映画貧乏日記

映画貧乏からの脱出は可能なのだろうか。おそらく無理であろう。ならばその日々を日記として綴るのみである。

「グッバイ・ゴダール!」

グッバイ・ゴダール!
新宿ピカデリーにて。2018年7月21日(土)午後1時45分より鑑賞(シアター4/D-10)。

~世界的映画監督の結婚生活を赤裸々にユーモアを込めて描く

ジャン=リュック・ゴダールといえば、言わずと知れた世界的な映画監督。「勝手にしやがれ」や「気狂いピエロ」をはじめ、既成の概念を覆す数々の斬新な作品を送り出し、“ヌーベルバーグ”の旗手となった。

そのゴダールの2人目の妻となったアンヌ・ヴィアゼムスキーの自伝的小説を「アーティスト」のミシェル・アザナヴィシウス監督が映画化したのが「グッバイ・ゴダール!」(LE REDOUTABLE)(2017年 フランス)。

舞台となるのは、1968年のパリ。世界中から注目される映画監督ジャン=リュック・ゴダールルイ・ガレル)だが、鮮烈にデビューして映画界を席巻した頃の勢いはない。そんな中、哲学科の学生アンヌ(ステイシー・マーティン)と出会い、彼女をヒロインに抜擢して新作「中国女」を撮る。

アンヌは、それまで全く縁のなかった新しい仲間たちと映画を作る刺激的な日々を送る。そして、ゴダールからプロポーズを受け結婚する。この時、ゴダール37歳。アンヌ19歳。ゴダールはもちろん、祖父にノーベル賞作家を持つアンヌも世間の注目の的で、メディアに追いかけられながら新婚生活を送る。

そろそろ老いを意識し始めたゴダールが、若々しい心と体を持つアンヌにのめりこんでいく。芸術家とミューズとの関係ではよくあることだが、それでもなかなか面白い。ゴダールはいまも健在。しかも世界的な映画監督。それでもアザナヴィシウス監督は、まったく遠慮がない。彼らとアンヌの関係を赤裸々に見せていく。まあ、芸能マスコミ的な視点からいっても面白いドラマなわけですよ。

作風もけっこう大胆。シニカルなタイトルの章分けをして、テンポよく描いていく。映像をはじめ様々な工夫もあちこちにあって、例えば2人が愛を交わすシーンを、モノクロで顔のアップだけ(口だけとか)で見せていくなど、ユニークなシーンの連続。さすが白黒映像&サイレントが特徴的な「アーティスト」で、アカデミー賞を獲得した監督だけのことはある。

そして、この映画は全編にユーモアがあふれている。ゴダールときたら、その言動は自由奔放。というか、無茶苦茶だ。日常とか普通ということが大嫌いで、わざと後ろ向きに歩いたりする。その常識外れでエキセントリックな言動が、いちいち笑えてしまうのだ。

年の差カップルのゴダールとアンヌだが、それ以外にも背負ったものが全く違う。アンヌはいわばセレブ育ち。それゆえ、自分とは全く違うゴダールの世界に興味を持ち、刺激的な日々を送るわけだが、それもずっとは続かない。最初のうちは、ゴダールの立場が完全に上で、先生と生徒のような関係だから波風が立たないのだが、時間とともにアンヌが成長していくと、2人の間には少しずつ亀裂が生まれてくる。

それに拍車をかけるのが当時の時代背景だ。パリでは学生を中心とした反体制運動、いわゆる「五月革命」が盛んになり、連日デモや集会が行われる。ゴダールはそれに影響されて、どんどん運動にのめりこんでいく。アンヌも行動を共にするのだが、あまりにも極端なゴダールの言動に違和感を持つようになる。

やがてアンヌは、友人の映画プロデューサーのミシェル・ロジエ(ベレニス・ベジョ)から、カンヌ国際映画祭へ行こうと誘われる。共通の友人が監督する作品が選ばれたので、その応援をしようというのだ。だが、現政権下での映画祭開催が気に入らないゴダールは、映画祭を中止すべきだと主張する。

結局、アンヌはゴダールに反抗してカンヌに行くが、映画祭は中止になってしまう。帰りの車の中でゴダール、アンヌ、仲間たちは大激論を交わし、車中は険悪な雰囲気になる。

このシーンがなかなか秀逸。どうやら一発撮りだったらしいが、まるでアドリブのようなやり取りが展開。これが、ある種の喜劇のようでクスクス笑えてしまうのだ。それにしてもゴダールは本当に厄介な人物である。

終盤、アンヌはイタリアの奇才マルコ・フェレーリ監督から新作の出演依頼を受ける。だが、ゴダールは「裸が多い」とかなんとか言って反対する。

このあたり、もはや世間によくあるガンコなオッサンだ。さらに、アンヌが撮影中のイタリアに駆けつけて「浮気してるんじゃないか?」と疑うあたりは、ただの嫉妬深い夫でしかない。この一件が、とんでもない事態を招き、まもなく2人は離婚してしまう。

何だかゴダールをコケにしているような映画にも思える。しかし、テンポよくユーモアで包んでいるから嫌な気分にはならない。むしろゴダールほどの天才でも、あまりにも人間臭い側面があることで、安心させられる人も多いのではないだろうか。アザナヴィシウス監督のゴダールを見る視線には、強烈な毒を含む一方で、温かさも失っていないのである。

ラストで描かれる“ジガ・ヴェルトフ集団”による新しい映画作りなど、当時の映画作りの空気感も感じられる。そういう点でも、興味深い映画といえるだろう。この映画を観て、ゴダールの映画をまた観たくなる人も多そうだ。

ゴダールを演じたルイ・ガレルが実にいい味を出している。そして、アンヌを演じたステイシー・マーティンのコケティッシュな魅力も見逃せない。ありゃあ、ゴダールでなくても惚れてしまいますな。新星誕生かも。

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◆「グッバイ・ゴダール!」(LE REDOUTABLE)
(2017年 フランス)(上映時間1時間48分)
監督・脚本:ミシェル・アザナヴィシウス
出演:ルイ・ガレルステイシー・マーティンベレニス・ベジョ、ミシャ・レスコー、グレゴリー・ガドゥボワ、フェリックス・キシル、アルトゥール・アルシエ、
新宿ピカデリーほかにて公開中。全国順次公開予定
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