映画貧乏日記

映画貧乏からの脱出は可能なのだろうか。おそらく無理であろう。ならばその日々を日記として綴るのみである。

「若い女」

若い女
ユーロスペースにて。2018年8月27日(月)午後12時15分より鑑賞(ユーロスペース2/D-9)。

~面倒で痛い女がいつの間にか魅力的に見える不思議

若い女」って身もふたもない邦題だなぁ~。しかし、中身はなかなかにユニークで面白い映画なのだ。

冒頭からビックリのシーンが登場する。一人の女がある家の前で大声でわめき、悪態をつき、ドアに頭をぶつけて額をケガする。

続いて、またしてもこの女がわめき散らし、悪態をつくシーンが映し出される。相手は運ばれた先の病院の医師だ。だが、彼女の話には脈絡がない。どう考えても情緒不安定だ。そのため彼女は一晩入院させられる。

いったい何なのだ? この女は。

彼女の名前はポーラ(レティシア・ドッシュ)。31歳。10年付き合った年上のカメラマンの恋人に捨てられ、家を追い出されてしまったのだ。病院を出た彼女は再び恋人の家に向かう。中に入れろと激しく怒鳴る。だが、相手にされないと悟ると、たまたま家の外にいた恋人の飼い猫を連れて行ってしまう。

そんなポーラを観ていると。「コイツ、面倒で、嫌な、痛い女だなぁ~」とつくづく思ってしまう。それどころか、「これじゃあ、恋人に捨てられてもしょうがいなかも……」なんてことまで思ってしまうのだ。

主人公をこんなふうに描いていいのか? だが、心配は無用。観ているうちに、次第にポーラに対する印象が変わってくるはず。

お金も家も仕事もないポーラは、猫を抱えてパリの街を転々とする。パーティーに潜入して飲み食いしたり、他人の家に泊めてもらおうとしたり。だが、口の悪さに加え猫を連れていることもあって、知人宅からも安宿からも追い出されてしまう。

このあたりも、ポーラのメチャクチャな行状が目立つ。相変わらず彼女は、痛い女のままなのだ。だが、その後は、雰囲気が少しずつ変化してくる。彼女の多様な表情がチラチラと見えてくるのである。

特に印象的なのが母親との一件だ。母親とは疎遠だったポーラだが、頼る場所もなく仕方なく接近を試みる。だが、母親はポーラを断固として拒否する。明確な説明は一切ないが、おそらく両者の間には相当なことがあったのだろう。

そうやって落ち着く場所もなく、ふらふらとパリの街をさまよう彼女の疲れた表情を観ているうちに、現在のような状況に陥ったのにも、それなりの理由があったに違いないと感じるようになる。そして、ポーラだって繊細さや弱さを持ち合わせていることが見えてくるのだ。そうした中で、さすがに同情とまではいかないが、最初の方の彼女に対する嫌悪感はやわらいでくるのである。

やがてポーラは、住み込みのベビーシッターのバイトを見つけ、同時にショッピングモールの下着店でも働くようになる。ベビーシッターのバイトでは、最初は生意気な子供に手を焼くが、少しずつ心を通わせていく。そこには、その子供にかつての自分をだぶらせているようなポーラの視線も感じられる。

一方、下着店の仕事では、同僚の男性と知り合い、猫を預かってもらうなどして距離を縮めていく。

こうして新たな人生を歩み出したかに見えたポーラだが、その先には思いもよらぬ運命が待っている。そこで彼女は難しい決断を迫られることになる。

終盤になる頃には、最初とは違ってポーラが魅力的に見えて、共感したり、応援したくなってくる。エキセントリックで幼稚な彼女だが、それでも彼女なりに一生懸命に生き、悩み、苦しんでいることが理解できるからだ。

劇中で、ある人物がポーラのことを「野生の子ザル」と表現する。それがまさに言い得た妙だ。何よりも、子ザル並みの凄まじいエネルギーで動き回り、前に突き進む彼女の姿に好感が持てる。もちろん、それが暴走につながることもあるわけだが。

映画のラストでは、ポーラの自立と前進をクッキリと印象付ける。恋人との別れをきっかけに、彼女は確実に成長し、これからは自らの手で人生を切り拓いていくのではないか。そう思わせるラストである(それとは対照的に、男のみっともなさも見えたりして・・・)。

レオノール・セライユ監督は、本作で2017年のカンヌ国際映画祭のカメラ・ドール(新人監督賞)を受賞した。一見極端に思えるポーラの行動にウソ臭さがないのは、そこに監督自身の経験が投影されているからではないだろうか。

主演のレティシア・ドッシュの演技も素晴らしい。カメラに向かって話す一人芝居的な場面もあったりして、多様な演技を披露しているのだが、いずれのシーンでも繊細な感情表現が見られる。何よりも、最初の頃の表情と終盤の表情の変化が見事だ。不思議な魅力を持つ女優だと思う。

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◆「若い女」(JEUNE FEMME)
(2017年 フランス)(上映時間1時間37分)
監督・脚本:レオノール・セライユ
出演:レティシア・ドッシュ、グレゴワール・モンサンジョン、スレマン・セイ・ンジャイェ、ナタリー・リシャール、レオニー・シマガ、エリカ・サント、オドレイ・ボネ、ジャン=クリストフ・フォリー、フィリップ・ラスリー
ユーロスペースほかにて公開中。全国順次公開予定
ホームページ http://www.senlis.co.jp/wakai-onna/