映画貧乏日記

映画貧乏からの脱出は可能なのだろうか。おそらく無理であろう。ならばその日々を日記として綴るのみである。

「search/サーチ」

search/サーチ
TOHOシネマズ新宿にて。2018年11月6日(火)午後2時50分より鑑賞(スクリーン5/F-11)。

~すべてのドラマがPC画面上で展開する! 異色のサスペンス・ミステリー

東京国際映画祭の最中は、一般の映画館に足を運ぶことができず、レビューもストップしていたわけだが、ようやく今回から再開です。

その一発目の作品は、「search/サーチ」(SEARCHING)(2018年 アメリカ)。突然失踪した娘を必死で探す父親のお話。この構図自体は、サスペンス・ミステリーとしてけっして珍しいものではない。だが、本作はとびっきり変わった映画である。

冒頭に登場するのはパソコン画面(OSはWindows)。そこに様々な映像が映し出される。それは主人公一家の過去を記録したもの。デビッド(ジョン・チョー)と妻、そして幼い娘マーゴットの楽しそうな生活が登場する。マーゴットは順調に成長する。だが、妻はまもなく重い病にかかる。それでも家族は明るさを失わず、妻の病も一時は回復する。だが、残念ながら再発し、亡くなってしまう。

以上はすべてがパソコン画面の映像で描かれたエピソードだ。「うーむ。味なことをするわい。でも、ここから先は普通にドラマが展開するんだろうな」と思ったら大ハズレ。何とビックリ。これ以降のドラマも、すべてがパソコン画面の映像で描かれるのだ。つまり、本作は最初から最後まで、パソコン画面の映像のみでドラマが進行するのである。

妻の死からしばらくして、デビッドは16歳の女子高生になったマーゴット(ミシェル・ラー)と暮らしている。だが、ある日、マーゴットは父にFaceTimeで勉強会に行くと伝えたきり姿を消してしまう。最初はそれほど気にしていなかったデビッドだが、彼女がピアノのレッスンを半年前に内緒でやめてしまったことなどを知り不安になる。

マーゴットの行方はまったくわからず、デビッドは警察に失踪届を出し、担当刑事のヴィック(デブラ・メッシング)が捜査を開始する。

デビッドはヴィックと連絡を取りながら、今度はマーゴットのパソコンにログインする。手がかりを求めて、ツイッターFacebookInstagramなどあらゆるSNSを探り、娘の交友関係を洗い出そうとする。するとそこには、明るくて友人の多い優等生と思い込んでいた娘とは別の姿があった。デビッドは衝撃を受けるとともに、不安と焦燥感が高まっていく。

当然ながら、それらもすべてパソコン画面の映像のみで描かれる。SNS以外にも、検索サイト、YouTube、メッセージアプリ、スカイプ通話やショートメッセージ、地図ソフト、監視カメラなど、あらゆるデジタルツールが使われる。例えば、必死で娘を探すデビッドの姿もパソコンのカメラで映し出されるのだ。

その効果は絶大だ。パソコン画面上という限定された空間。そこに観客の視線は否が応でも集中させられる。余計な事を考えずにドラマに入り込めるから、自然にスリルが倍加していくのである。何という意表を突いたアイデア!!

監督のアニーシュ・チャガンティは弱冠27歳のインド系の新人監督。過去にも、スマホやパソコンなどのデジタル世界を効果的に使った映画は存在したが、ここまで徹底的に、そして効果的に使用した映画は観たことがない。

まあ、「すべてがパソコン画面上」という縛りにこだわるあまり、終盤にたびたび登場するテレビのニュース番組までパソコン上で表示するのは、やや不自然な感じもしたが、その程度は許容範囲かもしれない。実際に、最近はテレビを持たない人も多いようだし。

さて、事件の顛末だが、捜査を進めるうちにヴィック刑事は「マーゴットは逃亡したのではないか」と言い出す。彼女はピアノのレッスン料を貯め込んで、それをどこかに送金していた。だが、デビッドは娘が逃亡したなどとは信じられずに、さらに独自に調査を続ける。その結果、マーゴットがかつて配信した映像からある場所を割り出し、デビッドはそこに急行する。

そこから先は二転三転する予測のつかない展開が待っている。ネタバレになるので詳しくは伏せるが、デビッドの身近な意外な人物の疑惑が浮上し、その後はまた意外な事実が明らかになる。

とはいえ、「なるほどこれで一件落着か。しかし、何だかモヤモヤするなぁ」と思ったのはオレだけではないだろう。デビッドにとっても、そこで出された結論はモヤモヤしたものだった。

それが一挙に解消するのが、その後のさらなる大どんでん返しによってだ。まさか、まさかのあの人が!!! 観客は確実にカタルシスを味わえるはずだ。

同時に、そこでは巧妙に張られてきた伏線が見事に回収されている。だから、不自然さはあまり感じない。ここに至って、「PC画面のみ」という仕掛けだけでなく、脚本自体がサスペンス・ミステリーとしてなかなか充実したものであることがわかる。

そこには、父と娘の葛藤のドラマも刻まれている。母の死以降、何の問題もなく暮らしているように見えた父と娘だが、そこには大きな壁が存在していた。それが波乱の事件の顛末を経て和解へと向かったことが、最後の最後に確認できるのである。

また、デジタルツール満載の映画ということで、本作にはデジタル社会の光と闇もクッキリと刻まれている。パソコン前に陣取っただけで様々な情報を取得できる半面、バッシングやなりすましなど危うい側面も垣間見える世界。まさに、今の時代ならではの作品といえるだろう。

父親役の「スター・トレック」のジョン・チョー、娘役のミシェル・ラーなどアジア系俳優を中心人物に据えたのも、最近のハリウッド映画らしい傾向といえるかもしれない。やっぱりこれは、今の時代ならではの映画なのである。

◆「search/サーチ」(SEARCHING)
(2018年 アメリカ)(上映時間1時間42分)
監督:アニーシュ・チャガンティ
出演:ジョン・チョー、デブラ・メッシング、ジョセフ・リー、ミシェル・ラー
*TOHOシネマズ日比谷ほかにて全国公開中
ホームページ http://www.search-movie.jp/