして、「お前は何をやってるんだ!」と怠惰なオレを一喝してもくれたのである。

ちなみに、この日の特別試写会は、おもに製作費をカンパした人や、宣伝費のクラウドファンディングに参加した人などを対象としたもの。上映後には、瀬々監督をはじめ木竜麻生、東出昌大などのキャストも多数出席して舞台挨拶が華やかに行われた。

本作のエンドクレジットには、支援者として私の名前も載っている。それを見て、支援してよかったと改めて思った次第である。まさしく力作!!

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◆「菊とギロチン」
(2017年 日本)(上映時間3時間9分)
監督:瀬々敬久
出演:木竜麻生、東出昌大寛一郎韓英恵、渋川清彦、山中崇井浦新大西信満嘉門洋子大西礼芳山田真歩嶋田久作菅田俊宇野祥平、嶺豪一、篠原篤、川瀬陽太永瀬正敏(ナレーション)
*7月7日よりテアトル新宿ほかにて公開。全国順次公開予定
ホームページ http://kiku-guillo.com/

 

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